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2020年10月24日 (土)

【耳学】ノーベル経済学賞2020受賞<オークション理論>とは何ぞや!?

 ノーベル経済学賞に電波オークション日本のTVは説明できない? 

J-CASTニュース 2020年10月22日(木)17時00分配信/高橋洋一(内閣官房参与)

 今年(2020年)のノーベル経済学賞は、アメリカのスタンフォード大学のポール・ミルグロム氏とロバート・ウィルソン氏の2人が受賞した。

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 その受賞理由を、スウェーデン王立科学アカデミーは「電波の周波数の割り当てなど、従来の方法では売ることが難しかったモノやサービスに使われる新たなオークションの制度設計を行い、世界中の納税者などの利益につながった」としている。

導入議論は以前からあったが...

 かつては世界各国とも、電波について誰に割り当てるべきかは政府が判断する「比較審査」方式がとられていた。しかし、政府がそれを適切に行える能力もないし、せいぜい既得権を作るのが関の山だ。

 というわけで、実務でオークション(入札)がとられてきたし、それとともに、学会での研究も進み、今回受賞したミルグロム氏やウィルソン氏も制度設計を行い、2G周波数オークションを成功させた。それは、3G以降に多くの国でのオークション導入につながったわけで、たしかに多くの国の納税者の利益になった。

 ところが、この受賞理由を、日本の地上波テレビはまともに説明できない。というのは、先進国で電波オークションを導入していないのは日本だけだ。今では、インド、タイ、台湾、パキスタン、バングラディッシュ等にも広がっている。

 もちろん、日本でも、議論は以前からあった。例えば、1995年行政改革委員会規制緩和小委員会などだ。筆者は、総務大臣補佐官として総務省に出向したこともあるが、そのとき、通信と放送の融合の研究会での議論を間近で見た。研究会の内外において総務省(郵政省)、携帯事業者・放送事業者など既得権者が強力に反対していた。

 もっとも、世界各国でオークションが導入されているのは、基本的に携帯電話の周波数帯への新たな割当だ。本来は放送事業者の周波数帯はあまり関係ないはずだが、なぜか放送関係者は、「電波オークション」と聞くと、条件反射し過剰反応する。「電波オークション」という言葉は、地上波では事実上禁句だ。

 国民共有財産を売るときには会計法では入札を原則としている。なのに、電波になると、その入札の要素が一切に無視されて割当が続けられてきたのは不思議だった。

ようやく法改正も、今後の設計制度次第に

 しかし、ようやく2019年に電波法改正で「価格競争の要素を含む新たな割当方式」が創設された。先進各国から20~30年以上遅れて、やっと電波オークションができうる制度になった。ただ、この改正で、入札の要素を入れられるようになったものの、その割合が1%なのか99%なのかは、今後の制度設計次第である。

 現状では、放送は、地上波テレビ用だけで470-710MHzで40チャンネル分も占めていて、貴重資源の利用方法としてはあまりにもったいない。

 いまさら放送のために電波オークションをしても、インターネット技術が進み安価に放送ができるようになったので、それほどのニーズはないだろう。むしろ、現時点では、5G導入に際して転用ニーズのほうが高いだろう。5Gの次の6Gも技術は似ているので、転用ニーズは今後10年程度もあるだろう。アメリカ、中国などではそうした動きになっているので日本もそれに対応していかなければならない。

++ 高橋洋一プロフィール高橋洋一(たかはし よういち) 内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「FACTを基に日本を正しく読み解く方法」(扶桑社新書)、「国家の怠慢」(新潮新書、共著)など。

 日本でされた電波オークション」がノーベル経済学賞受賞 

ニッポン放送 2020年10月24日(土)13時50分配信

 ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月20日放送)に数量政策学者の高橋洋一が出演。ノーベル経済学賞を受賞した「オークション理論」について解説した。

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ノーベル経済学賞~オークション理論

飯田)ノーベル経済学賞が出ました。授賞理由は「オークション理論の改善と新たな形式の発明」というものです。

高橋)90年代にあった話なので、古い原理なのですけれどね。総務省にいたときに電波オークションをやりたかったのですが潰されました。ノーベル賞授賞理由のときに「電波オークションによって、世界の納税者がみんな得をした」と解説していたのですが、残念ながら「日本を除いて」です。

飯田)1994年にアメリカで電波オークションをやったときに、今回受賞した2人の学者さんは実際の制度設計でなかに入っていたのですよね。

高橋)もちろんそうです。電波オークションはもともと会計法です。会計法というのは原則入札です。会計法から考えると、国民共有財産を入札するのはごく自然な話です。

飯田)電波と言われると電波法の方を思いますが、会計法の方なのですね。

高橋)国民共有財産ですから。それをどのようにやるかは随意契約してはいけなくて、原則入札です。そういう意味では、オークションというのは、まさしく会計法を具体化する手段です。

飯田)オークションと英語で言いますが。

高橋)入札ですよ。

飯田)電波オークションと一言で言っても、アメリカでやった方式とヨーロッパ各国でやった方式といろいろ違いますよね。

高橋)ざっくり言えば、入札は入札で一緒です。でも随意契約とはまったく違います。

飯田)新規参入を募った方が高い金額で売れたりしたところがあったけれども、一方でやっていたら途中で潰れてしまう会社が出て、市民に不利益が生じたのではないかと指摘する人もいますが。

高橋)随意契約とどちらがいいかという話です。オークションの方がミスが少なくまともです。随意契約で変なところに割り当てて、ずっと続いているよりはフェアでいいでしょう。だから会計法では入札しろと書いてあります。

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 ノーベル経済学賞受賞、最新オークション理論の活用を急げ 

JBpress 2020年10月21日(水)6時01分配信/坂井 豊貴(慶應大学経済学部教授)

 2020年10月12日午後6時45分。私はNHKの局内で、 経済部の人々と一緒に、ノーベル経済学賞の発表を待っていた。私の役目はその年の受賞者や受賞理由を説明することだ。我々はスウェーデンの発表会場が中継されるモニター画面を眺めている。会場にはまだ選考委員が到着していないが、すでに世界各国からの記者で熱気にあふれている。

 やがて記者会見に臨む選考委員会の少数名が、会場に入ってきた。いったい誰が来るのだろう。ああ、アンダーソンがいる。選考に深く関係した選考委員しか、この会場までは来ない。今年は遂にミルグロムだ。ミルグロムと同じく理論の実用化に注力するアンダーソンなら、偉大なる先駆者ミルグロムをどうしても選びたいだろうから。

 選考委員らが着席。すべての記者の雑談が止まり、会場は静まりかえった。走る緊張。選考委員長のフレデリクソンが受賞者と分野、そして受賞の理由を読み上げた。 オークション理論の発展と新方式の開発について、ポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンにノーベル経済学賞を授賞するとのことだ。会場には小さなどよめき。より専門的な内容についてアンダーソンが解説を始めた。きっと選考委員1年目の彼は、自分がなすべき仕事をできたことについて、一定の安堵と興奮を覚えているだろうと勝手に想像する。

 蓮實重彦は随筆「文学の国籍をめぐるはしたない議論のあれこれについて」で、「そもそも、ノーベル文学賞というものは、スウェーデン・アカデミーというあくまでお他人様が集団的に演じてみせる恒例の年中行事」だと呆れるように述べた(『随想』に所収)。おっしゃる通りである。そのうえで、このお祭りのような年中行事に、私を含む多くの経済学者は結構な関心をもつ。

 私が受賞できないことは申し訳ないのだが、自分の尊敬する学者や分野が受賞するのは嬉しいものである。さらにそこにはフェアネスへの関心まで伴う。「この人はもらうべきだ」「この人の貢献を認めないのはアンフェアだ」と思う人に、もらってほしいのだ。私にとってその人とはミルグロムであった。

ついに見識を示せた選考委員会

 2012年にアルヴィン・ロスとロイド・シャプレーがノーベル経済学賞の桂冠に輝いた。「安定配分の理論とマーケットデザインの実践について」という授賞理由であった。近年の経済学は、具体的な現実問題を解決する工学的アプローチが盛んになっており、その潮流を先導するのが、マッチング理論とオークション理論を両輪とするマーケットデザインである。

 なお、ここでいう「工学的」アプローチの対義語は、市場や人間活動の一般原理を探る「理学的」アプローチとなろう。個別具体的な問題を解決するよりは、一般理論を構築しようという態度は「理学的」である。

 これはあくまで私の感覚だが、2012年のノーベル賞は、明らかにミルグロムを外したものであった。マーケットデザインを授賞分野にするならば、工学的アプローチ自体のパイオニアのような、ミルグロムが入って然るべきである。しかも賞の定員は3人だから、彼を入れることは制度的に可能なのである。

 なぜこれまでミルグロムが外されてきたのか。邪推はいろいろと思い付くが、それを開陳するのは止めておこう。何であれ、賞というのは受ける側でなく、授ける側の見識が問われるものだ。遅くなりはしたが、ノーベル経済学賞の選考委員会は、一定の見識が備わっていることを今回の授賞で示せた。影響力ある賞が不見識だと社会的な害が大きいので、これは良いことである。

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周波数オークションでの新開発

 ここではミルグロム、そしてウィルソンの貢献の偉大さを簡単に説明したい。

 まず両者は1994年に始まった、米国における周波数オークションの制度設計者である。そこで彼らは「同時競り上げ式」という新方式を開発し、2013年までに8兆円を超す収益を国庫にもたらした。

 なお、このオークションは通信事業に必須の周波数免許を事業者に販売するものだ。日本は先進国でほぼ唯一、オークションではなく総務省が行政裁量で免許を割り当てており、周波数オークションはいまだ広くは知られていない。

 簡単に言うと、ミルグロムとウィルソンらは、「机と椅子を上手く売る方式」を開発した。机と椅子はバラ売りするほうがよいのか、セット売りのほうがよいのか、これは単純なようで難しい問題である。片方だけ欲しい客も、セットでないと欲しくない客もいるからだ。売る側としては、バラ売りとセット売り両方の可能性を最後まで捨てずに売りたい。

 そこでミルグロムとウィルソンは、「机と椅子を個別に競り上げ式オークションで売る、ただし両方の競り上げが止まるまではどちらのオークションも開きっぱなしにする」方式を開発した。細部はさておき、このような方式にすると、バラ売りで欲しい人も、セット売りでないと欲しくない人も、ともに入札に参加できる。

 周波数オークションでは、さまざまな地域や帯域の周波数免許があって、事業者はさまざまな組み合わせに対して「これは欲しい、これはいらない」と判断する。その状況は「机と椅子」だけよりも、ずっと複雑である。同時競り上げ式オークションはその複雑な状況で理想的に機能した。

 ミルグロムの著書『オークション理論とデザイン』(東洋経済新報社)は、原題を「Putting Auction Theory to Work」という。直訳すると「オークション理論を実際に機能させる」となろう。彼とウィルソンは、それまで理論家が紙と鉛筆だけで描いていたオークション理論を、社会に実装したのだ。

実用性を高めてきたオークション理論

 ウィルソンの有名な研究は、共通価値オークションについてのものである。従来、オークション理論で入札者は「自分にとって、この商品の価値はこの数値」といった価値づけをもつとされていた。これを「私的価値」という。一方の「共通価値」は「誰にとってもこの商品の価値はこの数値」といったものだ。例えば、ある地域の油田の採掘権は、共通価値である。誰がその地域で油田を採掘しても、出てくる石油の量は等しいからだ。

 さらにミルグロムは「相互依存価値」というものを考案した。これは私的価値と共通価値の両方を併せ持つもので、商品の価値は、各人にとっての私的な部分と皆で共通する部分からなる。土地は相互依存価値の典型例だ。土地の価値は、各人がその土地にもつ私的な愛着と、資産性という皆で共通する部分からなるからだ。

 私はデューデリ&ディールという会社でチーフエコノミストとして、土地をオークションで売却する事業に携わっている(*)。そこではオークション方式の設計や修正にオークション理論を活用しているが、相互依存価値モデルは、我々の考察の土台になっている。私の経験でいうと、ウィルソンやミルグロム以前のオークション理論は、あまりビジネスでの実用に耐えるものではない。土地や金融商品のように資産性がある商品は、金銭規模が大きいためオークション実施のメリットが大きいのだが、私的価値モデルでは扱えないからである。

経済学のビジネス活用は早いほど有利

 学問は、再現性や一般性をきわめて高く尊重する、特殊な人間活動である。その特殊性は非常にビジネスに向いている。まずは成功を再現したり、失敗を再現しないために、学問は有用である。そして、あるケースでの成功を、他の一般ケースに拡張するために有用である。

 正直に言うと私は「経済学やオークション理論が役に立つのか」といった議論には、いまは全く関心がない。そのようなステージはとうに終わっており、あとは使って利益を得るか、そのようにしないかを自分で選ぶだけだからだ。日本でも経済学のビジネス活用は脚光を浴びている。いまはアーリーアダプターが成果を上げ始め、より広い導入が進みつつある。富の源泉が、物資や工場といった有形資産から、知識や情報といった無形資産に変わる時代においては、起こるべくして起こっていることである。

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 (*)デューデリ&ディールでは「オークション・ラボ」というワークショップを定期的に開催し、オークション理論に関心のある来場者の方々と交流している。拙著『メカニズムデザインで勝つ ミクロ経済学のビジネス活用』(日本経済新聞出版)では、オークション・ラボの様子をまとめた。経済学のビジネス活用に関心ある方は、本記事と併せてお読みいただきたい。

 ノーベル経済学賞受賞は10人以上、「ゲーム理論研究者が多い 

ダイヤモンドオンライン 2020年10月11日(日)6時01分配信

 世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授として活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の新刊『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)が発売され、たちまち重版となり累計2万部を突破した。本書は、鎌田氏の専門である「ゲーム理論」のエッセンスが、数式を使わずに、ネズミの親子の物語形式で進むストーリーで理解できる画期的な一冊だ。

 ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。最先端の研究では高度な数式が利用されるゲーム理論は、得てして「難解だ」というイメージを持たれがちだ。しかしそのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものである。ゲーム理論のエッセンスが初心者にも理解できるような本が作れないだろうか? そんな問いから、『16歳からのはじめてのゲーム理論』が生まれた。

 各紙(日経、毎日、朝日)で書評が相次ぎ、竹内薫氏(サイエンス作家)「すごい本だ! 数式を全く使わずにゲーム理論の本質をお話に昇華させている」、大竹文雄氏(大阪大学教授)「この本は、物語を通じて人の気持ちを理解する国語力と論理的に考える数学力を高めてくれる」、神取道宏氏(東京大学教授)「若き天才が先端的な研究成果を分かりやすく紹介した全く新しいスタイルの入門書!」、松井彰彦氏(東京大学教授)「あの人の気持ちをもっとわかりたい。そんなあなたへの贈りもの。」と絶賛された本書の発刊を記念して、著者が「ダイヤモンド・オンライン」に書き下ろした原稿を掲載する。

ノーベル経済学賞とゲーム理論

 ゲーム理論がビジネスで実際に役立つ例は、グーグルやフェイスブックなど枚挙にいとまがない。そして、ゲーム理論を学ぶことは日常生活でより良い意思決定をするために一役買う。「ゲーム理論」の思考法を身につけていることは、現代ビジネスパーソンに必須であろう。

 しかしこのゲーム理論、学術的にはどう見られているのだろうか?

 ゲーム理論は数学の一分野であり、経済学・生物学・社会学・政治学など広い学問分野に応用先がある。中でも経済学とのつながりは密接だ。ゲーム理論家もしくはゲーム理論に関わる研究をした研究者にノーベル経済学賞が授与されたことがあることからも、これはよく分かる。(「ノーベル経済学賞」は正式には「アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞」と呼ばれるそうであるが、ここではそう固いことは言わずに、単に「ノーベル経済学賞」という呼称を使う。)

 本稿では、ノーベル経済学賞の歴史を通じてゲーム理論がいかに「重要理論」であるかを見ていこう。もちろんノーベル経済学賞の対象になったから必ず重要であるとか、そうでないから重要ではないということではないが、それでも同賞受賞は理論の重要性の一つの指標になるだろう。

 また、私自身経済学博士を持つゲーム理論家であるので、この「経済学」という切り口でなら、自信を持ってゲーム理論の重要性の説明ができる。さらに、今年(2020年)のノーベル経済学賞受賞者の発表は、明日(10月12日)である。明日の発表の前に、せっかくだから基礎知識をつけておこう。もしかしたら、今年のノーベル経済学賞はゲーム理論家に贈られるかもしれないから。

 ノーベル経済学賞が初めてゲーム理論家に与えられたのは、1994年のことだ。この年に、いわゆる「ナッシュ均衡」で知られるジョン・ナッシュ氏、そしてその「均衡」という概念をより現実的な状況の分析に対応できるように拡張することに成功したジョン・ハルサニ氏およびラインハルト・ゼルテン氏が、ノーベル経済学賞を受賞した。

 ナッシュ氏は『ビューティフル・マインド』というハリウッド映画でその半生が描かれたので、皆さんも聞いたことがあるかもしれない。

 彼らの受賞は大いにゲーム理論界隈を盛り上がらせた。もっと早くにゲーム理論家の受賞が決まってもよかったのではないかとの声もあったようだが、一説によると統合失調症を患っていたナッシュ氏の回復を待っての授与だったということだ。

 ナッシュ氏の前にゲーム理論への功績で他の誰かに受賞させるわけにはいかないほどナッシュ氏の功績は甚大であったので、ナッシュ氏の回復を待った、というわけだ。

 その後、堰を切ったかのように、数多くのゲーム理論家が同賞を受賞している。専門家によって誰をゲーム理論家と呼ぶか、もしくはどの年の受賞をゲーム理論と結びつけるかは見解の分かれるところだろうが、私の勘定では今のところ16人ものゲーム理論家もしくはゲーム理論に関わる研究をした人物がノーベル経済学賞を受賞している(記事末の[付録]にあるリストを参照)。

著者が出会ったノーベル賞経済学者たち

 なぜそんなにも多くの受賞者が出ているのか? それはひとえに、ゲーム理論が実に様々な社会状況の分析に応用できるということにあると、私は考える。ゲーム理論の守備範囲の広さを感じていただくために、受賞者のうちの何人かを、ここで簡単に紹介しよう。紹介するだけではつまらないかもしれないので、私が幸運にも直に接することのできた受賞者たちの素顔を、皆さまにもおすそ分けしたい。

 2005年にはロバート・オーマン氏およびトマス・シェリング氏が受賞した。特にオーマン氏はゲーム理論界の巨人であり、現代のゲーム理論に及ぼした影響は甚大である。受賞理由は人々の間の長期的関係の分析であるが、それ以外にも「知識」に関する数学的研究や、ナッシュ均衡を発展させた均衡概念(「相関均衡」という)の研究を通して、ゲーム理論の発展に大きく寄与してきた。

 彼の論文はどれも、私のようなより現代の研究者が読んでも示唆に富み、ワクワクするものだ。オーマン氏は私の学部生時代の指導教官の指導教官の指導教官の指導教官である。つまり学問上の曽々祖父にあたるわけだ。

 というわけで彼と学会で初めて話した時は非常に緊張したのを覚えている。間違えて「私はあなたの学問上のひ孫なんです」と自己紹介したら、「いや、ひひ孫だね」と訂正された。

 2012年にはアルヴィン・ロス氏とロイド・シャプレー氏がマッチング理論への貢献で受賞した。マッチング理論とは、新入社員を希望部署に配属させたり、研修医の配属先病院を決定したり、生徒の入学先学校を決定する際に使える理論であり、ここにもゲーム理論が役立つ。

 ちなみにロス氏は実験経済学にも多大な功績があり、シャプレー氏は協力ゲームと呼ばれる分野や人々の間の長期的関係の理論への貢献を通じゲーム理論黎明期を支えた重要人物である。

 また、ロス氏には私の博士論文審査委員になってもらい、大変お世話になった。ノーベル賞をもらうほどの研究者というとどこか性格的な欠陥がありそうだという先入観があるかもしれないが、彼は周囲からの信頼も厚く、「いい人」を絵に描いたような人格の持ち主であった。

 2014年にはジャン・ティロール氏が、「市場の力と規制についての分析」への貢献でノーベル経済学賞を受賞した。ティロール氏は特に、市場が限られた数の大企業で支配されている状況を分析したが、その分析にゲーム理論が使われたのだ。

 ティロール氏はこのように市場や規制といったゲーム理論の応用的分野での貢献でも知られるが、ゲーム理論を純粋理論として研究した成果でもよく知られている。

 彼は、応用ゲーム理論の話から純粋ゲーム理論の話まで、どんな研究アイディアの話をしても的確なコメントを返してくる、スーパーマンのような研究者だ。

 実は我が家族で南フランスはトゥールーズのティロール家を訪ねる機会があったのだが、これまたひどく緊張したものだ。もう8年も前のことだが、私の震える手でカチカチ鳴るティーカップの音が高い天井に響き渡ったのを、今でも覚えている。

 このように、経済学で重要とみなされている様々な分析に、ゲーム理論が活用されてきた。今年のノーベル経済学賞も、下馬評だと、実はゲーム理論家がもらう公算はそれなりに高そうだ。こんなゲーム理論が実際どんなものなのか、知っておいた方がいいと思いませんか?

 [付録]
 最後に、ゲーム理論関係のノーベル経済学賞受賞者リストを紹介する。丸括弧は、ゲーム理論関係ではない同時受賞者で、角括弧が、公式受賞理由である。受賞理由をそれぞれ丁寧に解説することはスペースの関係上できないが、ゲーム理論の守備範囲の広さを何となくでいいので実感していただければ、と思う。

 1994年: ハルサニ氏、ナッシュ氏、ゼルテン氏 [非協力ゲームの理論における均衡の先駆的分析に]
 1996年: (マーリーズ氏、)ヴィックリー氏 [非対称情報下での誘引の経済理論への基礎的貢献]
 2001年: アカロフ氏、スペンス氏(、スティグリッツ氏)[非対称情報下の市場の分析に]
 2005年: オーマン氏、シェリング氏 [ゲーム理論分析を通じて紛争と協調の理解を推し進めたことに]
 2007年: ハーヴィッツ氏、マスキン氏、マイヤーソン氏 [制度設計理論の基礎を築いた貢献に]
 2012年: ロス氏、シャプレー氏 [安定的な分配とマーケットデザインの実用に]
 2014年: ティロール氏 [市場の力と規制の分析に]
 2016年: ハート氏、ホルムストローム氏 [契約理論への貢献に]

※ 鎌田雄一郎(かまだ・ゆういちろう)
1985年神奈川県生まれ。2007年東京大学農学部卒業、2012年ハーバード大学経済学博士課程修了(Ph.D.)。イェール大学ポスドク研究員、カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院助教授を経て、テニュア(終身在職権)取得、現在同校准教授。専門は、ゲーム理論、政治経済学、マーケットデザイン、マーケティング。著書に『ゲーム理論入門の入門』(岩波新書)、『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)。

 

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