【広島県議会】✍参院選の現金供与<辞任ドミノ>止まらず
河井夫妻、地盤外に手厚く現金配布か「広島3区」分の2.4倍
産経新聞 2020年6月29日(月)22時43分配信
昨年7月の参院選をめぐる買収事件で、公職選挙法違反容疑で逮捕された前法相で衆院議員、河井克行容疑者(57)と妻で参院議員、案里容疑者(46)は、広島県内の首長と地元議員計40人に現金1680万円を提供したとみられる。うち克行容疑者が選出された衆院広島3区内の15人への総額は490万円にとどまり、約2・4倍の1190万円が他地域に配布された。東京地検特捜部などは、夫妻が地盤のない地域に手厚く配り、票の取りまとめの依頼に奔走した可能性もあるとみている。
《重点地区は安芸高田市、安佐(あさ)北区、安佐南区沼田町、呉市、福山市》。参院選終盤の昨年7月17日、案里容疑者は「アンジー」の登録名で、無料通信アプリ「LINE(ライン)」の陣営内グループにこんなメッセージを送信した。
安芸高田市と広島市安佐北区・安佐南区は克行容疑者が地盤とする広島3区内。案里容疑者は周囲に、克行容疑者について「選挙に弱い」と漏らしていたといい、地盤を固める狙いがあったとみられる。
広島市議で現金を配布された疑いのある13人のうち、6人が安佐北区と安佐南区の選出。安芸高田市でも当時県議で現市長の児玉浩氏のほか、市議3人にも現金を渡すなど、広島3区内で細かく気を配っていたことがうかがえる。
だが、永田町関係者はこう語る。「参院選は県内全体が選挙区。夫妻はこれまで安佐南区を中心に活動してきただけに、地盤の外で票を集めるため、いっそう現金に頼ったのだろう」
今回、現金を配布された疑いのある県議14人のうち、克行容疑者の地盤のない広島3区外の選出議員が11人を占めたのだ。
県内では自民党岸田派(宏池会)の勢力が強く、昨年の参院選では、多くの自民党系地元議員が案里容疑者の競合候補だった溝手顕正(けんせい)・元国家公安委員長を支援していた。
ある県政関係者は現金を配布された県議について「夫妻と交流が少ないはずの人も含まれているが、多くはかつて案里容疑者と同じ会派に所属するなど『どちらかといえば親しい』県議だ」と語る。
溝手氏は平成25年の参院選で、2位当選の2倍以上の52万票超を得て圧勝するなど、強い支持基盤を持っていた。克行容疑者らが“現金攻勢”で広島3区外の溝手氏の支持基盤を切り崩そうとしたとみられる。
広島3区外の配布先をめぐっては、首長や議員計40人の中で2番目に多い150万円を受領し、辞職の意向を示した三原市の天満(てんま)祥典市長(73)は、克行容疑者のブログに親しげな写真が掲載されるほど「熱心な支持者」(陣営関係者)だった。克行容疑者が同市生まれとはいえ、夫妻にとって地盤外の貴重な存在だったようだ。
40人の中で最高額の200万円を受け取った疑いのある元広島県議会議長の奥原信也県議(77)も選挙区は広島3区に含まれない呉市。広島市議13人の中で最高額の70万円を受け取ったとみられる市議も広島3区外の選出だった。
一方、県内で広島市に次いで人口の多い福山市を地盤とする現職議員は、広島3区外でありながら、現在判明している配布先には含まれていない。ただ、関係者によると、元県議2人と、選挙時に案里容疑者の福山事務所を貸すなどした支援企業の代表の計3人にそれぞれ60万円が渡った疑いがあるという。
当時の陣営関係者は「案里容疑者は福山市で公示当日に集会を開くほど力を入れていた。全面支援してくれる現職県議がいなかったので、元職の力を頼ったのかもしれない」と話す。
河井前法相から150万円、三原市長「市民を裏切る行為」詫び、辞任
読売新聞オンライン 2020年6月30日(火)11時48分配信
昨年7月の参院選を巡る大規模買収事件で、衆院議員の河井克行・前法相(57)(自民党を離党)から計150万円を受け取っていた広島県三原市の天満祥典(よしのり)市長(73)が30日、辞職した。この日午前の臨時市議会で、全会一致で同意された。
克行容疑者や妻の案里参院議員(46)(同)から現金提供された疑いのある広島県内の地方政治家40人の中で辞職するのは、安芸太田町長だった小坂真治氏(71)、府中町議だった繁政秀子氏(78)に続き3人目。
市議会で、天満氏は「市民を裏切る行為で大変申し訳ない」と謝罪。当初、授受を否定していたことについて、理由などは語らず、「職を辞することで責任をとる」と述べた。
辞職に伴う市長選は8月2日に告示、9日に投開票される。
河井前法相の直筆か 「県議に現金」 復数枚のメモ押収-検察当局
時事通信 2020年6月28日(日)7時26分配信
昨夏参院選をめぐる公選法違反事件で、買収容疑で逮捕された衆院議員の前法相、河井克行容疑者(57)=自民離党=の関係先から、広島県議らへの現金提供を示唆する手書きのメモが押収されていたことが27日、関係者への取材で分かった。
克行容疑者の直筆の可能性があるという。東京地検特捜部は買収を裏付ける重要な物証と位置付け、記載内容を精査しているもようだ。
関係者によると、押収されたメモは複数枚あり、今年1月、克行容疑者と参院議員の妻、案里容疑者(46)=同=の広島市内の地元事務所や自宅などを家宅捜索した際に見つかった。県議らの名前と提供したとみられる金額が手書きされており、記載内容などから、克行容疑者が直筆したとみられるという。
1月の捜索では、手書きメモのほか、県議や地元首長、後援会幹部ら現金配布先をまとめた2種類の「買収リスト」が押収されている。
検察当局は、いずれも買収を裏付ける重要な物証とみて、政界捜査の経験が豊富な特捜部の投入を決めたとみられ、3月、それぞれの記載に基づいて県議らを一斉聴取。今月18日、克行容疑者を計94人に対する総額約2570万円の買収容疑で、案里容疑者を、うち5人に対する計170万円について克行容疑者と共謀した容疑で逮捕した。
関係者によると、克行容疑者は調べに対し、地元議員らへの現金提供を「地盤固めの政治活動だ」などと供述。後援会幹部らへの現金については、「活動に掛かった実費や報酬」などと主張し、買収目的を否定している。案里容疑者も「違法なことをした覚えはない」と否認しているという。
「安倍4選」たった4カ月賛否逆転 自民支持層の急な「心変わり」
withnews 2020年6月30日(火)7時00分配信
安倍晋三首相の自民党総裁としての任期は、2021年9月までです。新型コロナウイルスへの対応が焦点になった通常国会が閉会し、政界の関心は安倍首相の後継争い「ポスト安倍」レースに移りつつあります。朝日新聞の全国電話世論調査を分析すると、自民支持層の心変わりが見えてきました。
自民支持層、「安倍4選」賛否拮抗→反対が過半数に
自民党総裁の任期は党則で連続3期までと決まっています。ただ自民内には、この党則を変えて、安倍首相に4期目も続けることを支持する声もあります。朝日新聞の世論調査では、この「安倍4選」について、次のように定期的に聞いています。
◇
■ 自民党総裁の任期は、自民党の決まりで、連続3期までになっています。あなたは、この決まりを変えて、安倍首相が4期目も続けることに賛成ですか。反対ですか。
【全体】
2019年12月 賛成(23%)/反対(63%)
2020年2月 賛成(25%)/反対(60%)
2020年6月 賛成(19%)/反対(69%)
【自民支持層】
2019年12月 賛成(43%)/反対(46%)
2020年2月 賛成(46%)/反対(43%)
2020年6月 賛成(36%)/反対(54%)
*その他・答えないは省略――*調査方法=コンピューターで無作為に電話番号を作成し、固定電話と携帯電話に調査員が電話をかけるRDD方式。2019年12月21・22日、2020年2月15・16日、同年6月20・21日に、全国の有権者を対象に調査した。有効回答数と回答率は以下の通り。2019年12月固定1001人49%/携帯979人44%、2020年2月固定1118人51%/携帯1038人45%、同年6月固定1035人52%/携帯1030人47%。
◇
「安倍4選」について、全体では反対がつねに賛成を大きく上回っています。これに対し、自民支持層は2019年12月と2020年2月の調査で賛否が割れていたのが、4カ月後の2020年6月の調査では反対54%が賛成36%を上回りました。
自民支持層で「安倍首相離れ」がじわりと進んだ背景には、今年2月以降に深刻化した新型コロナへの政府対応がありそうです。
コロナ禍の政府対応「評価しない」一時高まる
朝日新聞の調査では今年2月以降、以下のように聞いています。
◇
■ あなたは、新型コロナウイルスをめぐる、これまでの政府の対応を評価しますか。評価しませんか。
【全体】
2月 評価する(34%) 評価しない(50%)
3月 評価する(41%) 評価しない(41%)
4月 評価する(33%) 評価しない(53%)
5月 評価する(30%) 評価しない(57%)
6月 評価する(38%) 評価しない(51%)
【自民支持層】
2月 評価する(47%) 評価しない(39%)
3月 評価する(61%) 評価しない(23%)
4月 評価する(56%) 評価しない(34%)
5月 評価する(51%) 評価しない(37%)
6月 評価する(59%) 評価しない(31%)
*その他・答えないは省略*調査方法=RDD方式。2020年2月と6月以外は、3月14・15日、4月18・19日、5月23・24日に実施した。2020年2月と同年6月以外の有効回答数と回答率は以下の通り。3月固定1170人53%/携帯1190人50%、4月固定1111人56%/携帯1106人52%、5月固定1187人57%/携帯1186人52%。
◇
新型コロナへの政府対応をめぐっては、全体と異なり、自民支持層では「評価する」が「評価しない」をつねに上回っていました。とはいえ、横浜港に停泊していて感染が拡大した大型クルーズ船への対応が批判された2月と、コロナ禍にもかかわらず検察庁法改正案の成立を急いだ政権に対してツイッターなどで批判が広がった5月の調査では、自民支持層でも「評価しない」が4割近くに高まりました。
6月調査では、自民支持層の「評価する」は6割近くに盛り返しました。ただ自民支持層の内閣支持率は2月調査の78%から見ると、6月調査では69%に下がっています。コロナ禍での政府対応に対する自民支持層の一定の不満が、「安倍首相離れ」の背景の一つにあるのかもしれません。
ポスト安倍レースはなお混迷
安倍首相は「4選」について、6月18日の記者会見で「全く考えておりません」と述べています。では、安倍首相の次の首相である「ポスト安倍」について、自民支持層はどう考えているのでしょうか。
◇
■ あなたは、次の自民党総裁として、だれがふさわしいと思いますか。
(2019年9月)→(2019年12月)→(2020年2月)→(2020年6月)
【全体】
石破茂=(18%)→(23%)→(25%)→(31%)
小泉進次郎=(22%)→(20%)→(14%)→(15%)
河野太郎=(8%)→(8%)→(8%)→(9%)
菅義偉=(8%)→(6%)→(5%)→(3%)
岸田文雄=(6%)→(5%)→(6%)→(4%)
茂木敏充=(3%)→(1%)→(1%)→(1%)
加藤勝信=(1%)→(1%)→(1%)→(0%)
この中にはいない=(27%)→(29%)→(32%)→(31%)
【自民支持層】
石破茂=(14%)→(22%)→(22%)→(29%)
小泉進次郎=(21%)→(20%)→(17%)→(17%)
河野太郎=(12%)→(12%)→(10%)→(12%)
菅義偉=(12%)→(9%)→(8%)→(5%)
岸田文雄=(8%)→(8%)→(8%)→(7%)
茂木敏充=(3%)→(3%)→(2%)→(1%)
加藤勝信=(1%)→(1%)→(1%)→(0%)
この中にはいない=(20%)→(20%)→(26%)→(23%)
*その他・答えないは省略。敬称略――*調査方法=RDD方式。2019年9月の調査は14・15日に実施し、有効回答数と回答率は固定1010人50%/携帯914人42%。
◇
同じ選択肢で行った2019年9月から今年6月の計4回の調査では、自民支持層の「ポスト安倍」トップは19年12月以降、全体と同じように、つねに石破茂氏でした。石破氏の支持率は19年9月の14%から今年6月の29%に上がりました。ほかの候補の支持率が軒並み伸び悩んでいるのとは対照的に、石破氏の人気ぶりがうかがえます。
とはいえ、「ポスト安倍」レースは、「石破1強」とも言いきれません。自民支持層の「この中にはいない」がつねに2割台で推移しているためです。「安倍首相離れ」が進みながらも、安倍首相の「次」が絞り切れていないという自民支持層の心の内を現しているようにも見えます。
「ポスト安倍」には、どんな人がふさわしいか―。同じ記者会見で問われた安倍首相は、2019年12月のBSテレ東の番組収録で岸田、茂木、菅、加藤4氏の名前を列挙した時とは異なり、こう答えるだけでした。
「(自民党総裁の)任期が1年3カ月残っており、全力を尽くす。後継者は育てるものではなくて育ってくるものだ。自民党は人材の宝庫。地味に成果を出していく人もいれば、うまく発信をされている方もいるのだろう。その立場立場で頑張って頂きたい」
後継をめぐる安倍首相の心の内はどうなのでしょうか。今後も「ポスト安倍」レースの行方に目が離せません。
河井夫妻逮捕Xデー…その時検察は動いた!容疑者寵愛の安倍晋三と 次の総理選び
PRESIDENT Online 2020年6月23日(火)11時16分配信/麹町文子(ジャーナリスト)
■ 6月18日のXデーに何があったのか
法務行政トップだった人物を検察当局が捜査対象にした前代未聞の事件は6月18日、ついに「Xデー」を迎えた。昨年夏の参議院選挙で初当選した河井案里参議院議員をめぐる買収事件で、案里氏と夫の河井克行前法相が公職選挙法違反(買収)の疑いで逮捕されたのだ。河井夫妻は容疑を否認しているが、検察側は起訴までもっていく「鉄の意志」があるとされ、吹き荒れる検察不信を払拭していく強い覚悟を持っているようだ。捜査の行方はさておき、今回は「Xデー」を迎える中でドタバタと進む動き、水面下で繰り広げられる政局に注目したい。そこにある魑魅魍魎の世界とは――。
この事件が注目される理由は、単なる選挙違反事件ではない点にある。今後の展開次第では安倍晋三政権のみならず、戦後日本を政権与党として牽引してきた自民党政治にとって大ダメージとなるほどの事案なのだ。まずは、ことの発端を振り返っておきたい。
昨夏の参議院選挙で定数2の広島選挙区から自民党2人目の候補者として出馬した案里氏は、夫の克行氏と二人三脚で選挙戦に臨み、事前の予想を覆す形で議員バッジを手にした。その余波で落選したのは自民党岸田派の重鎮、溝手顕正氏だった。
■「プライドが高く、自分はとにかく『できる人間』と思っている」
溝手氏は自民党参院議員会長や国家公安委員長などを歴任した当選5回の大物で、「安倍1強」時代にあって安倍晋三総理への批判を公言する「武闘派」としても知られる。だが、総理官邸サイドは党広島県連の反対を押し切って案里氏を擁立し、案里氏と溝手氏の支援レベルは「10倍近い差」(自民党関係者)をつけた。案里氏には菅義偉官房長官が選挙応援に駆け付けるなど異例のバックアップ態勢をとっている。
その理由は「反安倍色」が強い溝手氏を踏み台にしてでも「親安倍」「親菅」の案里氏を当選させたいとの思いがあったからだ。夫の克行前法相は、菅官房長官の側近中の側近で、菅氏を支える「菅グループ」の筆頭格だ。参議院選挙の前に改元を発表し、「令和おじさん」と人気が急上昇した菅官房長官は飛ぶ鳥を落とす勢いで「(広島選挙区から)2人も出すのは馬鹿げた話」(溝手氏)との反対論を封じた。参議院選挙後の昨年9月には内閣改造で法相に克行氏をねじ込んでもいる。克行氏はどのような人物なのか。かつて所属した派閥「平成研究会」を担当した全国紙政治部記者は「プライドが高く、自分はとにかく『できる人間』と思っている。気に食わないことがあると怒り、権力者にはすり寄る」と評する。
■ 前法相を逮捕する異例が起きるまで…
すでに長期政権となっていた安倍政権で法相に就任し、「我が世の春」がついに訪れたと思っていたことだろう。だが、就任直後に週刊文春による「文春砲」が炸裂し、わずか1カ月半でのスピード辞任に追い込まれた。ちなみに、この10月にはもう1人の「菅グループ」の中心である菅原一秀経済産業相にも「文春砲」が直撃し、その有権者買収疑惑によって辞任を余儀なくされている。内閣改造後1カ月で閣僚2人が辞任するということだけでも異様だが、ともに菅官房長官が入閣を後押しした「菅グループ」の中心人物だったというから驚きだ。安倍総理と菅官房長官との間に生まれた「亀裂」はこの時期から始まったとされ、政権中枢の最終決定ラインは「安倍―菅」から「安倍―今井尚哉総理補佐官」に移った。
「官邸の守護神」とまで言われた東京高検の黒川弘務前検事長の定年延長を特例的に認める閣議決定がされたのは今年1月だったが、その黒川氏も5月の「文春砲」で産経新聞記者や朝日新聞社員との「賭けマージャン疑惑」を報じられ、辞任。菅氏が推していた検察幹部の定年を延長する検察庁法改正案は頓挫し、「黒川検事総長」は幻に終わった。この人事をめぐって法務・検察不信は高まり、黒川氏の後任の林真琴東京高検検事長や稲田伸夫検事総長らは政権との距離を見直すとともに、法務行政のトップだった克行前法相の逮捕に踏み切る「GOサイン」を出すに至っている。
■「ポスト安倍」選びは菅官房長官の動向が鍵を握る
政治日程を考慮し、当初は東京都知事選の告示日であり、安倍総理が通常国会閉会を受けた記者会見を行う6月18日の逮捕は避けるとの見方もあったが、もはや政治のことは関係ないと突破するあたりに検察サイドの強い意志を感じる。お隣の韓国では昨年末、文在寅大統領の最側近である法相に対する検察の捜査が耳目を集めたが、その構図は対岸の火事とはいかない惨めな結末である。
話を元に戻そう。一連の辞任劇と立件を見れば「政権ナンバー2」の菅官房長官が狙い撃ちにされ、自民党内での「菅包囲網」が形成されていくようにも映るが、それは必ずしも当たらない。確かに「令和おじさん」ともてはやされた時期に比べ、菅官房長官の人気は党内外で低下したが、依然として「ポスト安倍」選びは菅官房長官の動向が鍵を握るためだ。
■ 実は“菅さん慕う面々”は細田派に次ぐ勢力
河井夫妻は逮捕されたものの、もう1人スピード辞任した菅氏側近の菅原前経産相は今年1月の「雲隠れ」から一転、6月16日に急遽記者会見し、選挙区内で香典を秘書が配るなど公選法に抵触する事例があったことを認めて謝罪。東京地検特捜部は任意聴取したものの、刑事責任を問うかどうかは慎重に判断するとみられている。河井夫妻の逮捕で菅官房長官への遠心力は一時的に働くとみられるが、今でも50人以上の無派閥議員の多くは菅原氏を中心に「菅官房長官を慕う面々」(自民党中堅議員)とされる。単純に計算すれば、それは100人近い議員が所属する自民党最大派閥の細田派に次ぐ勢力を意味する。
菅官房長官が最近、親密な関係を築いている二階俊博幹事長が率いる二階派(48人)を加えれば細田派を上回る最大勢力といえ、「ポスト安倍」選びでは決して無視できない存在なのだ。安倍総理が「政界屈指の政治的技術を持つ」と評する二階氏は、ここのところ次の政局をにらんだ動きを加速している。
今回の河井夫妻をめぐる公選法違反事件では、党本部から案里氏陣営に約1億5000万円が提供された疑惑が報じられているが、二階氏は「支部立ち上げに伴い、党勢拡大のための広報誌を複数回、全県に配布した際の費用に充てられたと報告を受けている」「言われているような買収に使うようなことはできないのは当然だ」と一蹴。その一方で、今月16日に麻生太郎副総理兼財務相、同17に菅官房長官とそれぞれ会食し、9月には「ポスト安倍」の有力候補である石破茂元幹事長の政治資金パーティーで講演することも快諾した。
■ トップとナンバー2が「ガチンコ対決」
二階氏は17日の記者会見で「現政権が任期いっぱいお務めになることを幹事長として補佐していきたい」と述べ、幹事長続投に意欲を示したとも報じられるが、自民党内からは来年9月に任期満了を迎える安倍総理(党総裁)に代わる自民党総裁選を大幅に前倒しすべきとの声もあがっている。それは事実上の「安倍おろし」であり、安倍政権の屋台骨を支えてきた菅官房長官と二階氏が仮に賛同すれば、その実現可能性は一気に高まる。
「菅官房長官を中枢ラインから外した安倍総理とその周辺への怒りは残っていないといえば嘘になる」。菅氏に近い自民党議員の視線は、すでに次期総裁選に向く。安倍総理は岸田文雄政調会長への「禅譲」を志向しているが、菅氏や二階氏はその路線から距離を置いており、次のトップリーダー選びは安倍政権のトップとナンバー2が「ガチンコ対決」となるのが必至だ。河井夫妻の逮捕で号砲が鳴った「ポスト安倍」政局。4年間の任期満了まで1年ちょっとになった衆議院議員たちのざわめきは「アウト・オブ・コントロール」状態にある。安倍総理は退陣して年内に自民党総裁選を実施するのか、それとも衆議院解散・総選挙を断行して正面突破で再浮揚を狙うのか。いずれにせよ、もはや信を問うべきタイミングである。
河井夫妻逮捕で事件概要が判明! 辞職しなければ議員報酬支給継続
DIAMOND online 2020年6月23日(火)6時01分配信/戸田一法(ジャーナリスト)
昨年7月の参院選を巡る選挙違反事件は、法相を経験した国会議員夫婦の逮捕に発展した。現職の衆院議員が妻を当選させるため、地元有力者に現金を配って回っていたとされる異例の事件。それぞれの秘書が逮捕・起訴された後も説明責任を果たさず、ダンマリを決め込んだ前法相の河井克行衆院議員(広島3区)と案里参院議員(広島選挙区)だが、公職選挙法違反(買収)容疑での逮捕で概要がほぼ判明した。自民党を離党したものの、議員バッジは着けたまま塀の向こう側に落ちた2人。辞職か失職しない限り、議員報酬は支給され続ける。
● 影響力で配布した現金に差額
夫妻の逮捕容疑は案里容疑者を当選させるため、共謀して昨年3月下旬~6月中旬ごろ、5人に投票や票の取りまとめを依頼する目的で計170万円の現金を渡した疑い。
また克行容疑者は単独で昨年3月下旬~8月上旬ごろ、91人に対して116回にわたり、計約2400万円の現金を渡した疑いが持たれている。
容疑内容の現金を渡した相手は重複しており、実際に受け取ったとされるのは94人。半数近くが議員や自治体の首長、半分以上が後援会の幹部や地元の有力者だった。
全国紙社会部デスクによると、数回にわたって計100万円以上を受領した人物も複数おり、最高で総額200万円前後とされる。
当然と言えば当然だが、配布先の影響力によってランク付けされていたようで、県議は30万円。市議は10万~20万円で、ベテラン市議には県議並みの30万円が配布された。
自治体首長では安芸太田町長(当時)が現金20万円を受け取ったとして「道義的責任を取って」辞職。後援会幹部らには5万~10万円が配られていた。
逮捕許諾が不要な国会の閉会(今月17日)を待って、満を持して翌日の18日に逮捕状を執行した検察当局。
16日に広島地裁で有罪判決が言い渡された案里容疑者の公設秘書に対する捜査は広島地検が担ったが、夫妻の事件は東京地検特捜部が主体となって行われた。
● 消去データ復元とGPSで特定
事件が浮上したのは昨年10月。前述した秘書らの買収疑惑が週刊誌で報じられ、克行容疑者は法相を辞任。秘書が今年3月、逮捕・起訴された。
秘書の公判では検察側が「(秘書が)自己の裁量で支払方法を決め……」と指摘したが、弁護側は「金額を決めた主犯者が特定されておらず、立証が不十分」と反論。
筆者は(公判と夫妻に対する捜査が同時進行だから、検察側は公判段階では「主犯」を隠しておきたいのだな)とみていた。そう、主犯とは克行容疑者のことだ。
秘書の事件を巡っては、ウグイス嬢に対して法定上限を超える報酬を支払った買収の罪に問われたわけだが、関係者は「選挙のお金に関することは全て克行容疑者が決めていた」と口をそろえていたからだ。
一般的に汚職や選挙違反の捜査は極秘裏に進められるが、週刊誌の報道が先行した影響で、広島の地元メディアが検察当局の動きを追尾、または先回りして関係者に取材するという、ほぼ公開捜査の様相になった。
そうした中、今回の事件となった夫妻による現金配布の噂が囁かれ始める。同時に、当初は大阪の特捜部など西日本の検察が応援の中心だったが、加えて東京や名古屋の特捜部が大挙して応援に入り始めた。
何と言ってもターゲットは法務・検察のトップ経験者。万全を期して慎重に捜査を進めるのはいわずもがなで、経験豊富な精鋭が選抜されたという。
東京地検特捜部は1月以降、複数回にわたって夫妻の関係先を家宅捜索。その過程でパソコンやスマートフォンなどを押収し、消去されたデータを解析するデジタルフォレンジック(DF)という手法で復元した。
そして、地元議員や後援会幹部らの名前や金額を記載した詳細なリストが浮かび上がる。検察官らは色めき立った。リストをもとに、人海戦術によるローラー作戦が決定された。
夫妻から押収したスマホからGPSの位置情報、カーナビの履歴、議員らから任意で提出を受けたスマホのGPS記録と照合し、現金受け渡しの時間や場所を特定。
議員らに対する聴取で「克行容疑者のGPSを調べた。約20分、事務所にいたことが分かっている」「リストに渡した金額が書いてある」と追及すると、次々に現金授受を認めていった。
● 証拠隠滅、故意性に違法の認識
克行容疑者は「不正なことはしていない」、案里容疑者は「違法な行為をした覚えはない」といずれも容疑を否認しているという。
現職の国会議員が逮捕されたケースは少なくないが、いずれも逮捕直後に容疑を認める例はほとんどない。しかし、捜査当局も相手が国会議員で、杜撰な捜査をするはずもなく、無罪になるという例もまずない。
それでは、両容疑者の言い分が通る可能性はどれぐらいあるのか。
詳細な弁解録取を聞いたわけではないので、現時点での筆者の取材ベースではあるが、弁護側が検察側の積み重ねてきた証拠を突き崩すのは困難と思われる。
さらには公判で悪質と判断されそうな内容もみられ、克行容疑者は実刑の可能性さえあるのではないかという気さえする。
前述のリストに関してはパソコンからデータを消去していたが、これは明らかに証拠隠滅が目的だろう。
パソコンだけでなく、克行容疑者は選挙戦を取り仕切っていたが、運動員にLINEで伝えていた指示の送信内容も消されていた。
また、参院選に関連する書類の一部がシュレッダーにかけられていたことも判明。東京地検は、この中に買収工作に関わる内容が含まれているかどうか調べているとみられる。
犯行の「故意性」も強く感じられる。克行容疑者は現金を提供した際、議員らに領収書を求めず、むしろ拒否していた形跡がある。
もし政治献金(寄付)の意図だったならば、むしろ領収書の発行を求め、政治資金収支報告書などの「支出」欄に記載するとともに、領収書も添付しなければならない。
受領した側の議員らも「収入」欄に記載が必要で、領収書の発行を申し出たのに「いいから」と受け取らなかったという。
東京地検に聴取された議員らは「案里容疑者が公認を受けたのであいさつしたい」と訪問を受けて現金が渡されたため、投票と票の取りまとめを依頼する意図があると感じていたという。
そのため東京地検は、克行容疑者は政治資金として適切に処理する意思がなく、違法性を認識していたとみている。
平たく言えば、買収工作の意図があり、後ろめたいから闇で処理しようとしていた疑いがあるということだ。
そして何と言っても、前代未聞の約2570万円という巨額の選挙違反事件であることが「実刑」の決定打になるのではないだろうか。
● 支払われ続ける歳費と経費
広島県の政界を混乱のどん底に突き落とし、日本国中に政治不信をばらまいた憲政史上に残る汚点といえるこの事件。しかし夫妻とも、国会議員を辞職するつもりはさらさらなさそうだ。
しかし、逮捕されたとはいえ現職の議員。2人にはそれぞれ月額約104万円の歳費のほか、6月末には期末手当(ボーナス)約319万円が支払われる。
ほかにも文書通信・交通滞在費、立法事務費、政党交付金、給与秘書など、少なくとも月300万円前後がそれぞれ支給される。
そして、2人は有罪が確定すれば被選挙権を失い失職するが、それまでは歳費と期末手当、経費は支払われ続ける。
しかし、2人は逮捕・勾留され、今後も公判が続くため、当然ながら国会議員としての職務を全うできる身の上ではない。それでも自動的に多額の税金が、2人の口座に振り込まれ続けるのだ。
案里容疑者は県議1期目だった2006年12月の定例会で、藤田雄山知事(当時)の後援会幹部が逮捕された事件を巡り「知事、男らしくなさいよ。私が、もし広島県知事でしたら、恐らく辞職をしています」と迫った。
案里容疑者には皮肉なブーメランだが、国民全体が「辞職すべきはあなたたちだろう」と憤り、あきれ果てているのは間違いない。