オモロ

2021年1月22日 (金)

【暗号資産】流出のNEM(ネム)「不正交換」容疑✍31人を立件

 ビットコイン急落の要因 イエレン発言とコインチェック暗号資産流出 

Yahoo!コラム 2021年1月22日(金)12時07分配信

 ビットコインは日本時間の8日の朝に、一時4万ドルを超えた。2017年につけた最高値の2倍以上になった。過剰流動性相場が暗号資産にも影響していたのかもしれないが、かなり投機的な動きであったことは確かである。

 ビットコインは名前にコインが付いており、当初は仮想通貨と呼ばれていた。しかし、これだけ値動きが激しいものは通貨とは呼べない。呼称も結局、暗号資産と改められた。しかし、これが金融資産といえるかどうかも怪しいところではある。投機対象物と見ざるを得ない。

 しかし、そのビットコインに代表される暗号資産には、別途利用価値があったようで、それが浮き彫りにされたのず、3年前のコインチェック暗号資産流出事件であった。

 NHKは22日に、「3年前、いわゆる仮想通貨=暗号資産の大手交換会社「コインチェック」から580億円相当の暗号資産が流出した事件で、警視庁がこのうちおよそ200億円分について、不正に流出したと知りながら別の暗号資産との交換に応じたとして、数十人を検挙していたことが捜査関係者への取材で分かりました。」と伝えた。

 3年前の2018年1月に暗号資産の大手交換会社「コインチェック」から「NEM」と呼ばれる暗号資産、およそ580億円相当が外部からの不正なアクセスを受けて流出した。

 その後、匿名性の高い闇サイトで通常より安い価格での交換が呼びかけられた。これは犯罪で得た資金を合法的なものに見せかける、いわゆるマネーロンダリングが目的であるのは明白で、不正に流出したと知りながら別の暗号資産との交換に応じた医師や会社役員など数十人が組織犯罪処罰法違反などの疑いで逮捕または書類送検された。

 一方、流出そのものに関わった人物の特定には至っていないようである。暗号資産は利用者の氏名など個人情報を登録した取引所を介さなければ、所有者や受け取り手を特定するのが難しく、匿名性が高いとされている。3年間もの間、人物の特定には至っていないこともそれを示す。それだけ犯罪に使われやすいものともいえよう。

 これに対して、米国の次期財務長官に指名されたイエレン氏は19日の議会公聴会で、、暗号資産(仮想通貨)に関わるマネーロンダリングやテロリストの利用等、犯罪に利用される点が課題だと指摘した。

 これを受けてバイデン米新政権が仮想通貨の規制を強める可能性が強まったとして、ビットコインが21日の取引で約10%程度も急落し、それにコインチェック暗号資産流出事件による検挙報道が追い打ちを掛けて、一時3万ドルの大台を下回ったとみられる。

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 NEM流出、不正交換容疑31人立件 主犯格不明 

朝日新聞デジタル 2021年1月22日(金)11時55分配信

 暗号資産(仮想通貨)交換業者のコインチェック(東京)が2018年1月、ハッキングされて約580億円分の暗号資産NEM(ネム)が流出した事件で、警視庁は22日、計約188億円分のNEMを別の暗号資産と交換したとして、これまでに6人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の収受)容疑で逮捕、25人を書類送検したと発表した。流出させた人物はわかっておらず、同庁は捜査を続ける。

 事件の発覚は18年1月26日。顧客の暗号資産を保管していた口座の「暗号鍵」がハッカーに盗まれてNEMが流出し、ウェブ上で約150の口座に入金された。発信元を追えない「ダークウェブ」上にNEMを別の暗号資産と交換する闇サイトが現れ、不正と知りながら交換する人が続出。約1カ月半でほぼ全てが交換された。

 サイバー犯罪対策課によると、これまでの捜査で、ハッカーがコインチェックの社員のパソコンをマルウェア(悪意あるプログラム)に感染させ、同社のネットワークサーバーに侵入したことがわかった。

 同社が提携していた海外の大学の関係者を装い、「あなたの暗号資産の記事を学術誌に掲載したい」といったメールを送信。テレビ会議への参加を要請し、メールに添付したマルウェアをダウンロードさせたという。

 警視庁がこれまでに立件した31人は東京、大阪、広島など13都道府県の23~43歳の男。認否は明らかにしていない。

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流出NEM交換容疑ダークウェブ188億円

共同通信 2021年1月22日(金)2時00分配信

 2018年に暗号資産(仮想通貨)交換業者「コインチェック」から約580億円分のNEM(ネム)が流出した事件で、警視庁は22日、盗まれたネムと知りながら他の仮想通貨に交換したとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の疑いで、これまでに13都道府県に住む23~43歳の男31人を立件したと明らかにした。

 逮捕は6人、書類送検が25人。交換額は流出時のレートで計約188億円としている。匿名性の高い「ダーク(闇)ウェブ」のサイトで取引し、最多の交換額は1人当たり約67億円で、最少は約3千円だった。

12月取引首位XRP、去年値上がりしたのはNEM

1/81/14 暗号資産ブロックチェーンNEWS

coindesk JAPAN 2021年1月15日(金)6時31分配信

ブロックチェーンコンテンツ協会が社団法人化

 ブロックチェーンコンテンツ協会は1月8日、社団法人化したと発表した。同協会は2020年2月、ゲーム、SNSなどのブロックチェーン上のコンテンツに係わる企業によって任意団体として設立された。

 社団法人化にあたって協会のガイドラインの改訂したほか、Open Contents Token共通仕様である「Oct-Pass」が当協会に移管されたことも明らかにした。「Oct-Pass」は、異なるアプリケーションやブロックチェーン間でNFTを相互利用することを目的として、協会会員のdouble jump.tokyo、CryptoGames、フィナンシェ 、スマートアプリがの4社が共同策定したもの。同協会が、仕様変更に関するパブリックコメント募集、仕様変更の承認、協会活動規模の拡大などを主導するという。

2020年12月の暗号資産取引ランキング 販売所ではXRPが首位──GMOコイン

 GMOコインが1月12日に発表した2020年12月の取引ランキングで、販売所ではXRPがシェア30.6%で首位となったことが分かった。12月はSECによるリップル提訴の影響で大きく注目された。

 このほか、取引所(現物取引)では、BTCがシェア50.6%で首位。取引所(レバレッジ取引)では、BTC/JPYがシェア91.6%で首位で、いずれも11月からの変動はなかった。

ビットコインの急落、デリバティブ取引のポジション整理が引き金に:市場関係者

 ビットコイン(BTC)の価格は週末にかけて大幅に急落した。デリバティブ市場で買い持ち(ロングポジション)していた一部のトレーダーがポジション清算に動き、現物市場の下げ圧力につながったようだ。

 ビットコインは一時、3万305ドルまで値を下げた。1月11日21時時点(協定世界時=日本時間12日6時)で、3万3277ドル付近で取引されており、過去24時間で10.9%下落した。

 価格は10時間移動平均線を上回っているが、50時間移動平均線を大きく下回っており、テクニカルチャートは横ばいから弱気を示している。

VISA、フィンテック企業買収を断念──米司法省の提訴を受けて

 米司法省(DOJ)は1月12日、米カード大手のビザ(Visa)が、フィンテック企業プラッド(Plaid)の買収を正式に断念したと発表した。同省は昨年11月、反トラスト法(独占禁止法)に違反しているとしてビザを提訴。ビザはオンライン・デビットカード市場を独占しており、消費者と加盟店の双方から毎年数十億ドルもの手数料を得ていると主張していた。

暗号資産市場、2025年までに5倍の3兆ドルに:米企業が予測

 暗号資産(仮想通貨)市場は、2025年までに5倍に成長し、3兆ドル規模になる。米デジタル資産金融会社のバックト(Bakkt)ホールディングスが予測した。

 バックトは1月12日、特別買収目的会社(SPAC)のビクトリー・パーク・キャピタル(Victory Park Capital)との合併による株式公開に関する投資家向け説明会を開催。その会の中で市場予想を発表した。発表文によると、合併により同社の企業価値は約21億ドルに達するとの見通しも明らかにした。

LayerXがクラウド請求書サービスを開始

 LayerXは1月13日、クラウドでの請求書処理業務を可能にする請求書AIクラウド 「LayerX INVOICE」の提供を開始すると発表した。同社は、紙の目視確認や手入力での処理が前提となっていた請求書処理が効率的になり、オンラインで業務を完結することができるとしている。

ダイが加わり、トロンが脱落:CoinDesk 20“銘柄”入れ替え

 昨年10月~12月期の暗号資産(仮想通貨)取引の活発化は、CoinDesk 20に1つの変化をもたらした。主要暗号資産をリストしたCoinDesk 20から、トロン(TRX)が脱落し、メーカー(Maker)のステーブルコイン・ダイ(DAI)が復活した。取引高の増加は、CoinDesk 20の暗号資産の中でもさまざまであり、この四半期に減少した暗号資産もある。だが、入れ替えはトロンのみだった。

 新しいCoinDesk 20は以下のとおりだ。

金融庁、リップルは証券ではないとの見解:報道

 金融庁は1月13日、暗号資産リップル(XRP)を証券とは考えていないとウェブメディアのThe Blockに述べ、発行元であるリップル・ラボ(Ripple Labs)を提訴した米証券取引委員会とは異なる見解を示した。

 The Blockによると、金融庁は、リップルは日本の法律下では証券としての要件を満たしていないと述べたという。

米暗号資産運用のグレイスケール、リップルの投資ファンドを廃止

 世界最大級の暗号資産(仮想通貨)運用会社、グレイスケール・インベストメンツ(Grayscale Investments)は1月13日、同社が運用するグレイスケール・リップル・トラスト(Grayscale XRP Trust)の廃止作業を開始したと発表した。

 グレイスケールは、暗号資産「リップル(XRP)」のポジション清算によって得られた現金は、出資者に分配する述べた。金額の詳細は明らかにしていない。

2020年最も値上がりしたのはネム──コインチェック2020年の利用動向

 コインチェックが1月13日に2020年のサービスの利用動向を公開、2020年の値上がり率No.1はネム、ビットコインは第3位になったこと、口座開設は11月、取引は12月に2020年の最大値を記録したことなどが分かった。

 同社によると、Coincheckで取扱っている暗号資産(14通貨)のうち、2020年で最も値上がり率が高かったのは「ネム(NEM/XEM)」。2020年末時点のネムの価格は20.099円を記録し、1年間で5.8倍と大きく値上がりした。

 同社は、2021年2月に処理速度の向上やセキュリティ強化を含む大型アップデートである「シンボル(Symbol/XYM)」のローンチを控えており、それに対する期待がネムの価格上昇の要因の一つであることがうかがえると分析している。

 このほか、ネムに次いで値上がり率が高かったのは「イーサリアム(ETH)」「ビットコイン(BTC)」で、2020年末の価格はそれぞれ2019年末の5.3倍、3.8倍を記録した。

 ビットコイン急落の理由欧米での売却アジアのレバレッジ取引バイデン政権 

coindesk JAPAN 2021年1月22日(金)12時11分配信

 ビットコインは21日午前中に再び値を下げ、ヨーロッパとアメリカの取引時間中に3万1000ドル付近まで下落。投資家は短期的な利益確定に走った。

 日本時間22日11時40分時点では3万600ドル付近、24時間で約11%、値を下げた。

欧米での大規模な売り

 韓国のデータサイト「クリプトクワント(CryptoQuant)」によると、アメリカとヨーロッパにおける売りの深刻さを示す1つの指標は、コインベース(Coinbase)のビットコイン/米ドル(BTC/USD)ペアと、バイナンス(Binance)のビットコイン/テザー(BTC/USDT)ペアの差、いわゆる「コインベース・プレミアム」だ。

 コインベース・プレミアムは21日4時17分(米東部時間=協定世界時9時17分)に、マイナス212.79ドルまで下落した。

「テザーとの小幅な価格差から、コインベースでは自ずと20ベーシスポイント(1ベーシスポイント:1万分の1)ほどバイナンスよりも高く取引されるはず。つまり、より低い価格で取引されている場合は、本当にきわめて弱気な状態を意味する」と、クリプトクワントのキ・ヨン・ジュ(Ki Young Ju)CEOはCoinDeskの取材で答えた。

 テザー(USDT)は、暗号資産(仮想通貨)業界で最大のステーブルコイン。裏づけとなっている米ドルと完全に同額ではないが、近い価格で取引されるテザーは、バイナンスやアジアの取引所の顧客にとって、ビットコインを取引するための人気の手段となっている。

アジアとアメリカの取引

 コインベース・プレミアムは21日、アジアの取引時間中に大幅なマイナスとなったが、これはアメリカのトレーダーが今回の反落に関係していないという意味ではない。

「アメリカのトレーダーは、アジアでの安値を見込んで取引しようとしている」と、暗号資産分析企業トレードブロック(TradeBlock)のジョン・トダロ(John Todaro)氏は話す。「プレミアムが下落した時間によっては、アメリカのトレーダーはそれを見越して売却したことを示す可能性がある」

 アナリストやトレーダーによると、今回のビットコイン下落の要因は複数あるという。つまり、特にアジアにおけるレバレッジの巻き戻し、市場に参入する買い手が枯渇しているという懸念、新しいバイデン政権の暗号資産政策についての不透明感などだ。

「機関投資家の売却もある程度はあったが、大規模なものではなかった」と、スイス・ジュネーブに拠点を置くスイスクオート銀行(Swissquote bank)のクリス・トーマス(Chris Thomas)氏はコメントした。「引き金は、アジアの取引時間の遅い時間帯でのレバレッジされたポジション。レバレッジされているため、市場を大きく動かす」

テクニカル分析

 テクニカル分析では、市場は12月11日からの上昇トレンドを崩し、2万9000ドル~3万ドルの範囲で新しい支持線を探しているとトレーダーは語った。

「さらにその下の支持線は、61.8%フィボナッチリトレースメントの2万6700ドル」と、投資会社テルリアン(Tellurian)のパートナー、ジーン-マルク・ボネファス(Jean-Marc Bonnefous)氏は説明する。

「ただし、待ち望まれた下落局面で買うと期待されていた新しい投資家の資金が入ってこなかった場合の話だ」

 フィボナッチリトレースメント:中世イタリアの数学者フィボナッチが考案したフィボナッチ数列を応用したテクニカル分析手法の一つ。ある期間の最高値・最安値の価格差から、支持線や抵抗線を割り出す。

 ボネファス氏によると、ビットコイン市場に参入する伝統的な投資家やトレーダーの数がこの数カ月で増加したことにより、値動きはよりテクニカル主導になっている。それ以前は、主にビットコインの需要と供給に影響されていたと同氏は指摘した。

ビットコイン価格は、時間足チャートで10時間移動平均と50時間移動平均を下回り、短期的な弱気サインを示している。

バイデン新政権と市場の不透明感

 ヘッジファンドをはじめとする複数の機関投資家は、市場の不透明感を利益確定の口実として使っている可能性があるとトダロ氏は言う。アメリカやヨーロッパの伝統的金融プレイヤーの多くは、ビットコインが急激に上昇する前に市場に参入しており、現在の価格を考慮すると、高い利益を得られる水準にあるだろう。

 だが一部の潜在的投資家は、バイデン政権がビットコインや暗号資産について、どのような政策を展開するのかがわからず、不安を感じているのかもしれない。

「売りのタイミングと、(その売りが)コインベースなどのアメリカの取引所で孤立して起きたことを考えると、バイデン政権の成立に伴う地政学的側面も示している可能性がある」とトダロ氏は指摘した。

「バイデン大統領が次期財務長官にジャネット・イエレン(Janet Yellen)氏を指名したことは、『含み益に対する課税』の提案の可能性を浮上させた。これは暗号資産投資家と、あらゆる資産の投資家に影響を与えるもので、売りにつながったのかもしれない」

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2021年1月11日 (月)

【特別読み物】簡単に「ピザを『平等に』分ける」方法

 数学者が「ピザの喧嘩しないについて本気で考えてみた 

現代ビジネス 2021年1月10日(日)17時31分配信/原口 忠之(数学者)

 家族や友人とイタリア料理店でピザを注文した際に、ピザの分け方が問題になったことはないでしょうか? 少なくとも筆者なら、切り分けられた自分のピザが他の人と比較して小さいと、文句の1つくらい言ってしまうかもしれません。このような時、もし平等にピザを分割する方法があれば、みんながもっと幸せに食事ができるような気がしませんか? 実は、中学生レベルの数学を利用して誰でもとても簡単にピザを均等に分ける方法があるのです。

 ここでは、“ピザの定理”と呼ばれる公式を利用してピザを分ける方法を紹介します。

 (共著:奈良学園大学准教授 安東雅訓)

何人で分けても平等に美味しくピザを食べたい

 それでは、具体的にピザの分け方を考えてみましょう。まずピザの2等分は簡単ですね。ピザの中心を通るようにピザをカットするだけです。次に、ピザを4等分にするには先程の切り口とピザの中心で垂直に交わるようにカットすればよいですね。

 では、ピザを6等分するには、どうすればよいでしょうか。一般的にはピザを2等分したあと、それぞれのピースでさらに2回ずつカットしますよね。その時、切り終えたあとの中心角がおおよそ60度になるようにカットすれば均等になります。とはいえアバウトでも60度に分けるのは難しいですよね。ここでまず三角比の性質を利用すると、比較的60度に近い切り口で切ることが可能です。下の図1をご覧ください。

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 まず原点Oを通るように線分ABでピザをカットします。目算でよいので、線分OBの中点Cをとり、ピザの周上にDCとABが垂直になるように点Dを推測します。その点Dから中心Oを通るようにピザを線分DEでカットすると

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OC:OD:DC=1:2:√3
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 となるため、∠DOC=60°となります。以下同様の手法を用いて線分FGでピザをカットすると6等分に近い形で、ピザを分けることができます。

 しかし、これら3つの例(2等分、4等分、6等分)は、全てピザの中心を通ってカットすることを前提にしています。

 では、もしピザをカットした際に中心からずれたとき、平等にピザを分けることができるでしょうか。

ピザの定理を使ってみると?

 このような時でも“ピザの定理”を使えば均等にピザを分けることができるのです。ピザの定理の主張は以下のとおりです。

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ピザの定理【参考文献[3] L. J. Upton, Solution by Michael Goldberg】
自然数nを4の倍数とする。円盤上の任意の点Pに対して、n本の直線を次の条件を満たすようにひく。
1.n本の直線は1点Pで交わっている。
2.各直線とのなす角がすべてπ/nである。
このとき、分割された2n個のピースをうまく選ぶと、いつもn/2等分することができる。
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 理解しやすくするために、具体的な例を考えてみましょう。下の図2はn=4のとき、つまり2人で分ける際の方法を紹介しています。ここでは、これを第一ピザの定理と呼ぶことにします。後でこの証明のアイデアを紹介します。

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第一ピザの定理

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点Pを通る4本の直線に対して、点Pを頂点とする角が45°とする。このとき、斜線部分のピースの面積の総和と白色のピースの面積の総和は等しい。(図2を参照)
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 つまり、上の定理は、1つとばしにピースを選んで分けて食べれば2人は均等量のピザを手に入れられるというわけです。オリジナルのピザの定理を利用すれば、n/2等分できるわけですから、2人で分けるだけでなくnに必要な数を代入すると、3人、4人、5人、6人……とで均等にわけることができますよ。

ピザの定理の歴史と証明のアイデア

 一般のピザの定理は1968年にチャレンジ問題として、参考文献[3]“Problem 680”, Mathematics Magazine 41にUpton氏が紹介しました。最初に証明を与えたのは、Michael Goldberg氏であり、その他にも多くの数学者がこの定理の別証明や一般化した命題を紹介しています(参考文献[2]に複数の証明が紹介されています)。

 数学が好きな方ならこの証明は極座標を用いた積分を利用して、各ピースのピザの面積を求め、選び方を考えれば証明できるのではないだろうかと、予想されるのではないでしょうか。このアイデアでの証明は動画(https://www.youtube.com/watch? v=TyUP__bJW2A)で紹介されています。

 しかし、実は中学校で学習する初等幾何の知識のみでも、この定理に証明を与えることができます。

 次の動画(https://youtu.be/yej27bB72k0)で、初等幾何の知識のみを利用した第一ピザの定理(n=4)の証明を紹介しています。

 また、一般論の証明を確認したい方は、参考文献[1] The Baumkuchen Theorem (https://arxiv.org/pdf/2012.10938.pdf)をご参照ください。

初等幾何を利用して証明してみよう

 次に、第一ピザの定理を、初等幾何を利用して証明する際に必要となるアイデアを紹介します。図3をご覧ください。線分OPを半径とする円盤D'上で分割方法(補題1)を考え、全体の円盤Dから円盤D'を除いたバームクーヘンB上で分割する方法(第一バームクーヘンの定理)を考えます。そして、これら2つの分割方法を併せて考えることで第一ピザの定理を証明します。

 右斜線のピースの総和が円盤Dの1/2になることを示せればよいのですが、証明は読者の方に委ねます。ヒントは各右斜線のピースを円盤D'とバームクーヘンBで分けて、組み合わせを考えてみてください。詳細は動画(https://youtu.be/yej27bB72k0)で紹介しています。

 次の補題1で、中学校で習う円周角の定理、三角形の面積の高さに注意すると容易に示すことができます。興味のある方は証明してみてください。条件3は条件2から明らかです。

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補題1
内側の円盤D'上において次が成り立つ。
1.四角形A1A2A3A4は正方形となる。
2.右斜線部分の2つのピースの和は円盤D'の面積の1/2となる。
3.白い部分の3つのピースの和は円盤D'の1/2となる。
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バームクーヘンも分けてみよう

 次に紹介する第一バームクーヘンの定理は、もう少し一般化できますが、ここではピザの定理を証明することに焦点をあてているため、次の主張に留めておきます。詳細を知りたい方は参考文献[1]をご参照ください。

第一バームクーヘンの定理

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図3において、バームクーヘンB上の向かい合うピースの面積の和はバームクーヘンBの面積の1/4になる。

 上記の定理の証明も、初等幾何の知識のみで証明を与えることが可能ですが、少々複雑です。そのため、ここでは割愛します。(参考文献[1]や動画 https://youtu.be/yej27bB72k0 をご参考にしてください。)

 いかがでしたか。複雑な証明の話はさておき、次回、複数人でピザを分ける際に、ここで紹介した三角比やピザの定理を使って切り分けてみても面白いかもしれません。

学生はピザの定理を証明できるか余談

 筆者がピザの定理を知ったのは、大学院生の頃のことです。同じ院生室の友人(共著者の安東)が研究集会でピザの定理を知り教えてくれました。そのとき、積分を利用すれば証明できそうであるため、あえて初等幾何のみを利用しての証明はできないだろうかと盛り上がりました。さすがに初等幾何のみで証明を与えることは難しいかと思いきや、安東さんは見事証明を完遂しました。

 当時高校で非常勤講師をしていた私はこの問題を生徒にも知ってもらいたいと思い授業中に紹介してみました。さすがに“初等幾何のみで証明しましょう”という制約はしていませんが、興味をもった数名の生徒が授業終了後もこの問題に真剣に取り組んでくれました。さて、証明ができた生徒はいたと思いますか? なんと1名の生徒が積分を利用した解答をもってきたのです。証明したのは彼のお父さんで、実は私の大学院の副指導教官でした。

 この話にはまだ続きがあります。それから約1年後、院生室の後輩が次のように言いました。「先輩!! ゼミの先生から、おもしろい数学のパズルを教えてもらいました」と……。話を聞いてみると、ゼミの先生はあの副指導教官で、おもしろいパズルとはピザの定理だと言うのです。安東さんと私は院生室で大笑いしました。数学者が数学を学ぶ人につい話したくなるピザの定理。ピザを分けるだけが魅力ではないようです。

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 【参考文献】
[1] M. Ando and T. Haraguchi, The Baumkuchen Theorem, https://arxiv.org/abs/2012.10938
[2] Rick Mabry and Paul Deiermann, Of Cheese and Crust: A Proof of the Pizza Conjecture
and Other Tasty Results, American Mathematical Monthly, 116(2009)423–438.
[3] L. J. Upton, Problem 660, Math. Mag. 41(1968)163.

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 トランプの置き土産UFO&宇宙人情報公開 

東スポWeb 2021年1月12日(火)11時30分配信

 先月下旬にトランプ米大統領が署名した2021年度情報機関授権法に、なんとUFO(未確認飛行物体)およびUAP(未確認航空現象)の情報開示に関するものがあった。11日までにニューヨーク・ポスト紙やCNNなどが報じている。

 米情報機関が収集したUFOなどのデータの詳細な分析報告書を180日以内に、連邦議会に提出するように国家情報長官や国防長官らに命じたもの。海軍、FBI、CIAなどが収集した極秘情報が報告書に盛り込まれることになる。

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 これは上院情報委員会起草の21年度情報機関授権法についての「委員会コメント」という指示書がもとになっている。委員長のマルコ・ルビオ上院議員が懸念しているのは、UFOなどが敵対国によるものなのか否かということ。法案成立の12月28日から180日以内なので6月25日までに報告書を提出しなければならない。

 かつて、ジョン・F・ケネディ大統領は亡くなる10日前にCIA長官に対して、ソ連のミサイルと混同しないようにUFOを別途精査するよう命じた。しかし、暗殺されたためストップになった。

 UFO研究家の竹本良氏は、こう語る。

「UFO問題についてはCIAやFBIは情報公開法(FOIA)に基づいてトップシークレット以下の情報は、かなり開示してきました。今回はトップシークレットを上回るUSAP(不認可特別アクセス計画)などの上位クリプト(暗号化物)領域の情報公開を迫っているのです。ここには水爆、宇宙人、反重力、フリーエネルギー機関、JFK暗殺などの、これまで触れることができなかった情報が、たんまり蓄積されているのです」

 トランプ氏のとんでもない“置きみやげ”だ。

 竹本氏は「今回の情報開示命令は上院情報委員会の委員会コメントによるものなので、バイデン氏が大統領に就任しても実行しなくてはいけないのです。UFO研究家にとっては、ここまで知恵を働かすトランプ氏に軍配を上げたい気持ちが湧き起こってきます」と指摘する。

 

2020年12月23日 (水)

【特別読み物】2020年✍興味深かった「考古学的発見」を振り返ってみる

2020年の興味深かった  考古学的発見  まとめ

GIZMODO 2020年12月19日(土)21時30分配信

過去の人々の生活に思いを馳せる。

 考古学はタイムマシーンのように時をさかのぼることができる学問です。次元転移装置の代わりに、考古学者たちは地中レーダーや走査型電子顕微鏡、DNAシークエンシングといったテクノロジー、そして古き良きシャベルを使います。学者たちの研究のおかげで、復元された過去からかつての物事を想像することができます。

 2020年を振り返ってまず思い浮かぶのは考古学ではないでしょうが、決して考古学的にハズレ年だったわけでありません。今年の考古学ニュースの中でも特に興味深かった12の発見を振り返ります。

シャベルを使わずに発掘された、地中に埋まったローマの古代都市

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 リモートセンシング技術のおかげで、イタリアの考古学者らは土を掘り起こすことなく、地中に埋もれていた古代ローマの都市ファレリ・ノーヴィの建物や記念碑、通路に水管の配置を記した地図が作成できました。この都市はローマから北50kmにあって、人々は紀元前241年頃から紀元700年頃まで暮らしていたとか。地中レーダーが収集した280億個のデータポイントはまだ十分に分析されていないため、この地図はまだ初歩的なものだと考えられています。

2000年の時を経て姿を現した、ペルーのネコの地上絵

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 UNESCOの世界遺産ナスカの地上絵を見るために使われていた天然の展望台にあったネコの絵は、作業員たちが偶然発見したものです。37mに及ぶこの地上絵は2,000年前のパラカス文化のもの(ですから厳密にいえば、ナスカ文化の作品ではありません)。巨大なネコの絵はひどく劣化していたため長く見過ごされていましたが、最近の修復作業で見る者に顔を向けているというディテールが明らかになりました。

女性ハンターの人骨が見つかり、先史時代の性別による役割分担が覆される

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 南米のアンデス高地で、大きな獲物用の狩猟道具と一緒に埋葬された9,000年前の若い女性の人骨が発見されました。この事実は大昔の性別による役割分業が公平だったことを示唆しています。17~19歳で亡くなったこの女性はビクーニャを狩るために尖頭器を使っていたと考えられます。また、彼女の墓から見つかった食肉を処理するための道具は、女性が獲物を解体していたことも示唆しています。

 発見した科学者らは考古学の文献を読み直して、女性が大きな獲物用の狩猟道具とともに埋葬されていた件をいくつも見つけました。科学者らは「現代のジェンダー構造は過去のそれを反映してないもの」であり、「(過去の科学者たちが)性別による役割分担についていい加減な推測」を行なっていたと述べている。

蒸発ではなく焼かれていった、古代のベスビオ火山噴火の犠牲者たち

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 紀元79年にベスビオ火山が噴火した際、古代ローマの都市ヘルクラネウムの町民たちはパニックに陥り海辺のボート小屋へと逃げました。これまでの学説では石造りの小屋の中で亡くなった人々は高温により蒸発して即死したといわれていましたが、今年発表された研究によると火山の有毒な煙で徐々に窒息していったのだとか。彼らの体は室温が400℃に達する小屋の中で死後焼かれていったのです。

1000年前のイランで、ステンレスの前身となる合金鋼が作られていた

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 9月に発表された論文によれば、1,000年ほど前の古代ペルシャ人たちは現在でいうところのステンレス鋼の先駆けとなる合金鋼を作っていたそうです。この合金鋼はクロミウムを1~2%とリン2%を含有しており、剣、短刀、鎧などを作るために使われていました。厳密には「ステンレス」とはいえず(リンが加わっていたため)かなりもろかったものの、るつぼ鋼の装入物に意図的にクロム鉄鉱(この場合クロマイト)を入れていたという最初期の証拠になります。

アメリカ先住民が欧州人よりも早くにポリネシアに到達していた可能性

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 7月に発表された研究は、アメリカ先住民たちがヨーロッパの入植者たちより300年も前に南太平洋の島々に航海していたことを示唆するものでした。南米からの集団がポリネシアへと数千マイルに及ぶ壮大な旅をしたのは西暦1200年ごろだったと遺伝学的な証拠が示しています。彼らは現地の人々と交雑して、遺伝子を残していったのです。そしてその祖先が1380年ごろラパ・ヌイ(またの名をイースター島)など他の島々に居住するようになった。

ストーンヘンジ近くの奇妙な円形構造物

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 ストーンヘンジ近くのソールズベリー平原で作業していた考古学者が、4,500年前の巨大な円形構造の遺跡を見つけました。この構造物は慎重に配置された20の竪穴から成り、大きなもので深さ5m、幅は10~20mもあったとか。各竪穴は中心部から平均して864m離れて円形に並んでいて、英国で発見された先史時代の構造物として最大級のものだと考えられています。建造された目的は不明ですが、神聖な場所の境界線を示すためかもしれません。

縄を発明したのは恐らくネアンデルタール人

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 フランスで発見された4万1000年前の細縄の断片は、縄を発明したのがネアンデルタール人だと示唆しています。この発見以前、繊維を紡いで糸にする技術の最古の例は約1万9000年前のイスラエルのものでした。

 今回の断片は、複数の繊維がより合わさって糸になり、その糸で縄が編まれていました。考古学者らはこの縄が一緒に発見された石器の取っ手をつけるためか、石器を運ぶためのバッグなどの一部に使われていたと考えています。

20万年前の人間の寝床は、草と灰を重ねて作られていた

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 石器や解体された骨、焚き火台や洞窟壁画といった物証から過去を垣間見ることはできますが、考古学者たちは先史時代のもっと日常的な側面を明らかにしようと奮闘しています。そういった意味で、南アフリカとエスワティニ近くのレボンボ山地の岩窟住居にあった、22万7000年前の人類がどのように寝ていたかを示す初歩的な寝床の発見はとても重要です。

 この寝床は灰の層の上に草の束を敷いたもので、灰と草の組み合わせのおかげで寝る面は快適かつ清潔で、灰の層がよじ登ろうとする虫を寄せつけなかったとか。寝床は害虫駆除のため定期的に焼き払われ、その上に新たな草の層が重ねられていました。

60頭のマンモスの骨でできた氷期の構造物

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 ロシアの都市ヴォロネジに近いコステンキ11で、毛がついた何百ものマンモスの骨でできた構造物が発見されました。マンモスの骨でできた構造物はこれまでも発見されてきましたが、こちらの構造物は大きさは12.5mと考古学史上最大級で、およそ2万5000年前と最古のものです。この構造物は氷河期の厳しい冬からの逃げ場となり、食料を備蓄する場所だったのかもしれません。

氷が融けて露わになった、ヴァイキング時代の山道

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 写真に写っているミトン、靴、馬用スノーシュー、ソリの一部、首輪につながったままの犬の遺骨は中央ノルウェーのかつては山道だった場所で見つかった遺物の一部。ヨートゥンヘイム山地にある山道は1,000年以上もの間使われていて、西暦1000年ごろのヴァイキング時代が最盛期でした。今回の発見や過去の同様の発見は、気候変動のせいで氷原が融け出したことによるものです。

古代ブリトン人にとってニワトリと野うさぎは、崇拝の対象だった

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 4月に発表された論文によると、ニワトリと野うさぎは約2200~2300年前にブリテンにもたらされた当初、食物ではなく崇高な生き物として扱われていたそうな。どちらも珍品であり神々と結び付けられていて、ディナーのメインディッシュにされるようになったのはローマ帝国時代が終わってからのことでした。

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クジラ座にある銀河団「MACSJ0025」青紫色の部分が「暗黒物質(ダークマター)」の存在を示している

 に包まれた“仮想物質”=ダークマターとは?

SORAE 2020年12月23日(水)21時05分配信

 夜空に輝く星々をはじめ、星雲、銀河といった天体は、私たち自身の目や望遠鏡・人工衛星などを使って観測することができます。しかし、私たちの目に見える存在が宇宙のすべてというわけではありません。

 宇宙に存在する物質・エネルギーのうち、約27%が「ダークマター(暗黒物質:dark matter)」と呼ばれる仮説上の物質、約68%が「ダークエネルギー(暗黒エネルギー:dark energy)」と呼ばれる仮説上のエネルギーとされています。私たちが知覚している通常の物質は、残りの5%でしかないと言われています。

 未知の物質ダークマターは宇宙と素粒子の謎を解明する重要なカギとなっていて、世界中の研究者が探索を行っています。

ダークマターが存在している証拠

 ダークマターは電磁波(可視光、電波、X線など)を発しないので望遠鏡で観測することはできませんが、質量を持っているので、通常の物質に重力を介して影響を及ぼします。そのため、以下のような重力が引き起こす現象によってその存在が推測されています。

1) 銀河の回転

 回転している物体には、回転の中心から離れる方向に遠心力が働きます。銀河の中心の周りを公転している円盤部の星々も同様で、遠心力は銀河の回転スピードが速いほど強くなります。この遠心力と銀河に存在する物質による重力が釣り合うことで、公転する星々は銀河から飛び出すことなく周り続けることができます。

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 ところが、銀河の回転速度を実際に測定してみると、銀河を構成する恒星の質量から算出された釣り合いの取れる値と比べてかなり速いのです。この回転速度による遠心力と釣り合うためには、実際に輝いている恒星(通常の物質)以外に大きな質量をもつ「何か」の存在が不可欠です。このことから、光(電磁波)を発しない物質、つまりダークマターが大量に存在すると考えられています。

2) 重力レンズ効果

 もう一つの重要な手がかりは「重力レンズ」です。重力レンズとは、遠方の天体(銀河など)と私たちの間にある別の銀河や銀河団の重力によって遠方の天体を発した光の進む向きが曲げられることで、遠方の天体の像がゆがんで見える現象です。重力レンズによる効果は、夜空の複数の方向に同じ銀河の姿が見える事象として観測することができます。

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 遠方の天体と私たちの間にある銀河・銀河団の質量が大きいほど、遠方の天体を発した光の曲がり方も大きくなります。ダークマターを直接見ることはできませんが、天体の像がゆがんで見える様子を詳しく観測することで、重力レンズ効果をもたらしている銀河や銀河団に存在するダークマターの質量を推定することができるのです。

謎に包まれるダークマターの正体

 銀河の回転速度や重力レンズ効果の観測結果をもとに、ダークマターが存在することはわかります。それでは、ダークマターは何からできているのでしょうか?

 ダークマターの正体については幾つかの仮説が立てられていますが、現在有力視されているのは「未発見の素粒子」です。理論上存在が予想されているものの見つかっていない素粒子は幾つかあり、そのうちのどれかがダークマターなのではないかと考えられています。たとえば東京大学宇宙線研究所の「XMASS(エックスマス)」実験では、「弱く相互作用する重さがある粒子」を意味する「WIMPs(Weakly Interacting Massive Particles)」の一種「ニュートラリーノ」や、「アクシオン」といったダークマター候補の素粒子を検出するためのデータ収集が2019年3月まで行われました。

 また、過去には惑星や小惑星、白色矮星、褐色矮星、中性子星、それにブラックホールといった、あまり光らない(電磁波を出さない)「暗い天体」がダークマターの候補として検討されてきました。特に銀河を取り巻く希薄な領域「ハロー」に存在する見えにくい天体は「MACHO(Massive Compact Halo Object, Massive Astrophysical Compact Halo Object)」と呼ばれて探索が行われましたが、現在ではダークマターにおいてMACHOが占める割合は少ないと予想されています。

宇宙の大規模構造とダークマター

 現在の宇宙は、銀河の集団である「銀河団」が連なったフィラメント状の構造と、銀河が希薄な領域「空洞(ボイド)」が複雑に絡み合った網の目のような構造をしています。

「宇宙の大規模構造」と呼ばれるこの構造は、次のように形成されたのではないかと推測されています。初期の宇宙に存在したわずかな「ゆらぎ」をもとに、ダークマターの密度にもゆらぎが生じます。密度の高い部分はさらに多くのダークマターを引き寄せていき、その重力によって通常の物質であるガスが次第に引き寄せられます。やがて集まったガスから最初の世代の星々や銀河が形成されるようになり、銀河は星形成活動や衝突・合体を経て成長し、現在に至ったというのです。

 このように、現在観測されている宇宙の巨大な構造、その成り立ちにはダークマターが密接に関係していると考えられています。

 

2020年12月16日 (水)

【はやぶさ2】帰ってきた<小惑星リュウグウ“採取カプセル”>無事帰還!!

歴史の欠片リュウグウからカプセル無事帰国ドキュメント

ニッポン放送 2020年12月10日(木)17時45分配信

 探査機「はやぶさ2」が、約6年の「宇宙の旅」を終えてカプセルが帰還。小惑星「リュウグウ」からの粒子が入っているとみられるカプセルは、12月8日午前、神奈川県のJAXA相模原キャンパスに戻って来ました。

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 カプセル内部の解析を行う総合研究棟に、午前10時半過ぎ、カプセルを積んだトラックが横付けされます。集まったJAXAの職員は100人ほどに膨れ上がりました。ただ、新型コロナウイルスの影響でテレワークが徹底されており、敷地内の出迎えは比較的こじんまりとしたものでした。

 拍手と歓声、ガッツポーズ……職員の前にはファンから贈られた「はやぶさ2 祝大漁」と書かれた大漁旗も掲げられました。トラックから30分ほど遅れて、回収スタッフが乗ったレンタカーが到着。トラックの荷台からカプセルの入ったボックスがお目見えしました。

 スタッフ4人が高さ1mほどのボックスを慎重に持ち上げます。午前11時27分、カプセルは無事、建物のなかに入って行きました。

「なかを開けるのが楽しみ。みんな“白髪”になっていなかったので、開けていないということですね」

 JAXAの津田雄一プロジェクトマネージャ(以下 津田プロマネ)が、到着直後にコメントを寄せました。宇宙からの“玉手箱”と呼ぶカプセルになぞらえたユーモアです。その上で「ホッとした。肩の荷が下りた」……ワクワクしながらも、重圧から解放された安堵の表情がありました。

 その後に行われた記者会見でも、津田プロマネは「ついに戻って来た。心に迫るものがあった。新しい科学がここからスタートする」と、改めて喜びを語りました。

 渋滞などで到着が遅れたことから、午前11時に予定されていた記者会見は午後0時半にずれ込み、所要約1時間50分に及びました。

 カプセルは日本への輸送を前に、特殊なピンで“穴”を開けることで内部のガスを採取しました。日本から持ち込んだ特殊な装置で、慎重な作業が行われたということです。現状は分子量の測定にとどまっており、リュウグウから来たガスかどうかは、まだ断定できていません。

 解析を担当するJAXAの臼井寛裕グループ長は「太陽風に関連するヘリウムの同位体のようなものが分析できると、リュウグウ由来かどうか確実に判断できる」と期待を寄せています。あとは、カプセルのなかにリュウグウの粒子が入っていることを祈るのみです。

 ただ、カプセルは着いたからと言って、すぐ中身を開けられるというものではありません。まず、ヒートシールドという、カプセルを熱から守るカバーを取り外し、周囲を念入りに洗浄します。そして、カプセルを特殊な装置にかけ、ふたやスプリングを外して、クリーンルームに移します。

 ここからがまた大変です。宇宙の環境に近い状況にするために、カプセルの周囲を真空にする必要があります。「真空びき」と呼ばれる作業は、週末2~3日はかかるとのこと。

 そして、ようやくカプセル開封にありつける……よって、なかの粒子を確認するには1週間ぐらいかかるとみられます。現在もその作業が続いているでしょう。ちなみに、地球の外から採った粒子を真空の下で開封・採取するのは、日本独自の技術だということです。

 粒子があるかどうか、厳密には詳細な分析を待つことになりますが、カプセルの裏側に隠れていれば時間はかかるものの、表側に黒い物質があれば「確実にある」(臼井グループ長)。いずれにしても来週が1つのポイントになりそうです。

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 さて、今回のはやぶさ2が行った偉業について、おさらいをしておきます。今回リュウグウから採取した粒子が意味するところは、大きく分けて2つです。

 まずは「太陽系の歴史のかけら」……地球をはじめとする惑星がどうやってできたのか、解明する手がかりを得たということです。

 地球は太陽系が誕生した後に、小さい天体が集まってできたと言われています。しかし、集まる際にドロドロに溶けたり、固まったりしたため、地球のもともとの状態がどうだったのかは、はっきりしていません。

 一方、リュウグウのような小惑星はこうしたプロセスを経ていないので、太陽系ができた46億年前のころの状態が、そのまま残っているとみられます。さらに今回は、リュウグウの地中の粒子も獲得できたはずです。

 表面は宇宙放射線や太陽風の影響を受けていますが、地中ではそうした影響も小さく、いわゆる「フレッシュな粒子」が期待できます。「もともとの状態」にさらに深く迫れる可能性があるわけです。

 もう1つは「生物の歴史のかけら」……人間をはじめとする生物が、どのように誕生したかを究明する手がかりです。

 リュウグウは水や有機物=炭素を含む「C型小惑星」に属します。生物はいわば「原材料」となる水や炭素を含む惑星がぶつかって生まれたと言われています。したがって、こうした惑星を調べれば、生物の起源についてわかるのではないかというわけです。

 それは水や炭素が見つかるというだけでなく、炭素、水を構成する水酸基などに、これまでにないような複雑な分子構造が確認される可能性もあります。そうなれば、まさに「世紀の大発見」となるでしょう。

 なお、粒子は分析をはじめとする研究に活用されますが、一部は保管されます。将来、より進んだ分析・研究手段が出現するのを見越してのことです。

 カプセル帰還まで6年の長旅でしたが、今後、さらに長い分析の時間が待っています。それは技術や研究を未来につなぐ“橋渡し”でもあります。やはり、せっかちな人間には務まらないな……改めて思います。(了)

 「はやぶさ2」持ち帰った試料をNASA研究室新設して研究保管 

Newsweek日本版 2020年12月10日(木)18時35分配信

──リュウグウの試料をNASAに、地球近傍小惑星「ベンヌ」の試料をJAXAに......

 小惑星探査機「はやぶさ2」によって地球近傍小惑星「リュウグウ」で採取された試料を収めたカプセルが2020年12月6日、豪州南部ウーメラ立入制限区域(WPA)で回収され、8日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の相模原キャンパス内に搬入された。

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 JAXAは、2021年末までに、NASA(アメリカ航空宇宙局)をはじめとする6つの研究チームにリュウグウの試料を配分し、その分析を世界規模ですすめる。

リュウグウの試料をNASAに、ベンヌの試料をJAXAに

 JAXAとNASAは、「はやぶさ2」が採取したリュウグウの試料の一部をNASAが受け取る代わりに、NASAの宇宙探査機「オサイリス・レックス(OSIRIS-REx)」が地球近傍小惑星「ベンヌ」で採取した試料の一部をJAXAに提供するという取り決めを交わしていた。

 いずれのミッションも炭素質を主成分とする「C型小惑星」を探査するというもので、太陽系初期の成分が残存していることから、「太陽系がどのように形成され、その後、どのようにして生命が出現するようになったのか」を解明する手がかりになると考えられている。「オサイリス・レックス」は、2020年10月28日、ベンヌの表面から60グラム以上の試料を採取することに成功し、2023年に地球に帰還する予定だ。

NASAは地球外試料の特性評価、保管などに特化した研究室建設

 現在、米ヒューストンにあるNASAのジョンソン宇宙センター(JSC)では、地球外試料の特性評価や文書化、保管などに特化した新たな研究室が建設されている。

 2021年12月には、NASAの地球外物質研究探査科学部門(ARES)に所属する中村圭子博士とクリストファー・スニード博士が来日して、リュウグウの試料をジョンソン宇宙センターに持ち帰り、人間が地球外で収集した7つ目の地球外試料としてこの新研究室に保管される見込みだ。2023年に回収予定のベンヌの試料もここに保管される予定となっている。

 中村博士、スニード博士らの研究チームは、新研究室内でリュウグウの試料を分析する。リュウグウの試料はわずか10ミリグラムの小さな物質とみられるが、有機含水化合物と鉱物との混合など、多くの新たな発見がもたらされると期待されている。

 スニード博士は、リュウグウの試料の分析に先立ち、現在、金属とガラスでできた密閉された箱に手袋を突っ込んで小さな粒子や鉱物粒子を扱う方法を実験している。スニード博士によると「試料が水や空気に反応しないように箱の中を窒素で満たすと、過度に乾燥して、静電気が起きてしまうのが課題だ」という。また、操作棒で動かし、小さな粒子を取り上げて扱うことができる専用デバイスの開発もすすめられている。

はやぶさ2サンプルリターン大成功」に込めた宇宙と地球の繋がり

Yahoo!コラム 2020年12月14日(月)6時00分配信/秋山文野(翻訳者)

 2020年12月6日、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」から小惑星リュウグウのサンプルが入っているとみられるコンテナを収めたカプセルが地球の大気圏に再突入しオーストラリア南部に着地した。カプセルは同日回収され、内部から小惑星の物質が揮発した可能性のあるガスを採取した後にただちに日本へと運ばれた。

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 12月8日、カプセルは神奈川県相模原市のJAXA 宇宙科学研究所に届き、地球外の物質を扱う専用のキュレーション施設へと無事に収められた。今週はコンテナからサンプルの確認と取り出しが始まり、まもなく「リュウグウのサンプルが入っているとみられる」から「みられる」はとってもよいと期待される。

 サンプルコンテナのカプセルが無事にキュレーション施設に届いたことで、直後の記者会見ではやぶさ2プロジェクトチームの津田雄一プロジェクトマネージャらは「サンプルリターン大成功」の言葉を掲げた。ここで、基本に立ち返って小惑星からのサンプルリターンが成功するとなぜ嬉しいのか、はやぶさ2ミッションのこれまでとカプセル帰還会見から振り返る。

サンプルから始まる、宇宙と地球の答え合わせ

 そもそもはやぶさ2の探査目標として小惑星が選ばれたのは、小惑星が太陽系初期の物質をとどめた歴史の保管庫のような存在であるためだ。小惑星リュウグウ近傍に滞在していた2018年6月から2019年11月まで、はやぶさ2に搭載された光学航法カメラ、近赤外分光計NIRS3(ニルス3)、中間赤外カメラTIRなどの観測機器から得られたデータを元にリュウグウの素性を解き明かす成果が論文として発表されている。

 これまでの成果によれば、直径はおよそ900メートルのリュウグウのような1キロメートル前後の小惑星は、太陽系の初期により大きな天体が衝突破壊を繰り返した破片から生まれたと考えられている。現在のリュウグウになるまでのシナリオはいくつかあるが、有力とされるひとつはこうだ。

 45.6億年前の太陽系初期、水の豊富な微惑星があり、この天体の内側で熱が発生する化学反応から部分的に脱水していった。その後、この微惑星は天体衝突を繰り返して小惑星ポラナまたはオイラリアという大型の小惑星となり、さらにその破片が集積してリュウグウになったというものだ。

 はやぶさ2と協力関係にあるNASAの小惑星探査機オサイリス・レックスがサンプルを採取した小惑星ベンヌは、リュウグウと同じ母天体を持つきょうだいのような関係だが、ベンヌのほうが水が豊富だと考えられている。

 リュウグウを構成する物質に水が少ないのは、微惑星の段階で水が失われるプロセスを経たためだとされる。持ち帰ったサンプルの分析によってリュウグウの歴史はさらに詳しくわかるとされる。小惑星ポラナとオイラリア、どちらが本当のリュウグウの親なのか判明する可能性もあるという。

 はやぶさ2が世界で初めて行った、小惑星表面に人工クレーターを作るSCI(衝突装置)の実験は、太陽光の影響を受けていない地下のフレッシュな物質を表面に掘り起こし、持ち帰るサンプルの価値をさらに高めた。それだけでなく、人工クレーター実験そのものもサイエンスの成果を上げている。

 小惑星上で自然に起きる隕石衝突によるクレーター生成をSCIが模擬したことで、天然クレーターから小惑星の年代を知る手法の精度がさらに高まった。サンプルがリュウグウが経てきた歴史のどこに当てはまるか、それを調べることで太陽系の歴史はさらに詳しくわかることになる。

 宇宙探査機という「探査の道具」の性能向上にもサンプルは役立つ。カプセル帰還時の記者会見で、サンプルの取り出し、選別とカタログ作りを担うキュレーションチーム代表の地球外物質研究グループ長 臼井寛裕さんは「可視、近赤外での観測を行いMicrOmega(マイクロオメガ)による観察を行う」と述べた。

 マイクロオメガとは、2018年10月にはやぶさ2がリュウグウに投下した欧州の着陸機「MASCOT(マスコット)」に搭載された観測装置の地上版だ。また、近赤外での観測ははやぶさ2の観測機器ニルス3の観測方法でもある。

 はやぶさ2が宇宙に持っていった観測機器と同じ手法をもう一度地上で繰り返すのはなぜか。それは、「宇宙に持っていった機器と地上の機器は解像度が全く違う。

 宇宙ではのっぺりとしか見えなかったものが、地上で同じものを見ればはるかに高精細になる」(臼井さん)からで、限られた重量、限られた電力という制限の中で観測していた宇宙の観測機器と同じものを地上のより高精度な装置で観察すれば、はるかに多くの物質の組成、形、大きさなどが分かるからだ。宇宙で調べたことが合っているかどうか、地上で答え合わせができる。

宇宙の現地で観測する意義

 地上の機器が探査機に搭載の観測機器よりも高精細ならば、探査機はサンプルを採取することだけに特化して、より多く、より多地点のサンプルを持ち帰って地上で調べることに特化させればよいとも考えられる。しかし、はやぶさ2は「限られた荷物しか積めない宇宙機にどのような観測機器を搭載するか」というパズルに、サイエンスの側の要求に沿うだけでなくエンジニアリングの側からも提案できることを実証した。

 その代表が、回収班の一員で日本にカプセルを持ち帰った澤田弘崇さんが開発した分離カメラ「DCAM3」だ。2019年4月に衝突装置でのクレーター生成の際には、DCAM3というカメラで爆発の瞬間を撮影している。

 DCAM3は宇宙ヨット「イカロス」から引き継いだカメラだが、世界で初めて行う小惑星での人工クレーター生成の最中を本当に撮影できるのか、事前に保証できる者はいない。考えうるシチュエーションにすべて対応できるよう技術を注いでいるにしても、やってみなくてはわからない不確実性は残る。

 だがDCAM3は本当にクレーター生成の瞬間をとらえた。これで大喜びしたのは、カメラを開発した技術チームはもちろんだが、小惑星を研究するサイエンスチームだ。小惑星に隕石が衝突しているのと同じ、衝突装置が小惑星表面の物質を噴き上げ、すり鉢状の「イジェクタカーテン」を作っているまさにその瞬間をとらえたのだ。イジェクタカーテンの画像は米科学誌Science掲載の人工クレーター生成実験の論文で重要な役割を果たした。

 小惑星近傍フェーズの観測成果はScienceやNatureに何度も掲載されているが、「アクセプト間近の成果がいくつもあり、もっと出てくる」(吉川真ミッションマネージャ)という。はやぶさ2では、こうした工学が理学を刺激し、挑戦的な装置や運用がサイエンスの地平を広げるような好循環の可能性があることを示した。

 このサイクルを続けられるか、行きたいところに行ける、見えると思えなかったことが見える、これまで手に取れなかったものが手に入る、ということが科学を推し進める。

はやぶさ2はこれからどうするのか

 一方、はやぶさ2探査機本体は、12月5日にカプセルを分離した後、エンジン噴射を行って地球を離れた。小惑星のサンプルコンテナを地球に届けた後に地球を離れ、新たな宇宙探査へと旅立つことは初代「はやぶさ」で計画されながらも実行できなかった目標のひとつだった。

 12月6日には、光学航法カメラで地球を撮影。「行ってきます。地球」と名付けられた画像は、はやぶさ2の記念の画像のひとつになりそうだ。それだけではなく、探査機の今後にとっても重要な1枚になる。

 はやぶさ2の「拡張ミッション」では、小惑星1998 KY26という目的の天体へ約11年かけ、2031年7月まで航行する。2014年12月の打ち上げから宇宙を飛行する期間は17年近くなる。カメラなど光学系の機器やセンサーは、宇宙で放射線などによる劣化が起きると考えられている。

 地球や月といった色がわかっている天体を今のうちに撮影しておくことで、将来にカメラの劣化が起きたとしてもその進み具合を知ることができる。はやぶさ2自身にとっても、将来計画されるより遠くの天体の探査の場合にも、観測機器の性能を十分に引き出せるための下地作りだ。

 はやぶさ2の特徴でもある、イオンエンジンも長期間の運転が行われることになる。これまでの航行で慎重に運用されてきたことから推進剤はまだ半分近く残されており、余裕はある。これをできるだけ節約し、また性能を長期間維持する技術を得て、将来の新しい探査ミッションに備える。はやぶさ2が次世代のミッションを育てることになる。

 地球帰還の際に、はやぶさ2からはカプセルが分離し、いわば穴が開いた状態だ。設計時とは異なる状態で航行すると、太陽の熱がそこから探査機に入り込む、または反対に探査機の内部から熱が逃げて冷えすぎてしまうといったリスクも考えられた。

 12月6日の記者会見で津田プロジェクトマネージャは「幸い探査機の状態は健全」といい、十分に探査機の限界を試すことができる状態ではやぶさ2は地球を出発した。

 小惑星1998 KY26は、はやぶさ2がまだその名前になる前、「はやぶさ」に続く小惑星サンプルリターンミッションの計画を検討していた2007年ごろに目的地の候補として挙げられたことがある。

 350以上の候補のひとつであり、最終的にはより適したリュウグウが選ばれたが、探査にとって魅力的な天体だと考えられているのだ。地上に星のかけらを残し、「縁」のある新たな天体に向かってはやぶさ2は旅を続けている。

はやぶさ22度着陸に“中止論出た✍2つの理由

AERAdot. 2020年12月16日(水)8時02分配信

「はやぶさ2」が、小惑星リュウグウ内部の物質を持ち帰る計画を見事成功させた。初代とは違い順調な行程にみえたが、裏では計画遂行をめぐる激論があった。AERA 2020年12月21日号では、「はやぶさ2」のミッション成功の裏側に迫った。

*  *  *

 6日午前2時28分(日本時間)、オーストラリアの夜空に明るい尾を引く一筋の光が走った。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の施設がある相模原市では、深夜にもかかわらず集まった約500人の市民が食い入るように映像を見つめ、声を上げた。

「おおーっ」「おかえり!」

 光の主は、探査機「はやぶさ2」が持ち帰った、小惑星「リュウグウ」の砂が入っているとみられるカプセルだ。JAXAは同日、豪南部の砂漠でカプセルの回収に成功。一方、6年間、約52億4千万キロに及ぶ旅を完璧に成功させたはやぶさ2本体は、休む間もなく地球と火星の間を回る別の小惑星「1998KY26」に向かい、2031年の到着を目指す。

クレーター生成に成功

「実験室でやっていたことをスケールアップし、実験室以上の精度でしかも宇宙空間で実現するという夢みたいな経験をさせていただいた」

 こう振り返るのは、はやぶさ2サイエンスチームの荒川政彦・神戸大学教授(55)だ。

 19年4月5日、はやぶさ2は小型搭載型衝突装置(SCI)を用いてリュウグウに金属塊を打ち込み、人工クレーターを生成することに世界で初めて成功。はやぶさ2から分離されたカメラが、表面の岩や砂が逆円錐状に飛び散る様子を押さえた。このカメラとデジタル通信装置の開発チームリーダーを務めた荒川さんは、初めて明らかになった小惑星でのクレーター形成過程を今年3月、米科学雑誌サイエンスに発表した。

 人工クレーターは直径14.5メートル。地上で模擬実験したサイズの約7倍だった。荒川さんらはこうしたデータを基に、リュウグウが小惑星帯に存在してきた期間を640万~1140万年と推定。観測で見積もられていた約600万~約2億年という推定年代を大幅に絞り込み、他の小惑星の年代推定にも再検討を促す成果をもたらした。

 JAXAはこのクレーターを「おむすびころりんクレーター」と命名。近くにあるおにぎり形の「おにぎり岩」が今にも転がり落ちそうなためで、19年の「ユーキャン新語・流行語大賞」候補にもノミネートされた。選出はされず知名度はイマイチだが、人類にとって非常に大きな足跡だ。

 小惑星探査の意義について荒川さんはこう説明する。

「地球の場合、46億年前の太陽系ができた頃の物質の情報は地球内部でマグマになってドロドロに溶けたり、蒸発したりして全て消え去ってしまっています。惑星の成長過程を知るためには46億年前の情報を保持し、太陽系の惑星のさまざまな成長段階を凍結した『タイムカプセル』ともいえる小惑星を調べる必要があるのです」

2度目の着陸に中止論

 はやぶさ2は19年2月の1回目の着陸でリュウグウ表面の砂などのサンプルを採取。同年4月に人工クレーターの生成に成功した。ところが、掘り出した地下サンプルを採取する2回目の着陸にあたって、JAXA内で大激論が巻き起こった。国中均所長が「試料はもう採れている。リスクを冒してまで2度目の着陸をする必要はない。帰還させよう」と提案したのだ。

 理由は大きく二つ。一つは、リュウグウの表面が予想以上に岩だらけだったことだ。直径100メートルの平坦な場所を探して着陸する計画だったが、実際に見つかったのは直径6メートル。着陸には、上空20キロから甲子園球場のマウンドに降りられる精度が必要だった。

 もう一つは、リュウグウの成分が「お宝過ぎた」ことだ。そもそもはやぶさ2がリュウグウに向かったのは、生命の起源に連なる炭素などの有機物を多く含んだ「炭素質コンドライト隕石」という隕石との類似が予想されたからだった。ところが、はやぶさ2が光センサーで表面を観察したところ、地球上に存在するどの炭素質コンドライト隕石とも一致しない成分であることがわかったという。

「隕石として地上にまだ降ってきていない物質なのか、大気中で変容する前の成分を保持しているのかはわかりませんが、いずれにせよ、1回目の着陸で回収したサンプルは初の地球外物質である可能性が高いのです」(荒川さん)

 だからこそ、機体損傷のリスクを負ってまで2度目の着陸を敢行する必要はない、との声も上がったというわけだ。

小惑星内部の物質採取

 チームは一つひとつの岩の高さと形を10センチ単位で再現した3次元地図を作り、姿勢を制御する12基の化学エンジンの癖も調べて誘導プログラムに教え込んだ上で、19年7月11日、衝突装置が穿ったクレーター周辺に飛散したリュウグウの地下物質めがけて2回目の着陸を行い、無事成功させた。

「まさに神わざでした」

 こう感嘆する荒川さんは、地下サンプルの回収というミッションをクリアしたと見込まれることで、「付加価値が高まった」と評価する。

「小惑星の表面の物質に関しては、米探査機がはやぶさ2とケタ違いの量の回収を進めています。私たちは衝突装置を使って地下のサンプルを採取するという米探査機もできなかったことを実現した可能性が高い。日本の惑星探査の優位性を世界に知らしめることができました」

 小惑星の表面から深さ約10センチまでの地層は太陽放射や太陽風による影響を受けているという。今回人工的に作ったクレーターの深さはそれを上回る1.7メートルだ。

「太陽放射や太陽風の影響を受けず、より純粋に46億年前の情報を保持している物質のサンプルを取得できた可能性があります。表面と地下の物質を比較することで宇宙風化の影響などを知る手がかりも得られるでしょう」(荒川さん)

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2020年11月27日 (金)

【ナショジオ】ヒトの半数『色覚異常』✍どのように進化してきたのか㊦

 ヒトのような野生のサル発見! 

NATIONAL GEOGRAPHIC 2020年11月28日(土)12時37分配信

なぜ私たちには色覚があり、どのように進化してきたのか

 東京大学大学院新領域創成科学研究科・人類進化システム分野の河村正二教授は、脊椎動物の色覚について、魚類から霊長類、さらにヒトまでを視野に収める研究を進めている。

 多様性を極めているかのような魚類の不思議な色覚から始まり、いったん高次の色覚を失った哺乳類の中でふたたび3色型色覚を取り戻した霊長類。さらにはヒトがなぜ色覚多型を持っているのか、という問題まで。現在はコスタリカの新世界ザルのフィールドと実験室を行き来する21世紀スタイルの研究室としてフル稼働している。

 ここからコスタリカの新世界ザルの話に入っていきたいのだが、その前に、河村さん自身の研究史に触れておきたい。現在のフィールドに至るまでには、やはり、一筋縄ではいかないストーリーがある。

 そもそも、色覚研究は、本当に広く深いテーマで、興味が尽きない。ぼくはお話をうかがいながら、古典的な学問としてニュートン(光学)からゲーテ(色彩学)までをひとまたぎした上で、ダーウィン(進化論)によって筋を通し、ティンバーゲンやローレンツ(動物行動学)の肩を借り、生理学や医学の知識も総合しつつ、21世紀の超最新型・分子生物学が肉付けをしていくような、広さ・深さを常に感じないではいられなかった。

 河村さんは、いったいどういう経路で、このテーマにめぐりあったのか、それ自体、とても興味深い。

「僕はもともと進化に興味があって、遺伝子レベルで進化に切り込みたいという思いはありました。子どものときから、虫が好きだったり。何であんなに小さいやつがあんなにうまくできていて、うまいこと生きているんだろうというのを不思議に思っていたんです。それで、進化の研究をしたいなと。僕が大学生のころは遺伝子のことがよく分かるようになってきていたので、遺伝子から進化の研究ができたらいいなと思っていたわけです」

 子どもはなぜか、虫に惹かれる。そして、虫に惹かれた子のいくらかは、長じてもその思いを、人生におけるキャリア形成にまで反映させたりする。河村さんが大学の学部生だった80年代前半は、遺伝子と進化をからめた研究が勃興しつつある時期だった。そこで、東京大学の教養課程から専門課程に進むときに、当時、唯一「進化研究」を看板に掲げていた理学部生物学科の人類学教室を選んだ。目論見どおり、霊長類の遺伝子レベルの進化研究と出会ったわけだが、最初は、色覚とはまったく関係がない方面だったそうだ。

河村さんがオプシンに出会うまで

「大学院時代は植田信太郎先生のご指導で免疫関係の遺伝子の進化の研究をしていました。ヒトとチンパンジーやゴリラの塩基配列の違いを調べてました。学位を取って博士研究員(ポスドク)先を探しているときに、アメリカのシラキュース大学(当時)で、魚のオプシンの研究をやっていた横山竦三(しょうぞう)先生がポスドクを探しているのを知ったんです。それに応募して、そこからですね、オプシンを自分の研究対象としたのは。でも、ポスドクでやっていたのは、アメリカン・カメレオン、一般にグリーンアノールといわれていますけど、その全オプシン遺伝子を決定して、次にハトでした」

 なんと、河村さんは、ポスドク時代に爬虫類と鳥類のオプシンを調べて、色覚については、やはり「魚類から霊長類まで」脊椎動物を俯瞰する足がかりをすでに作っていたわけだ。その後、古巣の東京大学に復帰して、その時点では、魚類(ゼブラフィッシュ)と新世界ザルという二本柱をすでに決めていたという。ポスドク時代に、オプシンの研究を深めたことで、昔から抱いていた「遺伝子で進化の研究を」という目標への具体的な切り込み方を決めることができた。

 前に紹介したゼブラフィッシュやメダカの研究も、その成果のひとつだ。

 一方、新世界ザルの方は? ゼブラフィッシュのように研究室で手軽に飼うわけにもいかないし、行動を見たいならどのみち、野生のフィールドが必要だ。偶然に助けられつつも、コスタリカでオマキザルを研究しているカナダ、カルガリー大学のリンダ・フィディガンさんや、クモザルの研究をしているジョン・ムーア大学(イギリス、リバプール)のフィリッポ・アウレリさんたちのフィールド調査に参加することになった。

Photo_20201127183901河村さんが研究しているクモザル、ホエザル、オマキザル。

色覚多型の野生での例を探しに新世界

「新世界ザルは色覚がオスとメスで違っていて、メスの中でもさらに違っているんです。それが行動の違いにも反映しているかもしれないという話をして、それは、面白い! と言ってもらえたんです。でも、最初は、相手も半信半疑でした。オプシンの遺伝子を見るには、糞のサンプルがあればいいんですが、そもそも、そんなに採れるのかと。彼らも観察している群れの血縁関係とかを知るのに糞サンプルを採っていたんですが、そんなにたくさん集まらないというのが実感だったみたいです。だから、どれくらい集められるのか、集めたところでどれくらいDNAが抽出できて、ちゃんと遺伝子を増やせるのか、増えたところでオプシンの多様性はあるのかとか、何段階もの疑問はあったんだけれども『1回試しに来るだけ来てください』ということで、行ってきました。2003年7月ですね」

 河村さんたちも、ニホンザルなどの糞からDNAを採る練習をして、問題なく抽出できることがわかっていて、では実際に新世界ザルをやってみたらどうなるか、という挑戦だった。

Photo_20201127184001捕獲の必要や生体を傷つける恐れがないため、野生の哺乳類からDNAを採る場合、糞や毛を用いることが多い。

「それが、わりと採れたんですよ。行動観察をしている人はそれに専念していて、その合間に糞を採っているんだけれど、こっちは糞を採るだけなので、一緒について行って、あ、糞したと言っては、そのたびに行って集めて回る。やっぱり、専念する人間がいると採れるんですね。たった1週間で、オマキザルもクモザルもそれぞれ20くらいは採れて、彼らも『へえっ、いっぱいとれますね』という感じでしたね。それで日本で分析してみたら、DNAはちゃんとあると。それでオプシンの遺伝子をPCRという方法で増やして、実際に多様性があるとわかりました。これで向こうも俄然やる気が違ってきて。それから、かなり緊密な共同研究体制ができて、僕の研究歴の中でも非常にうまくいっている共同研究です」

 新世界ザル、この場合、オマキザルとクモザルでは、同じ群れの中に、複数の種類の色覚を持った個体が混ざっている。以前から、色覚多型があることは知られていたが、それらが、例えば地域個体群ごとに違うのではなく、同じ場所で暮らしている群れの中にすべてのバリエーションが見られることが分かった。これは、河村さんたちの発見の「その1」である。

Photo_20201127184201円グラフが各地域の個体群のなかにおけるオプシンの多様性を示している。色覚多型が維持されている群れが野生のなかに本当にあった!

新世界ザルの色覚多型はこうなっている

 なお、新世界ザルの色覚の多型は、大変なもので、実は、同じ群れの中に6種類の色覚が混在することもある。3色型だけで3種類、そして、2色型に3種類だ。3色型になるのは、ある割合のメスだけで、残りのメスとすべてのオスが2色型。なぜ、こういうことになるかというと、やはり性染色体が絡んでいる。X染色体の上に、オプシンの遺伝子があるのは、一緒。ただ、違いは、ヒトや多くの「旧世界ザル」の場合、1本のX染色体の上に赤と緑、2つのオプシン遺伝子があるのに対して、新世界ザルでは1つだけ、ということだ。

Photo_20201127184501新世界ザルの色覚多型の仕組み。赤・緑・青の矢印はそれぞれ赤オプシン、緑オプシン、青オプシンで、黄色い矢印は赤と緑の中間的なオプシン。ヒトではX染色体に赤・緑の2つのオプシン遺伝子が重複しているのに対して、新世界ザルでは1つしかない。

「オスはX染色体が1本だから、常染色体の上にある青オプシンとあわせて2種類のオプシン遺伝子しかもちません。オスはすべて2色型色覚になるわけです。一方、メスはX染色体が2本なので、2本の間で違う型だと3色型になります。ちょっと複雑ですが、同じ場所を占めるオプシン遺伝子が3種類の場合だと、メスだけ限定で、ABOの血液型に似ているかもしれません。組み合わせがAAとかBBとかOOですと、同じ遺伝子なので、メスでも2色型になります。AB、AO、BOなどですと、違うオプシン遺伝子を持つので、3色型です」

 血液型の場合、AAとAOはともにA型、BBとBOはともにB型と分類されるので、ちょっとややこしい面もあるが、3種類の対立遺伝子(今は「アリル」と言うそうだ)の関係という意味では確かに似ている。とにかく、オスは2色型のみで、メスは2色型と3色型がありうる。3種類のオプシン遺伝子のどれをX染色体に持つかによって、2色型でも3種類あるし、3色型にも3種類あることになる。しめて、同じ群れの中に6種類の色覚を持った個体が混ざることになる!

 旧世界ザルの世界では、テナガザルにせよ、ニホンザルにせよ、チンパンジーにせよ、「正常な」3色型色覚に自然選択が強く効いているというこれまでの結論とは違い、こういった多型色覚が、進化的にも安定しているわけだ。例外といえば、夜行性のヨザルが1色型色覚であることと、ホエザルが「全員3色型」であることくらい。分類群で「科」をこえて、ほぼ普遍的なことなのである。

 なぜ、こういうことになっているのか。河村さんの探求は続く。

Photo_20201127185301遺伝子からフィールド調査まで、さまざまな角度からアプローチしている河村さんが関わる学会は多岐にわたっている。

 」が本当に有利なのか 

NATIONAL GEOGRAPHIC 2020年11月29日(日)12時32分配信

ヒトの色覚は正常」「異常と言えるものなのか

 河村さんたちの探求は、実験室でのオプシン遺伝子の研究から、新世界ザルの行動観察をするフィールドまで、すっきりとつながったものになった。

 これは、ある意味、進化生物学者の夢の達成だ。どんどんミクロに見て、遺伝子レベルで解明できたことが、実際に生き物が日々の行動の中でどのように影響しているのか、その適応的な意味とはなになのか、直接、調べることができるテーマは、未だにそうたくさんある話ではない。

 そして、河村さんたちのフィールドワークは、これまでの常識をひっくり返す発見をもたらした。

「3色型の有利性がどれくらいのものなのか、本当にあるのかということも含めて調べましょうということで、何をしたかといいますと、まず、果実や葉っぱの反射率を測定して、色を数値化する作業をしました。同時に降り注ぐ太陽の光の波長測定をすれば、サルのオプシンの吸収波長はわかっているので、そのサルにとってその色がどんなふうに数値化できるかといえるわけです。2004年から2005年にかけて、博士課程の学生だった平松千尋さん(現・九州大学助教)が、25頭の群れを8カ月見続けて得たデータです。こういった研究を練り上げるのは、平松さんとアマンダ・メリンさんという当時のカルガリー大学の学生さん(現アシスタント・プロフェッサー)が相談して決めました。それで、2人の共同研究でどんどん面白いことがわかってきたんです」

Photo_20201127190101サルのオプシンがどの波長を見やすいかがわかっているので、果実や葉っぱが反射する光の波長を測定すれば、サルにとっての見え方がわかる。

 例えば、クモザルが主に食べる果実を採集してきて、熟したもの未熟なものの反射特性を見る。果実といっても、熟すとはっきりと色が変わるものもあれば、あまり色が変わらないものもある。さらに様々な木の葉も測定する。そして、それらが、3色型のクモザルを想定した色度分布のグラフでは、葉と果実がきっちり区別して見えることが分かった。一方、赤・緑の区別がつかない2色型では、葉と果実の区別がまざってしまい区別がつかないこともわかった。ここまでは、以前、紹介した2000年の論文と同様の結果で、ある意味、予想通りだ。

Photo_202011271903013色型のクモザルでは葉と果実がはっきりと区別されて見えることが明らかになった。

3色型と2色型の行動を比較した結果、驚くべきことが明らかに

「そこで、行動観察もちゃんと数値化することにしました。果実を発見してから食べるまでの流れを考えると、まず見つけるところから始まりますね。これを『発見』とします。それからかじったり、臭いをかいだり、触ったり、じっと見つめたりして確かめる。これをインスペクション、『検査』。それから最終的に食べるか、口に入れてからペッと吐き出すか、あるいは食べずにポンと捨てるか。これを『摂食』。そういったふうに定義して、単位時間当たりにどれだけのことをやるか割り出してみたんです。果実検出の頻度ですとか、正確さ、そして、時間あたりで考えたエネルギー効率ですとか。さらに、嗅覚にどれだけ依存するか。けっこうサルはよく臭いをかぐので、気になりだして、これも観察して評価しました」

 その結果、驚くべきことが分かった。理論的には、3色型が有利になって然るべきなのだが……。

「予想に反して、3色型と2色型に違いがまったくありませんでした。さきほどの3つの行動指標のどれでも、まったく差がない。どういうことだというので、結局あれこれやってわかったことは、実は明るさのコントラストが一番利いていたということになったんです」

Photo_20201127190401クモザルにとっての輝度の見え方を示した図。横軸が輝度。全体として果実と葉の輝度は重なっているが、部分部分でみると違うところが多い(赤い果実は葉よりも暗い傾向がある)。

 これは、えええっ、というくらい驚きの結果だ。

 だって、3色型の色覚なら背景の葉っぱから、果実の赤がポップアップして見えて有利なはずではないか。明暗だけをたよりにしても区別しにくいのではなかったのか。

2色型のほうが有利なケースも!?

「ひとつの解釈は、僕たちの観察は、サルが果実のすぐ近くに行ってから先の行動を見ているんですね。一旦近くまで行ったら、色覚型の優位性ってほとんどなくなっちゃうんじゃないかというものです。それから、臭いをよくかぐんですけど。これ熟してもあまり色が変わらなくて葉っぱと見た目が似ている果実の方をよく嗅ぐんです。3色型も2色型も同じです。つまり、眼で見てよくわからないのは、臭いをかいで、その結果として食べたり食べなかったり決めると。使える感覚は何でも使って採食を行っていると。言われてみれば当たり前のことがわかったんですけども、要するに3色型がすべてを決定しているキーではないということですね」

 研究はさらに続く。

「実は、2色型のほうが良いという事例まで見つかってきたんです。それは昆虫を食べる時です。2色型色覚は確かに赤・緑の色コントラストに弱いけれども、逆に明るさのコントラストや形や形状の違いに非常に敏感なんです。それで、カムフラージュしているものに対しては2色型のほうがより強いと。それで、単位時間当たりにどれだけ昆虫をつかまえたかというのをオマキザルで実際に調べたら、2色型のほうが良いとわかりました。特に森の中で日が差さない暗いところに行けば行くほど、2色型が有利で、3倍近く効率がいいんです。統計的にもきちんと有意です。これは、アマンダ・メリンさんが学生時代から頑張ってとってくれたデータです」

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Photo_20201127191101森の中でノドジロオマキザルが昆虫を1時間に何匹捕まえたか(捕獲率)を調べた結果。縦軸が捕獲率で、横軸が左から日向・日陰・森の中から空が見えない暗い状態。棒グラフペアの茶色(左)が2色型で、緑色(右)が3色型。

 野生の動物で2色型のほうが有利であったというデータはこれが初めての報告だったので、この研究は、「サイエンス」誌のオンラインニュースに内容がピックアップされて紹介されるほど話題を呼んだ。

 こういう2色型有利の結果が出る理論的な説明として、非常に興味深いものがあるので紹介する。

カギはやはりヒトのオプシンにある?

「霊長類の赤・緑色覚というのは、実は物の形を見る神経回路をそのまま使っていて、物の輪郭を見る機能を犠牲にしているんですよ。なので、サルに丸いパターンを選ぶと餌がもらえるという訓練をして、それを緑だけ、赤だけで訓練を重ねていって学習をしたあとに、ときどきモザイクになっているやつを混ぜる実験をします。そうすると3色型色覚のサルは、とにかくすぐにエサがほしくて手を出して、正答率が偶然レベルまで落ちてしまうんです。人間に同じテストをやると、間違えはしないんですが、答えまでの時間が長くなります」

Photo_20201127191501上左側が3色型での見え方、右側が2色型での見え方を表した図。下の棒グラフはサルでの実験結果で、左2本が3色型で右4本が2色型。

 2色型は、明暗を使ってものの輪郭を見分ける明度視に秀でている、と。それは、霊長類の赤・緑の色覚が実はものの輪郭を見るための神経回路をそのまま流用しており、輪郭を見る能力を犠牲にしているからという説明だ。これは、東京大学総合文化の博士課程の学生だった齋藤慈子さん(現在、武蔵野大学講師)の仕事で、前述の平松さんやメリンさんとあわせて、河村研究室の新世界ザル研究におけるレジェンド的な存在である。

 さらに河村さんたちは、3色型と2色型では、繁殖成功率に変わりがないことを示したり、むしろ2色型の方が高い傾向があることまで示した(有意な差ではない程度)。本当に驚くべき結果が、次々と出てきたのである。

 さて、なぜ、こういうことになっているのか。ヒトを除く旧世界ザルや類人猿のほとんどに、3色型の強い選択圧がかかっていることを考えれば、本当に不思議な話だ。なにかもっとシビアな環境、たとえば、乾燥で森に果実が少なくなり、探索が難しい時期が10年か20年に一度あって、その時に、3色型が圧倒的に有利になるとか、もっと長い間みないとわからないことかもしれないし、単にデータの量の問題かもしれない。素人ながら思いをめぐらせた。

「完全に2色型と3色型で差がないとなると、遺伝の多様性をどうやって維持するかという話になってきて、中立変異と同じになっちゃいます。中立変異はいずれは消える運命なので、それにもかかわらずさまざまな色覚の型が残っているということは、何らかのメリットがないといけないはずです。やはり、2色型には2色型のよいところがあって、3色型には3色型のよいところがあって、両方いることはいいのではないかということですね」

ヒトが色覚多型を維持している意味は

 魚類から始まって、ヒトを経由して、新世界ザルの色覚の世界を旅したあとで、やはり、立ち戻るのはヒトだ。

 旧世界の霊長類、とりわけ狭鼻猿類(ヒトや類人猿やニホンザルや多くの種類を含む)のほとんどが、保守的でゆらぎない3色型色覚なのに、ヒトだけがはっきりと色覚多型を維持している意味とはなんだろう。新世界ザルのフィールドに、河村さんが飛び込んだのも、その疑問があったからだ。

「少なくともヒトでは、3色型を維持する選択圧は緩んでいるんでしょう。では、なにが選択圧を緩ませているのかなんですけども、少なくとも産業革命や農耕文明といったことではないんじゃないかというのが、今の考えです。というのは、赤オプシンや緑オプシンの一方がないのも、オプシン遺伝子の前半後半が組み換わったハイブリッド・オプシンも、ほとんど集団によらないんです。ヨーロッパ系であろうと、アフリカ系であろうと、アジア系であろうが。狩猟採集民だろうが、農耕民だろうが、どこでもわりと簡単に見つかるんですよね。そうすると、こういったものはずっと前からあるということになるわけです」

 ヒトにおいて、色覚多型は、普遍的。どこにいっても一緒。ということになると、ヒトがヒトとして成り立った時には、もう「3色型だけ」を維持する選択圧は緩んでいたということだろうか。

「ひとつ考えられるのが、森林の外での狩猟です。3色型色覚はそもそも、霊長類の森林適応だとされているわけですから。ヒトは約200万年前、ホモ属になったあたりから森林を出てサバンナを主な生活の場にして、石器をつくって狩りをして生き延びてきた種であって、それはゴリラやチンパンジーとはまったく違う生態系であるわけですね。そうすると、狩猟において獲物はカムフラージュがかかっているし、狩猟をすれば自分も肉食獣に狩られるかもしれない。肉食獣はたいていカムフラージュがかかっているから、集団の中に2色型や明確な変異3色型の人がいることが、それぞれの生存に有利につながる可能性も考えられる。単に緩んだだけではなく、多様性のなかにメリットがあるんじゃないかという話です」

 ここで、なにか涼やかな風が吹いたように感じた。「2色型や明確な変異3色型」というのは、今の医学の言葉では「色覚異常」とされる。しかし河村さんの研究の上に立って見渡すと、実はヒトの集団が持っているのは「異常」ではなく、「多型」なのだ。

 河村さんたちの研究と呼応するかのように、色覚を「正常」「異常」という枠組みで捉えるのをやめようという動きもあると教えてもらった。

 これまでの「正常色覚」を、「C型色覚」(Cは Common のC、「よくある」とか「ありふれた」という意味)と呼ぶ。「正常」かどうかはともかく、少なくとも多数派ではあるわけで、それを「コモン」と呼ぶのは理にかなっている。

 一方、かつて「色弱」「色盲」と呼ばれた少数派の色覚は、欠けたり変異しているオプシン遺伝子をもとに再編された新カテゴリーとして、P型、D型などと呼ばれる。Pというのは、Protanopes のことで、「proto(第一の)」+「an(欠損)」+「opia(視覚)」、つまり「第一の欠損色覚」のような語感。具体的には、赤に相当する波長を感じるオプシンが変異したり欠けている色覚を指す。D型の方は、Deuteranopes の「deuter(deutero)」が「第二の」という意味で、緑に相当する波長を感じるオプシンが変異したり欠けたりしている色覚だ。

 C型、P型、D型という言い方をする時に、問題とされているのは、多数派か少数派か、そして、遺伝子のどこに変異や欠損があるか、ということで、優劣の問題は前景から退く。

「感覚について、これが優れているとか、優れていないとかいうのは、間違っていると思います。3色型は2色型より優れている、あるいはその逆とかいうのは、進化の視点から見たらかなり違う。常識で思っている優劣、とくにそれが遺伝子に根ざしているものには、多くの場合、別の理由があるんです。ここに至るまでにものすごく長い歴史があって、その中で培われてきたもので、そこで生き延びてきたことには意味がある。一見、不利なようなものが、実はそれがあったからヒトがいるのだと。ヒトの色覚多型は、その一例なんだと思います」

 河村さんとの対話は4時間近くに及んだ。

 話し終えて、ふうっと深呼吸した。

 色覚研究の深い世界を垣間見るとこができて、それ自体、好奇心を掻き立てられた。本当に、この世界は底知れず、興味深い。それに加えて、河村さんが最先端の研究を通じて感得した多様性への思いに、深く共鳴し、胸が熱くなった。

 そして、そんなぼくに対して、河村さんは、スライドに記されたすでに公になった研究とは別のことも、さらに熱を込めて語ってくださるのだ。つまり、現在進行形の研究について。

「今後、これまでの魚類と霊長類のオプシン研究(色覚研究)を基盤に、嗅覚や味覚へと研究を広げていこうとしているところです。野生のフィールドに出て、色覚だけではなく、他の感覚との統合が大事だと感じまして。だから、新世界ザルの同じサンプルを使って嗅覚や味覚の遺伝子の多様性を調べたり、サルたちが食べている森の果実の匂い成分を調べたりしているんですよ」

 嗅覚や味覚にかかわる遺伝子は、色覚とは比較にならないほど複雑で、これまでなかなか手を出せなかったそうなのだが、今は次世代シーケンサーに代表される新技術で、複雑なものを複雑なまままとめて扱う研究もできるようになっている。色覚を通じてフィールドとラボをつないだ河村さんの研究が、さらに幅広く深く進むための道具が追いついてきたともいえる。

 遠からず成果が続々報告されそうだ。引き続き、楽しみに待とう!(おわり)

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2020年11月23日 (月)

【ナショジオ】ヒトの半数『色覚異常』✍どのように進化してきたのか㊥

 色覚」は凄い!その驚くべき仕組みと能力 

NATIONAL GEOGRAPHIC 2020年11月21日(土)12時22分配信

なぜわたしたちには色覚があり、どのように進化してきたのか

 色覚に関係する視物質オプシンには、大きく分けて5種類あり、それらは脊椎動物の共通祖先の時代には出揃っていた。

 進化の初期の段階で、だいたいのレパートリーが出揃って、その後、刈り込まれていくような現象は、よく聞く。約5億年前に起きたいわゆる「生命のカンブリア爆発」では、生物の進化の歴史の中でも特筆すべき多様性が花開き、後に刈り込まれていったとされる。

 見せていただいた「脊椎動物視覚オプシンのレパートリー」の表がとてもおもしろい。

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「4種類の錐体オプシンと、1種類の桿体オプシンということで、5種類。それらを、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類、そして、哺乳類の中でも特に霊長類で、どんなものを持っているか表にしています。『○』をつけているのはそれを1個持っているという意味で、『◎』にしているのは、同じ型でも2つ以上の微妙に違ったサブタイプを持っている場合です。そうすると、魚類はすべて『◎』で多様な色覚を発達させたのがわかります。それと、哺乳類を除く四足動物は基本的にこれらを1個ずつ持っている4色型ですね。先祖代々のセンサーをずっと大事に1個ずつ維持していると。ただ、両生類だけ緑型のオプシンが見つかっていません。これは単に見つかっていないのか、本当になくしちゃったのかは、まだわかりません」

 ここで際立つのは、とにかく魚類の色覚を司るオプシンが多様であることと、哺乳類以外の脊椎動物はだいたい4色型の色覚を持っていることだ。

 哺乳類についてもうちょっと詳しく見ると、いったん緑型と青型をなくして、2色型になってしまったことが分かる。また、さらに霊長類は、いったんなくした緑型を、赤型のサブタイプとして新たに創りだしたことや、紫外線型だったものを青方面に寄せて青型のように使っていることなども。

 ここでは、魚類の持つ多様な色覚の話に進む。

なぜ魚のオプシンの種類は多いのか

「どうして魚類がそれだけ各タイプを多様化させるのかということですが、それは水中の光環境が非常に多様だということであろうと考えています。水深によっても届く光の波長がずいぶん変わってくるし、大洋とか深海溝でも違います。バイカル湖みたいな非常に広くて深い、透明度も高いような環境と、河川、ふつうの湖とか沼というところでも、透過できる波長や水深がまったく違ってきます。

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 海ですと、だいたい400数10ナノメーターくらいの光が最も透過性がよくて、あとは吸収されたりしちゃう。目に飛び込んでくるのは残った波長だけだから、海は青っぽく見えると。湖や川の水が何となく緑っぽく見えるのは、より長波長にシフトしていて、それは植物プランクトンとかいろいろなものが混ざっているからですね」

 色覚の起源は、浅瀬で明暗が変わりやすい環境だったという話があったけれど、ここでは魚類というグループとして見た時の環境の多様性が、色覚の多様性を維持している、みたいな話だと理解した。個々の種では、それほどではなくても、魚類全体では、いろいろな色覚があるのだろう。いかにも、ありそうなことだ。

 などと、思っていたら、実は同じ種、それどころか個体レベルでも多様な色覚がある! ということがすぐに判明した。

「ウナギとかサケみたいに、海と川を行ったり来たりするものもいますよね。彼らは、海にいるときはより短波長のセット、川に来たらより長波長のセットに切り替えたりするんですよ。網膜上に発現してくる視細胞が違ってくる、と」

 これは、すごい。

 たしかに海と川で周囲の光が違うなら、それぞれに最適化した視物質のセットを持った方が有利だろう。それを実際にやっているとは!

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 魚類の色覚の神秘はそれだけではない。河村さんみずからの研究室で手がけている研究でも、非常に面白いことがわかっている。

4種類、5種類は当たり前!?

「魚類と一口に言ってもいっぱい種類がありますけど、僕たちのところでやっているのは、まず骨鰾類(こっぴょうるい)。コイとか金魚とかが入るグループで、ゼブラフィッシュというのを特に研究をしています。

 それと、棘鰭類(きょっきるい)というグループがあって、メダカとかグッピーとかトゲウオなどが入っています。ここからメダカを特に選んでいます。ゼブラフィッシュもメダカも、実験動物として非常によく研究されていて、遺伝学や発生学のいろいろな実験ツールが使えるというメリットがあるし、世代時間も比較的に短くて飼育しやすい。骨鰾類と棘鰭類が分岐したのは、かなり昔でだいたい2億5000万年くらい前ですので、この2つを調べることでかなり広く魚類の一般的なところに迫れるかもしれないと思っているわけです」

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 ゼブラフィッシュもメダカも淡水の魚だ。ウナギやサケのように海水と淡水を行き来することはない。とすると、比較的シンプルな生活史で、視物質のレパートリーもそれほど複雑なことにならないんじゃないだろうか。

 河村さんたちはオプシン遺伝子の種類を確認するだけでなく、遺伝子を転写したRNAを網膜から抽出して、実験室で視物質(タンパク質オプシン+色素レチナール)を実際に再構成した。そして、吸収波長を測った。

「ゼブラフィッシュは、吸収波長の違う赤オプシンを2種類持っていて、緑オプシンは4種類持っているとわかりました。そして青オプシンと紫外オプシンを1つずつ持っています。桿体オプシンもあります。あとで、外国の研究者が桿体オプシンをもう1つ見つけたのでオプシンは全部で10種類です。メダカは、赤2、緑3、青2、紫外線1で、それに桿体のものを加えれば、9種類。ただし、メダカの2つの赤オプシンの吸収波長は同じでした」

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 ちなみに、緑オプシンのサブタイプは、棘鰭類(メダカ)と骨鰾類(ゼブラフィッシュ)の系統が分岐した後に、いわゆる遺伝子重複という現象の結果、独立して獲得されたそうだ。オプシン遺伝子の配列をもとに系統樹を書いてみると、それが鮮やかに分かる。

たくさんの種類を使いこなす驚異のメカニズム

 さてさて、では、ゼブラフィッシュもメダカも、これだけたくさんの種類のオプシン遺伝子を持っていて何に使っているのだろうか。いちいち、同時に発現させているのだろうか。あるいは、サケやウナギのように、環境に応じて使うセットを変えているのだろうか。

 河村さんの研究では、少なくともゼブラフィッシュでは、なんと「同時に全部」だ。

「見える波長の異なるいろんな種類のオプシンがあることはさっき言いましたが、ゼブラフィッシュでは、それが実際に発現していて、使われている網膜上の場所も分化しているということが分かったんです。遺伝子にラベルしておいて、どこで発現しているか分かる方法がありまして、それで確認しました」

 これは概念図を見た方がいい。

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 ゼブラフィッシュには2種類の赤オプシンの遺伝子があるけれど、それが、ちょっと偏った「同心円状」に発現する場所が分かれている。また4種類ある緑オプシンも同様で、これは4つあるのでさらにはっきりとその傾向が分かる。

 これにはどんな含意があるのか、眼球全体を縦に切ったような形で図示すると驚くべきことが明らかになった。

(※) 図はTakechi, M., & Kawamura, S. (2005) The Journal of Experimental Biology, 208 (Pt 7) より改変

「同心円状」の理由が一目瞭然

「魚の眼球の断面で見て、おおまかに当てはめると、こんな感じになっているんです。網膜の腹側(下側)、つまり上を見る視角ですね。それがより長波長のオプシンのサブタイプを使っていると。一方で、より短波長のやつは背側(上側)で、下を見る視角に使っている。

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 つまり、見る角度によって色覚を変えていると。このほかに紫外線オプシンや青オプシンを持っているので、ゼブラフィッシュは基本、4色型なんですね。でも、その構成要素を変えているということで、違う4色型にしているわけですね」

 いやあ、これは意表を突かれた。

 言われてみれば、たしかに意味があるような気がする。水の中を泳ぐ魚にしてみると、水面方向と水底方向では、まったく光の環境が違う。それぞれ違うセンサーのセットを使って見るのは、理にかなっているかもしれない。ただし、なぜこういう分かれ方をしているのか、どれくらい魚類の中で普遍的なのかはまだよくわかっておらず、これも合理的な説明を探さなければならない、という状況だそうだ。

 河村さんの研究チームは、どうしてこのような発現の仕方になるのか、メカニズム的な部分については、きれいに解き明かしている。「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」という著名雑誌に論文が掲載されたほどの良い研究成果なのだが、正直、この連載の水準で追いかけるのはちょっと困難だ。思い切りざっくり言うと、遺伝子の発現を制御する「エンハンサー」の場所を特定し、わずか500の塩基配列にまで追い詰めたというに留める。

「ゼブラフィッシュやメダカの研究では、僕が研究室を構えた初期から、知念秋人くん、武智正樹くん、松本圭史くん、そして辻村太郎くんといったやる気のある優秀な学生たちが来てくれたおかげで、すごく進んだということを述べさせてください」と河村さんは付け加えた。

 彼らは、ここまでの研究に心血を注いだ、河村研究室のレジェンド的な存在なのだそうだ。

 なぜ霊長類また3色型色覚を獲得したのか、そしてヒトだけの特殊事情とは… 

NATIONAL GEOGRAPHIC 2020年11月22日(日)12時22分配信

ヒトの半分が「色覚異常」!? そんな話は聞いたことがないけれど…

 霊長類は教科書的に言っても、視覚の動物であるというふうに昔から言われている。発達した視覚システムが霊長類の大きな特徴だ、と。

 眼球が正面を向いていて立体視ができるとか、視細胞の密度が高くて、空間解像度が高い(デジカメでいうと、画素が多い)とか、さらには3色型色覚。

 前回は、魚類の色覚の話で、ゼブラフィッシュは4色型色覚を持つのみならず、水面方向と正面や水底方向で、網膜上に違うセンサーのセットを持っていることを知った。

 しかし、哺乳類は、魚類のみならず、両生類、爬虫類、鳥類とは違って、いったん2色型色覚になっており、霊長類で3色型になったという経緯を持っている。

「中生代の恐竜の時代、おそらくわれわれの祖先は、夜行性の小動物だったと考えられていて、暗いところでは高度な色覚は必要なかったと考えられています。むしろ夜行性への適応をしたほうが、はるかに彼らにとってはよかったのではないかと。それで基本的に脊椎動物は4色型なんだけれど、哺乳類は錐体を2種類失って、2色型になったんです。霊長類以外の哺乳類はだいたいそうです」

 というわけで、今、視覚の動物である霊長類は、失った緑のオプシンを、赤のオプシンを変異させることで、また、青のオプシンは、紫外線オプシンを青方面にスライドすることで、RGBの色空間を得た。その背景には、霊長類が暮らしていた森の環境があるのではないか、と考えられている。

「葉の緑と果実が熟した時などの赤を識別できるかというと、2色型はできないんです。明度(明暗)が違えば識別できますけど、同じ明度で、色度だけをたよりに区別しようとしても完全に埋もれてしまう。2000年に発表された有名な研究があって、森の中での3色型色覚の有利性を示した図があります。これを見てください」

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 縦軸に「黄─青」をとって、横軸に「緑─赤」を取る。本当は赤緑青のRGBの色空間で見るとよいのかもしれないが、簡略化するため適切な切り口で2次元に落としていると考えてほしい。横軸に「緑─赤」を取ってあるのは、2色型と3色型の色覚の違いが、ここを識別できるかどうかにあらわれるからだ。

 さて、この平面の中で、森の中にある葉は縦に並ぶ。つまり、「黄─青」成分は様々だが、「緑─赤」成分は「葉は緑」ということでだいたい同じなのだ。一方で、熟した果実は、葉とは離れたところにかなりばらついて分布している。どうやら、3色型の色覚を持っていれば、葉と熟した果実を、色覚を使って見分けられそうだ。

 一方、2色型の色覚では、「緑─赤」が区別できないので、横軸に「明暗」を取ってみる。つまり、「緑─赤」の色覚の代わりに、明暗を手がかりにするとどうなるか。すると、葉と果実はぐちゃーっと混ざってしまった。区別できそうにない。

「3色型の色覚なら、緑の背景から黄色やオレンジや赤っぽい果実がポップアップして見えるということです。そういう効果は遠距離ほど緑の背景が同時にひとつの視野に入るわけで、効いてくるはずです。近寄ってみれば、2色型でもそれなりに識別できるはずなんですが」

(※) 図の出典:Sumner, P., & Mollon, J.D. (2000) The Journal of Experimental Biology, 203より改変

ヒトの半分が「ハイブリッド・オプシン」を持っている!?

 なにかこれですっきり説明できてしまった気がする。ストーリーとしてとてもよくできている。河村さんの研究でも、狭鼻猿類、つまり、ヒトに近い類人猿やニホンザルのグループは、「恒常的な3色型」で、森の中で果実を見つけやすい。

「類人猿やニホンザルを含む狭鼻猿類の3色型色覚は、非常に保守的なんです。つまり、非常によく保存されていて、例外が少ないという意味です。恒常的3色型といいます。僕たちの研究では、東南アジアの小型類人猿テナガザルを調べました。生息地の東南アジアのいろんなところからDNAサンプルを集めてきて、3属9種、個体数で152個体、まったく例外なく普通の3色型でした」

 そして、河村さんたちは、集めたテナガザルのサンプルから、「3色型色覚が非常に強固に守られている」ことも、しっかりと示した。この話は、さらにさっきまでのストーリーを補強するもので、やっぱり、霊長類は3色型色覚が有利よね! という話になる。

 ところが!

 ヒトのことを考えると、とたんに「景色」が変わる。

 というのも、ヒトはバリバリの「狭鼻猿類」なのに、はっきりと「色覚多型」があるからだ。つまり、3色型ではない個体(人)が、普通に混じっている。

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「ヒトをサーベイすると、通常の3色型色覚だけではなくて、緑オプシンと赤オプシンの遺伝子の前半と後半が組み換わったハイブリッド・オプシンが、50パーセント近く見られます。こういうのは、テナガザルを150個体以上みても、1個体もいませんでした」

 混乱した。

 ヒトの50パーセントが、テナガザルにまったく見られなかった「ハイブリッド・オプシン」を持つという。緑オプシンと赤オプシンの遺伝子の前半と後半が入れ替わったものだ。これって、つまり、「色覚異常」ということなのではないのだろうか。ヒトの半分が「色覚異常」、というのは聞いたことがない。

ヒトの特殊事情のヒントを求めて「新世界」へ

「これは、軽微な変異を含んでいるんです。軽微というのは、遺伝子の入れ替わり方によっては、色覚の検査をしても検出できないくらいの違いしか出ないものです。『軽微な変異3色型色覚』と言っています。でも、別の組み合わせになると検出できる違いが出てきて、『明確な変異3色型色覚』になります。これが赤緑色弱と呼ばれてきたわけです。さらに、2色型色覚があってこれは赤緑色盲と呼ばれてきました。明確な色覚の変異の頻度は、ヒトの場合、男性の3~8パーセント。あいだをとってだいたい5パーセントです」

 なるほど、これで納得できた。

 ぼくたちが日常的な意味で使う「色覚異常」は、男性の5パーセント。今更なかんじだけれど、注釈すると、「男性」なのは、赤オプシンとそこから派生した緑オプシンの遺伝子は性染色体(X染色体)の上にあり、どちらかに変異があると、X染色体が1本しかない男性の場合は直接効いてくるからだ。女性はX染色体を2本持っているので、変異があっても、正常型も同時に持てば、そっちでカバーできる。だから、「色覚異常」は基本的に男性に多い。

 さらに、用語について注釈しておくと、日本眼科学会では、2007年以来、「色覚異常」という言葉は使っても、色盲や色弱という言葉は使っていない。色盲は「2色覚」(まれだが1色覚もあり得る)で、色弱は「異常3色覚」だ。色盲や色弱という言葉に、否定的な響きかあるというのが大きな理由だ。「異常」というならやはり否定的ではないか、という意見もあるけれど、本稿では基本的に日本眼科学会の用語に従うことにする。

 さて、ヒトの場合、男性の5%だった「色覚異常」が、テナガザルではゼロ。チンパンジーでは、0.6パーセント。カニクイザルなどのマカクでは、さんざん探して0.4パーセントとの報告だという。ヒトとは文字通り「桁」が違う。

 これは、ヒトだけの特殊事情なのだが、なぜこういうことになっているのだろう。

 ヒトのことだけに気になる。

 では、ヒントはどこにあるだろう。

「僕たちは、新世界ザルに注目しました」と河村さん。

 新世界ザルとは、ユーラシア、アフリカの旧世界ザル(主に狭鼻猿類)に対する呼び方で、文字通り、「新大陸」の中南米に分布するグループだ。広鼻猿類ともいう。クモザルやオマキザルやホエザルやタマリンや、中南米の霊長類はこの中に入る。英語だとニューワールドモンキーだ。

「新世界ザルでは、色覚多型であることがごくふつうなんです。ひとつの集団の中に2色型と3色型がふつうにいるので、彼らの果実採食効率を比較するとかすれば、3色型色覚が本当に果実を食べるのに良いのかとか、さまざまな色覚型を持つ意味が検証できるだろうということです」

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関連エントリ 2020/11/27 ⇒ 【ナショジオ】ヒトの半数『色覚異常』✍どのように進化してきたのか㊦
関連エントリ 2020/11/22 ⇒ 【ナショジオ】ヒトの半数『色覚異常』✍どのように進化してきたのか㊤
関連エントリ 2015/01/16 ⇒ 【ナショジオ】座敷犬は「テレビ画像」を感知できる!?

 

2020年11月22日 (日)

【ナショジオ】ヒトの半数『色覚異常』✍どのように進化してきたのか㊤

 色覚何故、どのように進化してきたのか 

NATIONAL GEOGRAPHIC 2020年10月24日(土)18時08分配信

 色とは何か、色の見え方にはどんな違いあるのか

 ふだんの生活で、ぼくたちは日々、目を通したいわゆる視覚情報に晒されている。

 もちろん、耳や鼻や皮膚などにある様々なセンサーを通しても、環境を認識しているわけだけれど、その中でも、目からの情報は膨大で、圧倒的に思える。活字を読むのも、ネットを見るのも、主に視覚情報を通じてだ。

 そして、ぼくたちの視覚には「色」がある。赤だとか緑だとか青だとかを区別できるというのは、ただ明るい暗い(明暗)だけを識別するよりも、便利なことが多いし、しばしば、「美」を感じるきっかけにもなる。情緒的な言い方にすぎるかもしれないが、色覚があるからこそ、世界は彩りにあふれて、美しい。

 実は色覚について、強い関心を持ってきた。小説の中でも、特異な視覚を持った一族を登場させたことがある(『天空の約束』と『雲の王』)。もっと知識を深めたいと思っていたところ、東京大学の柏の葉キャンパスに、色覚をめぐって幅広く、かつ、深く追究している研究室があると知った。大学院新領域創成科学研究科・先端生命科学専攻(さらに細かくというと人類進化システム分野)の河村正二教授が推進役になり、「魚類から霊長類」まで進化史を貫くような研究成果をつぎつぎと発表しているとか。ぜひ訪ねてみたい!

 東大・柏の葉キャンパスは、東京から見ると「つくば市の手前」、千葉県柏市にある。この連載では、バイオロギングでペンギンの研究を手掛ける塩見こずえさん(大気海洋研究所(当時))を訪ねたことがある。同じ敷地には、宇宙論研究の小松英一郎さんが上席研究員を兼務するカブリ数物連携宇宙研究機構や、先日、「ニュートリノ振動の発見」でノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さんの宇宙線研究所もあって、つまり、宇宙から生物まで学際的な雰囲気に満ちたキャンパスだ。

「生命棟」にある研究室にたどり着くと、河村教授は、みずから説明用のスライドを整えて待っていてくださった。スライドの数、100枚以上。色覚をめぐる最新研究の「旅」は、この時点でも、長く発見に満ちたものになると予感した。

 それはどういう「旅」になるのか。河村さんはまずこう言った。

イカやタコの色覚は?

「はっきりと色覚を持つのは、いろいろな動物の中でも、昆虫などの節足動物と、われわれ脊椎動物だけです。じゃあ、イカやタコはどうなんだというと、レンズは脊椎動物と似たものを持っていますが、色覚の証拠は今のところありません。脊椎動物は、魚類から霊長類まで、共通祖先の段階で色覚を持っていて、それが進化に大きな役割を果たしたと考えられています」

 どうして、ぼくたちの世界は色彩にあふれているのか。色覚が脊椎動物の進化にとって、ひとつの鍵となる感覚だったという話。魚類も、哺乳類も(その中の霊長類も)、それぞれ、色覚について様々な工夫を繰り返してきた。ダイナミックな進化の物語として、興味深そうだ。

 さらに──

「色覚の場合、実験室での遺伝子レベルの研究から、野生の生息地で動物たちが色覚に応じてどう行動しているのかということまで、ひとつながりにして確かめることができるんです。つまり、遺伝子と進化というテーマに、遺伝子を配列レベルで議論する分子生物学からも、フィールドの行動学からも切り込むことができるわけです」

 遺伝子の進化と、遺伝子が発現した形質の進化や、それに応じた行動、というのはもちろんセットになっている。理屈の上ではそうだ。でも、これまで、それらを同時にきちんと見て確かめることが難しかった。河村さんは、色覚というワントピックから一点突破して、その様子を垣間見ることに成功した数少ない研究者の一人だ。これまた、どういう内容なのか、興味がつきない。

 それでは、しっかりとお話をうかがっていこう。

ヒトの目の断面図をよく見ると

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 最初は、ぼくたちヒトの目の断面図から。

「目の奥にある網膜に、光を感じるセンサーとなる細胞があるのはご存知ですよね。視細胞といいます。大きく分けて2種類あって、桿体(かんたい)細胞と錐体(すいたい)細胞」

  網膜は眼球の奥にある層状のもので、それを細かく見ると、手前からガングリオン細胞だとか、双極細胞だとか、水平細胞だとかが並んでいる。それらがどんな役割を果たしているかはここでは触れない。むしろ、それらの奥にある、桿体細胞と錐体細胞に注目する。これらが、光を感じる細胞、いわゆる視細胞なのだ。

 おやっ、と思うのは、眼球のレンズである水晶体から見て、視細胞の手前にいろいろ別の細胞があることだ。邪魔ではないかと心配だが、これが脊椎動物のスタイルだという。タコやイカではこんなことはない。脊椎動物は初期のたまたまのデザインをそのまま踏襲して引き継いでいるのだろう。一見不合理に見えつつもそれほど問題でもないようで、今もそのままになっている。

 そして、視細胞に集中しよう。

光子1個をとらえる究極の超高感度光センサー!

Photo_20201122162901桿体細胞Photo_20201122163101錐体細胞

「桿体、錐体は、どちらも非常に複雑で特殊化したかたちをしています。外節部分と呼ばれるところに、すごく入り組んだ膜構造があります。桿体の場合は円盤状の膜構造体がぎっしり詰まっている。錐体の場合は細胞膜そのものが入り組んでいる。ここの部分の膜に、光のセンサーの分子が埋まっています。入り組んでいることで表面積をかせいで、よりたくさん埋め込むことができるわけですね」

 なお桿体の桿は、棒のような形を指す。飛行機などの操縦桿の「桿」だ。一方、錐体の「錐」は、文字通りキリのように尖っている。それぞれ形のまんまの命名だ。

 では、それぞれの機能に違いはあるのだろうか。

「まず感度が違います。桿体はすごく高感度で、薄暗いところでも見えるんです。薄明視といいます。光子1個でも反応する感度です。究極の高感度光センサーです」

 光子1個! これは驚くべきことだ。

 ニュートリノ振動を見出した「スーパーカミオカンデ」も、宇宙から来たニュートリノが時々発生させる光子を捉えて観測していた。その際のセンサーは直径50センチもある真空管のようなものだった。今では指先に乗る小さな半導体センサーが開発されていると聞いているけれど、我々の体にはもっと小型で同じくらいの感度のセンサーがとっくに搭載されていたわけだ。

 とにかく、桿体は暗がりでも機能する超感度。それが大事な点。

「一方、錐体のほうはそこまで感度はよくなくて、ある程度明るいところで働きます。ですので、桿体と錐体があることで、夜の星明かりの明るさから真昼のところまで、ものすごく広いレンジをカバーできるわけです」

 光子1個レベルの暗がりから光降り注ぐ真昼まで! そう書くとやはりすごい。

 しかし、ここでぼくたちが関心があるのは明暗ではなく、色、だ。それについては、どうなのだろう。

多くの生物に共通する「ものが見える」しくみとは

「色覚に関係するのは、明るいところで働く錐体の方です。たとえば、人間について言えば、赤、緑、青に反応する3種類の錐体があって、それらを使って色を識別しているんです」

 桿体は高感度で、薄暗いところでうまく働く(薄明視)。

 錐体は感度はそれほどではないが、明るいところで働き(桿体とともに広いダイナミックレンジを実現)、色を識別する(色覚)。

 こういう理解でいいだろうか。

 特筆すべきは、このような働きの違いがありつつも、桿体でも錐体でも同じ構造のタンパク質を視物質として持っていることだ。

 混乱するかもしれないので注釈すると、視細胞というと桿体や錐体のことをさす。大きく見れば、これが光センサーだといえる。しかし、もっとミクロに見ると、視細胞の中に、特に光に反応する視物質というものがあって、その部分で光の刺激が電気信号に変換されている。さっき、河村さんが言及した、入り組んだ膜の上にぎっしりとある「光センサーの分子」というのが、視物質ということだ。

Photo_20201122163301視物質「ロドプシン」の構造

「視物質は、オプシンと呼ばれるタンパク質と、レチナールと呼ばれる色素の組み合わせでできているんです。これは、生命の歴史の中で、光を感じる仕組みとして、かなり普遍的なものです」

 網膜→視細胞(桿体と錐体)→視物質とだんだん細かく見てきて、今、視物質がオプシン(タンパク質)と色素(レチナール)の組み合わせでできているとわかった。ぼくたちの視覚の基礎になる「光を捉える」仕組みは、このタンパク質と色素の働きによる。

 さて、タンパク質と色素のコンビはどのように光を受けるのか。

「ものが見える」起点は小さな物質のわずかな変化

「タンパク質オプシンの中に、色素レチナールが組み込まれています。レチナールは光を受けるとぱっとすばやく構造が変化して、オプシンがそれを刺激として構造変化を起こすんです。それを引き金に一連の情報伝達系が活性化されて、最終的に視細胞全体が『過分極』します。つまり、視細胞が興奮した状態になります。それが電気刺激となって、最終的に脳に行って『光が来たぞ』ということが分かるわけです」

 光を受ける→色素(レチナール)が構造変化→タンパク質オプシンが構造変化→視細胞(桿体や錐体)が興奮→神経伝達→脳が「光が来た」と知る。

 こういう流れだ。

 実は、色素レチナールは、ビタミンAから合成されるもので、脊椎動物ではだいたい同じものが使われている(ビタミンAのわずかな種類の違いはある)。

 一方、タンパク質オプシンは、様々なバリエーションがある。人間の錐体細胞に赤・緑・青に対応する3種類があるのは、視物質の色素レチナールではなく、タンパク質オプシンの違いによる。だからここから先、錐体に使われているオプシンの違いを見ていくことが、色覚について考えるキモとなるのだった。

」はにはなく、の中にある

NATIONAL GEOGRAPHIC 2020年10月25日(日)18時08分配信

なぜわたしたちには色覚があり、どのように進化してきたのか

 ヒトの、ひいては脊椎動物の色覚について、前回は基礎固めをした。

 網膜にある視細胞には、桿体(かんたい)と錐体(すいたい)があって、桿体は薄暗いところでの「薄明視」用、そして、錐体は明るいところで働き、色覚に関係している。

 視細胞が光を感じ取るには、視物質が必要で、その視物質はオプシンというタンパク質と、レチナールという色素でできている。

 レチナールの方は、脊椎動物ではだいたい決まったものが使われるので、様々な色覚の違いは、主にタンパク質のオプシンのバリエーションによってもたらされる。

 ヒトの錐体は、赤、緑、青の3色に対応するオプシンを持っている。

 とりあえずここまでが、前回の復習だ。

 では、これらのオプシンを使って、色覚というのはどんなふうに実現しているのだろうか。

 河村さんは、こういうところから説き起こす。

「まず、色というのはそもそも光線にくっついているものでもなく、物質についているものでもないということを理解しておいてください。例えば、虹は太陽の光が屈折率の違いから、波長がバラけたものですよね。我々にはそれらが、それぞれ違って見える。波長を識別する感覚があるということです。その波長の違いによって光線を識別できる感覚が色覚です。別に色が光線にくっついているわけではないんです。識別しているということは、つまり脳が色を塗っていると思ってください」

 このあたり、ぼくたちには「見えるようにしか見えていない」わけで、「色」と「光の波長」を混同しがちだ。また、「色」と「光の波長」を混同して語っても、現実的には問題ない場面も多いだろう。しかし、今、ぼくたちはまさに「色覚」について語っているので、「光」と「色」は、いったん区別した方がいい。河村さんの言うとおり、「色は光線にくっついている」わけではなく、「物質にくっついている」わけでもない。むしろ、光の波長を識別する能力に応じて、「脳が色を塗っている」わけである。

 とすると、どんなふうにぼくたちは、光の波長を識別しているのだろうか。

ヒトは「3色型」。ではほかの動物は?

「それは先の錐体のレパートリーによって決まってきます。ヒトの場合、光の感受性の異なる3種類の錐体、L、M、Sがあります。波長がロング、ミドル、ショートという意味です。赤、緑、青と言ったりもします。3種類の視細胞、錐体細胞。言い換えると3種類のオプシンがあるわけですね。この3つのアウトプットの比率が色になるわけです。ヒトの場合は3種類ということで3色型といいます」

 専門的には、オプシンがどの波長に感受性があるかということで、L(ロング)、M(ミドル)、S(ショート)だが、さすがにこのままでは混乱するので、ここはちょっと妥協してL(赤)オプシン、M(緑)オプシン、S(青)オプシンなどと書くことにする。光の波長は色そのものではないと、力説した直後に申し訳ないが、ことヒトの視覚において、赤や緑や青をもたらすセンサーということで。

 そして、ヒト、多くの哺乳類、ミツバチ、多くの鳥類というカテゴリーで、錐体オプシンの多様性を示す図表を見せてもらった。ミツバチは脊椎動物ではないが、昆虫もやはりオプシンを使ってものを見ている。

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「まず、ヒトは、3色型色覚ですね。この3種類の組み合わせによって、数百万種類の色を見分けることができると。波長だけでなくて、明暗の情報も含めてですが。パソコンのモニタなどが、RGB(赤緑青)なのは、まさにそのためです」

 ところが、「多くの哺乳類」となると、M(緑)オプシンがなくて、L(赤)とS(青)だけだ。

「2色型色覚といいます。霊長類以外の哺乳類ということで、イヌもネコもウシもこのタイプです。2つのセンサーの組み合わせで色をつくっているということで、よくイヌが白黒の世界を見ているというふうなことがいわれると思うんですけど、あれは間違いです。白黒ではないです。青と黄の世界と言ったほうがまだ近いです。2種類のセンサーだけで色をつくり出すので、色の種類数はぐっと落ちるわけですね」

 2種類のセンサーでも、それで光の波長を識別できるわけだから、それに応じた色の世界があるわけだ。白黒というのは単に明るいか暗いか、明暗の階調で表現しているものなので、根本的に異なる。

さらに、同じ3色型にも違いがある

「実は、この2色型というのは、ヒトですといわゆる「赤緑色盲」に相当します。そして、こういうメガネがありまして、僕なんかは、プレゼンで見えにくい色使いをしないように確認するために使っているんですが──」

 河村さんが取り出したのは、特殊なフィルターを使ったサングラスのようなものだ。バリアントールと呼ばれていて、ヒトが擬似的に2色型色覚を体験するためのものだ。それを装着すると、パソコンの画面の色の様相がかなり変わってしまう。元もと赤だった部分が黒っぽくなって、緑が黄色っぽくなる。細かな色の識別が難しくなるが、やはり白黒というのとはまるでちがう。

「実は、ミツバチも3色型です。でも、ヒトとの違いは分かりますか」と河村さんは指差した。

「ミツバチの場合、L、M、Sの感度のピークが、ヒトに比べて離れているんです。ヒトは、L(赤)とM(緑)が近づいていますよね。色はセンサーのアウトプットの比率だと言いましたけど、ヒトの場合、L(赤)とM(緑)がかなり重なっているから、片方だけがすごく興奮して、もう片方がまったく興奮しない、ということはありえないんです。その一方で、ミツバチの場合は、3種類のセンサーがかなり独立しているので、識別できる色が増えるわけです」

 ミツバチは、ヒトよりももっと色彩あふれる世界に住んでいるともいえるかもしれない。

 そして、さらに鳥類!

「4色型です。L(赤)、M(緑)、S(青)のほかに、VS(ベリーショート、紫外線)のセンサーかあります。ヒトやミツバチはいわば3次元の色空間を持っているわけですが、鳥は4次元ですから、もう3次元では表せません。例えば、絵の具のセットの中に、紫外線色の絵の具というものがあったとします。ヒトにとっては、それは見えないので、パレットの中でほかの色と混ぜていっても、ヒトにはまったく色が変わったようには見えません。でも、鳥が見ればどんどん色が変わっていくように見えるわけです。そういう感じですね」

 紫外線が識別できると、たとえば、人間の目には1色にしか見えない花に、実は模様があるのが分かったりする。識別する能力のある鳥にとっては、それはやはり「色」だ。

 さて、ここまでで、L(赤)、M(緑)、S(青)、VS(紫外線)のタイプの錐体オプシンが出てきた。また、桿体にも特有のオプシンがある。

 細かいバリエーションはありつつも、脊椎動物がこれまで使ってきたのはこの5種類だという。実は脊椎動物の共通祖先の段階で、これらは出揃っていたと考えられる。今後の議論でさんざん登場してくるので、表記をさらに「妥協」して、赤オプシン、緑オプシン、青オプシン、紫外線オプシンとする。「色」は光にくっついているわけではなくセンサーのアウトプットに応じて脳が「色付け」しているということとさえ理解しておけば、こういう表記も議論をミスリードしないですむはずだ。

もしも自然のなかで色が区別できなかったら?

 そして、ここまでで河村さんによる、色覚の基礎講座は終了だ。背景知識自体すでにディープだけれど、さらにディープで興味深い世界を、河村さん自身の研究として語っていただけるところまでやってきた。

 河村さんは、こんな問いかけをした。

「そもそも色覚って、どのような環境で最も役に立つと思いますか。これが色覚の進化を考えるうえで重要になるんです」

 さて、それはどんな環境なのだろう。色が区別できると便利にはちがいないけれど、それが特に効いてくるような環境とは?

「ひとつは、明度が非常に不規則に変動する環境です。というのは、もし明暗だけで物を見ようと思っても、明るさが予測不能にちょこちょこ変わってしまったら困りますよね。その代表的な環境のひとつは水中、特に浅瀬です」

 なるほど。屋外のプールに日が差した時のことを考えてみるといい。水面が常に揺らいでいるので、水底に届く光も常に揺らいでいる。ああいう状況だ。

「そういう時に、明度だけで物を見ようとすると、すごくノイズの高い環境になってしまいます。一方で、明るくても暗くても、青は青で黄色は黄色なわけです。というのは、色とはセンサーのアウトプットの比率だからです。全体に暗くなっても明るくなっても変わらない。だから、色覚が役に立ちます」

 例えば、浅瀬にいるような魚(あるいはその祖先)にとって、色覚を発達させるのは、とても有利なことだったかもしれないのだ。

 そして、さらにもうひとつ。

「森です。葉っぱが風や何かで、非常に不規則に常に揺らいでいるわけです。霊長類が住んでいるところですね。僕が、魚類と霊長類に注目するというのは、そういう背景があるんです」

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2020年11月 9日 (月)

【ナショジオ】2000年前<ベスビオ火山✍大噴火>災害大量死の謎

 ベスビオ火山災害の死因高熱で脳が沸騰しガラス化、窯焼きも 

NATIONAL GEOGRAPHIC 2020年11月8日(日)18時09分配信/Frank Viviano&Robin George Andrews

2000年前の遺体から読み解く死の真相、現代に活かす研究続く

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 西暦79年に起きたベスビオ火山の噴火は、猛烈な火山灰と高温の噴出物によって、古代ローマの都市ポンペイやヘルクラネウムを埋め尽くした。2000年近く前の噴火の甚大な被害に疑問を呈する専門家はいない。だが、多くの犠牲者がどのように死んでいったかは、多くの謎に包まれている。

 長い歳月の間にはっきりした証拠がほとんど失われてしまったため、彼らの死の真相をすべて知ることはおそらく不可能だ。しかし、謎解きに挑む価値はある。同じような噴火を起こす火山は世界にたくさんある。つまり、歴史は繰り返すということだ。過去の噴火が人々を傷つけた仕組みが解明されれば、火山の被害に遭った人々の治療に役立つだろう。

 以前は、噴火に巻き込まれて亡くなった多くの人々の死因は、火山灰や有毒ガスによる窒息死、高温による内臓のヒートショックなどと考えられていた。だが、今年発表された2つのグループの研究成果により、より複雑なヘルクラネウムの悲劇の物語が明らかになった。

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 1つめの研究グループは、犠牲者の脳がガラス質になっており、その中に無傷の脳組織も発見した。まるで魔法だ。これらの研究成果は学術誌「New England Journal of Medicine」と「PLOS ONE」に続けて発表された。

 別の研究グループは、石造りのボート小屋に隠れていた人々の死因について、それまで指摘されていた直接のやけどではなく、石窯の中で蒸し焼きにされたようになって死亡したと結論づけている。こちらの論文は「Antiquity」に掲載された。

 はたして、彼らはどのような状況で死亡したのだろうか。それぞれを詳しくみていこう。

脳内で液体が沸騰して頭骨が爆発

 西暦79年の夏、ベスビオ火山から噴出した高温の火山灰と火山ガスは時速80kmの猛スピードで山肌を流れ下った。この現象は火砕流と呼ばれることが多いが、ヘルクラネウムを襲ったような火山ガスの比率が高いものは火砕サージと呼ばれている。

 2018年、フェデリコ二世ナポリ大学病院の古生物学者ピエル・パオロ・ペトローネ氏らは、犠牲者の体内で液体が蒸発していたという論文を発表した。骨にこびりついた赤黒い残留物が、体内の組織が蒸発してできた赤血球の残骸であるというのがその根拠だ。また同時に、脳内の液体が沸騰して頭骨を爆発させたとも主張した。

 一方で、こうした主張に疑問を投げかける専門家もいた。遺体を火葬するときには、もっと高温で焼いても、蒸発することはないという。

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 そこでペトローネ氏らが、1960年代に発見された1人の犠牲者を詳しく調べてみると、ひび割れた頭骨の中からガラス質の物質が見つかった。ベスビオ火山の噴火自体でガラス質の物質は生じず、これは意外な発見だった。

 頭骨の中のガラス質には、脳組織によく見られる物質が含まれていた。こうした物質を作り出すようなほかの生物は、近くには見当たらない。そのため、ペトローネ氏は、脳組織が一気に加熱され、液体になった直後に急冷されたことによりガラス質になり、またその結果、中に無傷の脳組織が保存されたと結論を下した。

 遺体の近くの炭化した木から、温度は約520℃まで上昇したことがわかっている。これは体脂肪に火をつけ、軟組織を蒸発させ、脳組織を溶かすのに十分な高温だ。脳の物質はそれから急冷されたことになるが、そのときどんなことが起きたのかはまだわからないとペトローネ氏は言う。

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「脳がガラスになるほどの高熱が発生したと考えるのは非常に面白いですが、恐ろしくもあります」と、ナショナル ジオグラフィック協会の自然人類学者ミゲル・ビラール氏は語る。とはいえ、ここで提案されたガラス化の過程はまだ十分に解明されておらず、多くの犠牲者の中で(今のところ)この人物の脳だけが特殊な運命をたどった理由はわからない。

直火ではなく天火のように

 もう1つの研究では、ヘルクラネウムの海岸地域で死亡した犠牲者たちの死因が調べられた。男たちはおそらく海上に避難する準備をしようと海岸に集まっていて、女性と子どもの多くは石造りのボート小屋に隠れていた。この地区では現時点で340体の遺体が発掘されている。

 犠牲者たちの骨は長らくただの燃え残りと考えられてきた。しかし、この10年間の科学的手法の進歩により、焼けた破片から彼らの死の前後の状況がわかるようになってきた。

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「火葬された遺体からは、その人物の生涯について多くのことがわかります」と、研究を行った英国ティーズサイド大学の応用自然人類学者ティム・トンプソン氏は言う。そこで、この手法をベスビオ火山の犠牲者に応用したらどうかと考えた。

 研究チームは6つのボート小屋で見つかった152人の肋骨を調べた。なかでも重点を置いたのはコラーゲンだ。コラーゲンは長い年月にわたって保存される頑丈なタンパク質だが、高温の下では分解する。

 152人のうち、コラーゲンが激しく分解していたのは12人だけで、その大半が子どもだった。一方、高温にさらされるほど結晶化が進む骨の主成分ヒドロキシアパタイトは、あまり結晶化していなかったことを研究チームはつきとめた。

 どちらの発見も、ボート小屋の犠牲者が死亡時またはその直後に、超高温の火砕サージにはさらされていなかったことを示唆していると、ポーランド、ワルシャワ大学の骨考古学者エルズビエタ・ヤスクルスカ氏は認める。

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 漆喰、木材、モルタルなどの損傷や物質の磁気特性の変化から、ベスビオ火山の火砕サージの温度は240℃~800℃だったと見積もられている。今回の研究では、見積もりの下限の数字が妥当だったことになる。しかしこの温度でも、犠牲者の骨はもっと損傷されていたはずなので、なにかが遺体を火砕サージから保護していたことになる。

 熱による損傷が少なかったのは、近くに堅牢な小屋の壁があったからだろう。体表の組織が膨張し、体内の水が手足の長い骨のまわりに集まっていたことは、骨格が直火ではなく天火のような状態で焼かれたことを意味している。

 犠牲者たちの体は、じかに火がついたのではなく、火砕サージによって周囲の空気が高温になったことで焼かれたのだ。

現代社会にそっくりだった古代都市

 恐ろしい災害に見舞われたとき、古代ローマ帝国は全盛期だった。火山の噴火で一瞬にして失われたヘルクラネウムやポンペイは、はたしてどんな都市だったのだろうか。

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 大規模な修復プロジェクト「グレート・ポンペイ・プロジェクト」の陣頭指揮をとった考古学者のマッシモ・オサンナ氏が、山のようなデータをさらって浮かび上がってきたのは、現代の私たちの生活に驚くほどよく似た社会だった。紀元1世紀のポンペイには、多様な文化が混在し、さまざまな言語が飛び交い、人々はファストフード店でランチをとり、高級輸入食材を自宅で楽しんでいたという。

 食生活は健康的で、未精製の小麦、オート麦、大麦、それにひよこ豆や果物、木の実など、現代なら栄養士お勧めの健康食品店で売られているような食べ物が多かった。味の引き締め役である高価な輸入香辛料、さらにエジプトからはレンズ豆、アラビア半島からはナツメヤシなどの珍しい食材も入ってきていた。「彼らの食生活を見ると、とても商業的な文化だったことが分かります」と、オサンナ氏は語る。

 その一方で、ファストフードのような軽食を出す店も市民から人気を得ていたことが、遺跡からうかがえる。「どの地区にも、地元の人々がランチを楽しめる『テルモポリウム』と呼ばれる飲食店がありました」と、40年前から遺跡のガイドを務める歴史家のマッティア・ボンドンノ氏は説明する。小さな食堂には、料理を入れる素焼きの器が並んだ石のカウンターがあった。「これがポンペイ人のファストフード店です」

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 今日でいえばロンドンやニューヨークに匹敵する人種のるつぼとして、ポンペイにはローマ市民、帰化した外国人、奴隷の身分から解放されて職人や商人になった人々が集まり、豊かな社会を築いていたという。

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ポンペイで発見された『首なし遺体』本当の死因

NATIONAL GEOGRAPHIC 2018年7月3日(火)配信/ERIN BLAKEMORE

 西暦79年、イタリアのベスビオ火山の噴火で灰に埋まった古代都市ポンペイ。2018年5月の調査で、頭部のない男性の白骨遺体が発掘された。当初は噴火から逃れる途中で、巨石に押しつぶされたと考えられていたが、その後、頭部も発見。ポンペイ考古学公園は、新たな死因を発表した。(参考記事:「古代都市ポンペイは、現代社会にそっくりだった」)

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 頭部が発見されたのは、遺体の近くで、口は大きく開かれていた。ポンペイ考古学公園は、「岩による圧迫死ではなく、火砕流に巻き込まれて窒息死したものと考えられます」とフェイスブックで発表した。

 2000年前に大噴火したベスビオ火山は、巨大な柱のような噴煙を噴き上げ、翌日には火砕流が山の斜面を駆け下った。(参考記事:「【動画】ポンペイの馬、馬具を付けていた理由は?」)

 火砕流は、火口から出た火山ガス、火山灰、石や岩が混じり合って山の斜面を高速で流れ下る現象。「岩や灰を含んだ熱風で、風速はハリケーン級。熱風の通り道にあるものはすべて破壊します」と、米スミソニアン協会の世界火山学プログラムGVPのディレクター、ベンジャミン・アンドルーズ氏は火砕流の恐ろしさを語る。アンドルーズ氏は火砕流を、野球やボウリングのボール大の岩石が混じる非常に高温のサンドブラスト(研磨材を吹き付ける加工法)にたとえた。

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「火砕流に巻き込まれたら、人はまず死んでしまいます」と、アンドルーズ氏は続ける。ポンペイで発見された、頭骨がなかった男性の足の骨には感染症に侵された跡があり、速くは歩けなかったと推定されている。その彼に、猛スピードで迫る摂氏500度を超える高温の火砕流から逃げ切れるチャンスはなかっただろう。

 今回見つかった頭部は、遺体があったところより低い場所で見つかっている。ポンペイが初めて発掘されたのは1740年代。その後、掘られた地下道が崩れ、遺体の頭部が流されたと考えられている。

 18世紀と比べ、現在の発掘技術ははるかに向上している。例えば、ポンペイ北部にある発掘場レッジョ5は、発掘が始まってからまだ日が浅いため、さらなる発見が見込まれる。現場の発掘責任者がイタリアの通信社に語った話によると、レーザーやドローン、VR(仮想現実)映像技術などの最新技術も駆使されるそうだ。(参考記事:「2000年前の美女の肖像を復元、ベスビオ火山で埋没」)

 ベスビオ火山の噴火を再現することはできないが、今回明らかになったことから、この不運な男性が火山を見上げたときに目にした光景を思い描くことはできる。「山頂付近から大きく不気味な雲が下へと下りて迫ってくる様子を想像してください」とアンドルーズ氏は言う。それこそ、この男性が最期の瞬間に見たものだろう。

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 2000年以上前のベスビオ火山 💥 噴火の犠牲者の頭蓋骨から完璧な保存状態の脳細胞が発見される 

カラパイア 2020年10月9日(金)配信

 西暦79年8月24日に始まった、イタリア、ヴェスヴィオ(ベスビオ)火山の大噴火により、ヘルクラネウム、ポンペイなどの古代都市に高温の火砕流や火山灰が大量に降り注ぎ、多くの人々が犠牲となった。

 急速に高温にさらされたせいで、犠牲者の頭蓋骨にガラス化した脳組織が見つかっているが、今年の始め、この驚くべき脳組織のサンプルについて、イタリアの研究者から詳しい説明があった。

 この希少な脳組織の中に脳細胞や神経細胞が痕跡が"完璧に"残っていることを突きとめたという。

犠牲者男性の頭蓋骨のガラス化した脳から神経細胞を発見

『PLOS One』誌に発表された研究によると、フェデリコ2世・ナポリ大学のピエル・パオロ・ペトローネが主導する研究グループは、犠牲者男性の頭蓋骨のガラス化した脳から脳組織と神経細胞を発見した。

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 2000年以上前に亡くなった人間の遺体から中枢神経系組織が完全な状態で発見された最高の例ではないかという。

 走査電子顕微鏡(SEM)や先進画像処理ツールを使って、このガラス化した脳組織を詳しく調べたところ、人の脳や脊髄の痕跡から、神経や軸索だとはっきりわかる奇跡的に保存状態のいい部分を発見したという。

 ガラス化した脳の発見自体も稀有なことだが、中枢神経系全体の中からそれを構成する神経や軸索が発見されるとは、驚きとしか言いようがない、とペトローネは語る。

脳組織に存在するタンパク質も発見

 さらに、人間の脳組織に存在するタンパク質もいくつか発見されており、これによりこの黒い塊が単なる光沢のある黒い石ではないことを確認したという。

 特定のタンパク質が確認できたことによって、このサンプルが脳のどこの部位なのかも判明した。

ガラス化したこの黒い物質を分析した結果、大脳皮質、脳幹神経節、中脳、下垂体、扁桃、小脳、海馬、視床下部、脊髄といった人間の脳のさまざまな部位にそれぞれ存在する特定のタンパク質が保存されていることがわかりました(ペトローネ)

脳疾患のある患者に、これらタンパク質の遺伝子変異が見つかっているため、神経機能にとって非常に重要なものです。例えば、ガラス化したこの脳組織から見つかったMED13Lというタンパク質は、成人の小脳にとくにたくさんあり、その変異は知的障害を引き起こすのです(ペトローネ)

史上最悪の自然災害の1つ、ヴェスヴィオ火山の噴火

 紀元79年のヴェスヴィオ火山の噴火は、史上最悪の自然災害のひとつで、近隣のポンペイやヘルクラネウムの町が壊滅し、何千という人が死んだ。

 犠牲者のほとんどは降り注ぐ火山灰に埋もれて亡くなったため、のちに考古学者たちが、遺体のあった窪みに漆喰を注いで型をとり、犠牲者たちがどのような状態で亡くなったのか、最期の瞬間の様子を明らかにすることができた。噴火の熱で焼かれ、急激に冷やされた犠牲者もいた。

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 今回分析したガラス化した脳もそうしたプロセスをたどったようだ。おそらく、この犠牲者の脳は、摂氏520℃もの高温でいきなり焼かれ、その後急速に冷やされたに違いない。

 第二次世界大戦のドレスデン爆撃のときの犠牲者に似たような現象が起こっていたことがこれまで確認されているが、このような例は極めて稀だ。

 

2020年10月22日 (木)

【オーバーローン商法】高級外車“専門”カーシェア企業✍“破綻”で雲隠れ

 高級車専門カーシェア会社が破綻で600人がローン地獄 顧客が語る“詐欺的ビジネス”の全容 

デイリー新潮 2020年10月19日(月)11時35分配信

 高級車専門カーシェア会社「Sグループ」の破綻が、ネット上で話題を集めている。多額のローンを抱える被害にあったオーナーは600人以上。そのほとんどが20~30代の若者だという。彼らの怒りの矛先は、Sグループの代表・Xへと向けられている。男は4年前、半グレ集団とトラブルになり、新橋でハンマーを持った二人組の男に襲撃されたこともある、いわくつきの人物であった。Xが手がけた“詐欺的ビジネス”の全容とは――。

 ***

 ベンツ、BMW、レクサス、ポルシェ……。埼玉県某所の広大な駐車場には、名だたる高級車がすし詰め状態で停められていた。

 その数、200台はゆうに超える。

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 車は所有者のステータスを示すとも言われる。だが、この車のオーナーたちは、羨望の対象とは対極の、追い詰められた状況にある。

「自分の車が、いまどこにあるのかわかっていません。わかればいますぐにでも探しに行きたいのですが……」

 こう語るのは、Sグループを通して、トヨタの高級ミニバン「アルファード・エグゼクティブラウンジ」を800万円で購入した平野祐一さん(仮名・33)だ。サラリーマンである平野さんの年収は、500万円ほど。本来、こんな高級車を購入する余裕はないはずだ。

 だが、彼は有益な投資ビジネスとXらから勧誘され、7年ローンで車を購入してしまったのだ。

「オーナーになると一時金として50万円をもらえると言われ、飛びついてしまいました。費用は一切かからない。車をカーシェアとしてユーザーに貸し出し、利益が出たらさらに還元する、という話でした」(同)

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 甘い話に乗ってしまった平野さんは、いま後悔のどん底で苦しんでいる。10月8日に、Sグループは事業停止。多額のローンの残債を抱えることになってしまったのだ。

不動産業でもオーバーローン商法を手がけていた

 きっかけは3年前、Sグループの代表で“会長”と呼ばれていたXとの出会いだった。

「当時、私は500万円の多重債務に苦しんでいました。そんな時、不動産購入でオーバーローンを組めば、借金が棒引きできるウラ技があることを知ったのです。そして、知人の紹介で仲介業者として現れたのが、Xでした」(同)

 こんな魔法のような手法が、本当にあるのだろうか。

「売主と組んで、不動産価値を高く偽装するのです。その差額分のなかに、当初あった500万円の借金や、Xが中抜きする分が含まれている。Xに言われるままに、私は神奈川県の一戸建ての新築物件を購入する手続きを進めました。そして、審査が通ったのです。いまは、その物件を人に貸し、入ってくる家賃収入をローン返済に充てています」(同)

 もちろん、不動産購入の目的以外でオーバーローンを組むことは、違法性のある行為である。Xはカーシェア業以外にも、このようないかがわしいビジネスに手を染めていたのである。

300~400万のアルファードを800万と偽装していた

 不動産契約が一段落したころ、新たにXが勧めてきたのが、彼らが新たに立ち上げたカーシェアビジネスだった。

「同じカラクリが、カーシェアでも使われています。ただ、それに気づいたのは、Sグループが破綻し、ほかの被害者たちと連絡を取り合うようになってからのこと。購入した時は、彼らが語るビジネスモデルを信じ込んでしまっていた。被害者の多くは私のような、車に関する知識がない若者ばかりです」(同)

 彼が購入したアルファードの車体価格は800万円。だが、本当の仕入れ値は「300~400万円くらいだったのではないか」という。

「中古車販売業者を絡ませ、特別仕様だとか偽装し、800万円の価値がある車として販売するのです。完全にグルな業者もあれば、事情を知らずに委託販売しただけの業者もいます。私たちは実際に車に乗るわけではないので、車の確認すらしない。Xから部下を紹介され、言われるままに信販会社の7年ローンの審査書類を書かされました。年収も本当は500万円でしたが、『それじゃあ審査が通らないから850万と書いて』と。信販会社も儲けたいから、審査を通してしまうのです」(同)

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 このローンを組むことで平野さんは50万円を報酬として得たが、当然、毎月のローン返済も発生する。84回払いなので分割手数料も高く、月々の支払いは約14万円にもなるが、

「それはすべてSグループが代わりに支払ってくれるという話でした。ローン代、保険料、駐車代に加えて、自動車税も。さらに、自分が所有する車の売り上げの5%もボーナスでもらえますよと。実際にその後、毎月、保険代を加えたローン代金が、傘下の会社から振り込まれてきました。費用は、カーシェアビジネスでまかなっていけるというのが、彼らの話でした」(同)

Xと連絡が取れなくなった

 当初の説明では、契約後2年が経過した時点で、Sグループがローン残債を一括で支払い、車を買い上げてくれるという話だったという。

「私が契約したのは2019年1月で、今年1月に満期を迎えたのですが、『7年契約に延長してくれたら、月々1万円の報酬を出します』と彼らから強く勧められ、安易にサインしてしまったのです。すると、8月末から入金が止まってしまった。Xに電話してもつながらない。会社に電話をしても担当者は辞めたと。そして10月上旬に破産手続きに入るとの連絡が入ったのです」(同)

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 残った借金は900万円近くにも上るが、

「私の手取りは30万ちょっと。14万もローンを払っていたら、生活できません。いまは銀行ローンへの借り換えを検討しながら、車を取り返すべく所在を探しています。見つかり次第、すぐに売却しローン返済に充てるつもりです」(同)

狙い目は信用情報がまっさらの若者たち

 このビジネスモデルで注目すべきは、オーバーローンを組ませることで彼らが得ている莫大な利益である。1台購入させるだけで、オーナーに報酬を支払ったとしても、300~500万円の利益が残る計算だ。

 ある中古車販売業者によれば、

「1日1万円などでユーザーに貸し出していたのですが、そんな利益よりもオーナーを増やしていくほうが、利幅はでかい。結果、ねずみ講のようにオーナー獲得に精を出していくのです。新規オーナーを紹介したら10万円もらえるという特典もあった。Xの周りにはネットワークビジネス関連の人間も多く出入りするようになり、こんなにも被害が膨れ上がったのです」

 彼らの毒牙にかかってしまったもう一人の被害者は、昨年6月にトヨタの高級ミニバン「ベルファイヤ」を購入した井上隆さん(仮名・28)である。600万円以上ものローンを抱えることになってしまったが、彼は平野さんとは違い、これまで借金とは無縁の生活を送っていた。

「僕のように、信用情報がまっさらの会社員こそが、彼らの狙い目でした。信販のローンが通りやすいからです。同時に2台購入して、1000万円以上のローンを組まされた被害者もいる。所帯を持っているサラリーマンの中には、月2~3万円程度の小遣い制で生活している人たちが多い。妻に内緒で、数十万円というまとまったカネが入るという話は魅力的なのです」

 井上さんは、破綻の情報を耳にするや否やすぐさま動き、車の所在地をつきとめ車を確保した。

「僕はラッキーなほうだと思います。見つかっていない人も多いし、見つかったとしても車体に苔が生えていたり、フロント部分が損壊したり、とひどい状態のまま放置されていたケースもある。僕は、これは詐欺だと思い、彼らが車を放置していた場所から一番近かった埼玉県武南警察署に2度行きました。ただ、担当者は『事件性はない』というつれない反応でした」

タワマンに住み、キャバクラで一晩40~50万円の豪遊

 一般的に、詐欺罪の立証は難しいと言われる。Sグループは、最終的には自転車操業状態だったが、カーシェアリング事業を展開していた実態はあった。車はオーナー自らの意思で購入しており、オーナーはグループ傘下のL社と自動車使用業務委託契約書も交わしていた。

 その条項には「破産手続き開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始の申し立てがあった場合又は清算手続きに入った場合」、契約を直ちに解除すると明記してあり、オーナーはみな署名押印していた。目先の利益に目が眩み、よく調べもせずに契約してしまった彼らにも落ち度があるということだ。

 いまオーナーたちは、SNSで連携を取り合い、警察や弁護士に相談しながら、Xら幹部たちの行方を追っているが、まったく連絡が取れないという。

 ただ、元従業員が言うには、

「ヤツを捕まえたところで何の意味もないでしょう。彼はほとんどのカネを事業に費やして文無しになってしまった。一時期は、港区三田のタワーマンションに住み、一晩で六本木のキャバクラで40~50万円豪遊する暮らしをしていたんですがね」

 Xは若いころ、消費者金融で働いていたという。

「そこで得たローンの知識をフル活用し、いろいろなビジネスを展開していた。グループ内には20社以上の関連会社があるのですが、売り上げを付け合うなどして大きく見せて、銀行からもカネを引っ張っていたようです」

Xは新橋ハンマー襲撃事件の被害者だった

 反社会勢力の影もあった。

「Xは現役の暴力団組員とも親しく交際し、定期的にカネも上納していました。オレオレ詐欺をやっていたような半グレ連中ともつるみ、彼ら相手に携帯電話の名義貸しビジネスも手掛けていた。そして2年前、トラブルに発展し、半グレが雇った男二人に襲撃されたのです」

 当時、その話は事件としてテレビ、新聞も取り上げている。

〈20日午後5時35分ごろ、東京都港区西新橋1丁目の路上で、会社役員の男性(39)と同僚の会社員の男性(22)が2人組の男に襲われた。2人はハンマーのようなもので頭などを殴られ、顔や鼻を複雑骨折するなどして重傷だが、命に別条はないという。役員の男性は現金約20万円を奪われた。男2人は逃走しており、警視庁が強盗傷害容疑で捜査している。

 愛宕署によると、被害者の1人は「突然無言で後ろから殴られた。面識はないと思う」と話している。現場付近にはハンマーのようなものが落ちていた。暴行を目撃した人が110番通報した。

 男らは2人を暴行した後、タクシーで逃げたという。1人は30~40歳くらいで身長約160センチ。頭は丸刈りだった。もう1人は30歳くらいで身長170~180センチ。茶色のモヒカン刈りだったという〉(「新橋でハンマー強盗か、男性2人重傷 モヒカン男ら逃走」朝日新聞・2016年12月20日)

「強盗事件として報道していましたが、実際は強盗に見せかけた半グレ側の報復だった。犯人二人は、ゴム製のハンマーでXの顔面を中心にボコボコにした後、一度立ち去ろうとしたが、『財布を取り忘れた』とすぐに現場に戻ってきてもいる。しばらくして、二人は警視庁に捕まった」(同)

 Xは顔面を包帯でぐるぐる巻きにした状態で、1カ月以上も入院生活を強いられたという。そんな恐ろしい思いをしながらも、カネへの執着を捨てきれず、事業を拡大し続けたようだ。彼にオーナーたちの悲鳴は届いているのだろうか。

 被害者続出高級「カーシェア投資」が事業停止 何が問題だったのか 

AUTOCAR Japan 2020年10月10日(土)5時50分配信

カーシェア投資とは何なのか?

 東海地方に住むAさんは、今年3月に高級車専門カーシェア会社「S」と「自動車委託契約」を結んだ。

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 契約内容は以下(謝礼の額や契約条件は車種や契約時期によって異なる)。

1、Aさん名義でローンを組み、メルセデス・ベンツ(約500万円)とレクサス(同)を、S社から中古で購入。

2、契約成立時に、それぞれ購入価格の10%=50万円ずつ謝礼としてS社から受け取る。

3、毎月のローン支払い時(口座引き落とし)の数日前に、S社から毎月の車両代(2台で約15万円)、任意保険料に加え、2万円前後の謝礼が支払われる。

4、契約から7年でローン完済。その後はカーシェア会社が1台につき100万円で買い取る。

 クルマの名義は所有者:ローン会社、使用者:Aさんになっている。

 そして実際に、Aさんは上記2番=謝礼50万円×2台分=100万円が契約から約2か月後に入金された。

 4月以降、上記3番=毎月の入金(謝礼2万円含む)もおこなわれてきた。

 なお、実際にはAさん名義でクルマを購入したことになっているわけだが、Aさんは自分名義のクルマを見たこともなければ乗ったこともない。

 車検証や自賠責のコピーも送られてきていないという。

 唯一、手元にある書類は自動車保険(任意保険)の証券である。3年契約で、そこには当然だがクルマのナンバーも車台番号も記載されている。

 昨日、保険会社に確認したところ、この保険自体は契約が続いているとのことだった。

 諸事情でお金が必要だったAさんにとって、S社への「カーシェア投資」は、ありがたいシステムだった。

Aさん名義のクルマでカーシェア運営

 S社はレクサスやメルセデス・ベンツ、BMWなどの高級車を専門とする個人間カーシェアリングを運営している。

 AさんがS社からローンで購入した(ことになっている)メルセデス・ベンツやレクサスも、シェア車として運用されてきた。(実績は不明)

 S社のサイトには、自社のカーシェアリングサービスについて以下のように記されている。

「一般のオーナーと個人間で自家用車を共同使用できるサービスです」

「共同使用とは、個人間において自家用車の使用/管理に関する実質的な権限と責任を分担し、車両を共同で使用するものです」

「レンタカーのように貸主と借主の関係で車両の貸渡をおこなうものではありません」

 同社はレンタカーや法人カーシェアであることを示す「わナンバー」にならない高級車を、レンタカーよりも安価な価格で「共同使用」できることをウリにしている。

 つまり、レンタカーは道路運送法第80条の「自家用自動車有償貸渡業」として国交省の認可を受けて営業されるが、個人間カーシェアリングは「共同使用」という名目のもとに、レンタカーより簡単に個人間でクルマを使用することができる。

 車検や法定整備など諸々の関係法規も全く異なっており、レンタカーよりもはるかに簡単な方法で、運営ができる。

8月からAさんに入金されなくなった

 さて、一見、うまくいっているように見えたS社のカーシェア投資事業だが、その危険性を指摘する声は少なからずあった。

 カーシェア専門家のカーシェアマニア(@carsharemania)さんはこう話す。

「S社は2年前からフォロー&リツイートによる高級車プレゼント企画やインフルエンサー・マーケティングなど、SNSによる宣伝をしていました」

「近年は同社のカーシェア投資の勧誘が若者の間で広がっている様子でした」

「一般的にカーシェアリングは採算を成り立たせるのが難しい業種といわれています。そのため同社もこのような危うい投資商品を作ったと想像できます」

 また、当選者とクルマの写真が掲載されていた「高級車プレゼント企画」もカーシェアに詳しい有志らの解析で架空のものだったことが判明しているようだ。

 異常事態が確実になって来たのは今年8月以降である。投資者のところに毎月あった入金が止まってしまった。

 Aさんをはじめ、多くがS社に問い合わせしたが、「コロナで資金繰りが悪化した」「来月まとめて2か月分入金します」などの回答が戻って来たそうだ。

 そう言われて多くの投資者は納得して特に行動を起こす人はいなかった模様。

 9月の入金がなかったことでさすがに10月以降はツイッターを中心としたSNSにも、投資者たちの不安の声が目立つようになった。

 そしてついに、10月8日、S社が事業停止を宣言した。

突然の事業停止 クルマ返還される?

 S社からAさんのところにメールが届いたのは10月8日午前11時頃のことだった。

 以下の文面(一部を抜粋)である。

「取引先の車両仕入れ業者による故障車両増加の影響などにより、業績の長期低迷を脱しきれない状況にあります」

「このような状況から、弊社は、誠に遺憾ながら現在の事業を継続することは困難と判断し、今般、事業から撤退することを決定いたしました」

「今後、弊社及び関連会社は破産手続きを含めて法的手続きに入るべく各種の整理をしていく予定です」

「つきましては、委託者各位におかれましては、お預かりしている自動車の返還等を含め、順次契約関係を整理するための準備をおこなっていく予定です……」

 要するに、「委託契約は終了」「クルマは返還する」ということである。実際に契約したクルマが返ってくるかは不明だ。

 返ってくればいくらか返済の足しにはなるだろう。

 とはいえ、S社の電話は不通。SNSのアカウントもすべて削除している。

 クルマは本当に投資者のもとに返還されるのだろうか? 

 事情に詳しいレンタカー会社の経営者にAさんが購入した車種と金額を伝えて、S社からの事業停止メールを見せたところ、予想外の答えが返って来た。

 経営者が反応したのはメールの最初にある「故障車両増加」の部分と、Aさんがローンを組んで購入したクルマの金額である。

格安で仕入れたクルマを高額で販売?

「故障車両増加とはつまり、事故車や過走行車などを意味しているのでしょう」

「たとえばこんなことが考えられます」

「Aさんがローンを組んで買うことになった車種は、高級車でも激安でおそらく100万円ちょっとでは。それを500万円で買わせるわけです」

「ボロの過走行車ばかり仕入れて、500万円の値段をつけます。総支払額は金利がついて600万円。2台で1200万円ですね」

「事業停止でクルマが戻って2台売却したとしてもせいぜい200万円程度です。投資者(=Aさん)には大変大きな負債が残りますね」

「無知な若者を狙って、ベンツやレクサスだから高級というイメージを与えて500万円という価格設定にしたのではないでしょうか」

 事情があって、S社からAさんに毎月の固定額が払えなくなったとしても、格安で仕入れたクルマをAさんに高額でローンを組ませた時点で、かなりの儲けになり、ビジネスが完了しているとも考えることだってできる。

「カーシェアという煌びやかにも見える時代の先端を行っているビジネスと見せかけてクルマ情報弱者を盲目にし、暴利をむさぼる中古車ビジネスともいえそうです」

 単に投資を目的として契約した人もいるだろうし、高級車とはいえ二束三文のクルマを返されても大した利益にはならない。

 この先長い人では6~7年も保険料など込みで1台10万円近いローンを支払っていかなくてはならない。困惑している投資者も少なくないはずだ。

 とはいえ、投資者側も「自動車使用業務委託契約書」の内容を理解し、共同使用や業務委託に関する法規を正しく理解していたか? 共同使用の法律を正しく理解していたのか。事業に関するリスクを十分に認識していたかの理解していたのかの問題はある。

 投資者の多くは20代の若者で、その多くはクルマのローン購入や所有が未経験だ。クルマの登録や使用に関する法律も十分に理解していない可能性もある。

 さらに、S社に投資をしてSNSで窮状を訴える人に対して「救済します!」「良い方法がありますよ!」とアプローチする事象も。こちらにも注意が必要かもしれない。

 

2020年10月10日 (土)

【殺人ピエロ】実録=スティーブン・キング原作『IT』のモデル

 33人の青少年を性的に虐待し殺害した男「殺人ピエロ」の表と裏 

現代ビジネス 2020年10月9日(金)21時01分配信/阿部 憲仁(桐蔭横浜大学教授)

殺人ピエロと呼ばれた男

 将来ある33人の若者を殺害した罪で処刑された、ジョン・ウェイン・ゲイシーの最期の言葉だ。彼は非常に残忍な方法で青少年たちを性的に虐待し、殺していった。

 極悪な殺人事件を繰り返した彼だが、表の顔は社会的に成功を収めたビジネスマンであり、地域活動にも熱心な一面を見せていた。平時には子どもを楽しませるためにピエロの仮装をすることもあったため、「キラー・クラウン(殺人ピエロ)」と呼ばれ、ホラー映画『IT』に登場するペニーワイズのモデルとも言われている。

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 地域の名士と連続殺人犯。そのような彼の二面性は、どのようにして生まれたのか? 

父親から見捨てられた幼少期

 1942年3月17日、ジョン・ウェイン・ゲイシーはイリノイ州シカゴで生まれた。父のスタンリー・ゲイシーは、自分の技術に誇りを持った叩き上げの熟練自動車修理工だった。彼は家族に対して高圧的で、暴力を振るうこともあったという。

 その父が息子に求めたのは、「男らしい大物へと育つ」こと。ゲイシーのファーストネームの由来は、1930年代からアメリカ西部劇で活躍した俳優、ジョン・ウェインである。「ミスター・アメリカ」とも呼ばれた彼の名前を息子につけるあたり、父は「アメリカ的な強い男」へ育てようとしていたことがうかがえる。

 しかしゲイシーは生まれつき体が弱く、心臓に持病を抱えていた。それを知った父親は彼を完全に見限り見捨て、「しつけ」と称して徹底的に痛めつけていく。事あるごとに「クズ」「間抜け」「オカマ」といった罵声を浴びせながら革のベルトで彼のことを叩き、肉体と精神の両面から圧迫した。

 そのたびにゲイシーはパニック発作を起こして失神したと言われるが、父はそれすらも「周りの気を引くための演技だ」と決めつけてさらに罵倒した。

 しかしゲイシー自身は父親に認められようと必死であり、それがその後の社会的成功へとつながっていく。日常的に虐待されていたものの、ゲイシーは父親に尊敬の念を抱いていたと言われるが、後述の通り、このような父親との関係が犯行の一因となったことは否定できない。

 心臓が弱かったゲイシーはスポーツも満足にできず、高校時代には1年以上の入院を経験している。その結果成績が低下して高校を落第し、職業専門学校へと編入した。卒業後は学校事務として就職している。

 この間、ゲイシーは初めて女性と性的関係を持つ機会があったものの、直前で失神してしまったというエピソードがある。この話を聞いた父は、「お前の中のオカマがまた出てきたな」と言って不甲斐ない息子を馬鹿にした。

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 20歳のとき、父親との些細な口論がきっかけでゲイシーは実家を飛び出す。3ヵ月間ラスベガスで暮らしながら、彼は葬儀屋でのアルバイトで生計を立てていた。防腐処理のため死体の血抜きを手伝いつつ、死体置き場にあるベッドで寝起きしていたという。その当時から死体に対して特別な感情を抱いていたとされるが、詳細は定かではない。

 その後シカゴに戻ったゲイシーはビジネス専門学校へ進学し、卒業後は大手靴販売店の販売員として就職する。営業成績は飛びぬけて良かったため、若くしてエリアマネージャーに抜擢された。同時期に、彼はアメリカ合衆国青年会議所の要職も務めている。

 22歳のときに1人目の妻マリリンと結婚したゲイシーはアイオワ州へと引っ越し、義理の父が所有するケンタッキー・フライドチキンのフランチャイズ店舗を取りまとめるマネージャーへと転職する。この時期には地域の活動にも熱心に参加しており、まさに「地元の名士」だった。結婚2年後には長男、翌年には長女が誕生し、周囲からはまさに幸せの絶頂期かのように見えていた。

 しかしそんな最中、彼は「その後の凶行の予兆」とでも言うべき事件を引き起こす。

 彼が初めて15歳の少年ドナルド・ヴァリューズに出会ったのは、25歳のときのことだ。ゲイシーはヴァリューズに謝礼を支払う代わりに、自宅の地下室でオーラルセックスをしてもらっていた。しかし26歳になったゲイシーが、地元の青年組織の会長に立候補すると、ヴァリューズがこの関係を告発したため、彼は「反自然性交」の罪で逮捕される。当時アイオワ州では、同性愛は犯罪として扱われていた。

 起訴されて懲役10年の実刑判決を受けたゲイシーだったが、刑務所内で高校教員の資格を取得し、模範囚として約1年半で釈放された。なお収監中に妻のマリリンとは離婚が成立している。

 出所後ゲイシーはシカゴの実家へと戻り、資金を貯めて建設会社を立ち上げる。同じ頃に彼は2番目の妻キャロルと結婚し、彼女の連れ子2人と幸せな家庭を築いた。ここでもゲイシーは地元の名士として尊敬され、休みの日にはピエロの仮装で近所の子どもたちを喜ばせていたという。地域の民主党の「顔役」でもあり、カーター大統領夫人と握手している写真も残っている。

 しかしすでに彼の凶行は、水面下で着実に始まっていたのだ…。

地下に拘束し、ゆっくりと首を絞める…

 「禁欲的な刑期を終えた後に犯行が激化する」というのはたびたび見られる現象だが、模範囚として早期に釈放されたゲイシーも、まったく変わらないどころか、むしろ地元のパーティーで好みの少年を見つけてはオーラルセックスさせることを繰り返すようになっていった。

 そして、出所の半年後には、性交目的で少年を自宅へ連れ帰ろうとしたとして、起訴されている(被害者が出廷しなかったため不起訴処分)。この他にも自身が経営する建設会社で働く青年をはじめ、多くの若者と性的関係を持っていた。

 そんなゲイシーが最初の殺人を犯したのは、30歳のときだった。被害者は、旅行中にシカゴのバスターミナルで目を付けられた16歳の少年ティモシー・マッコイ。「シカゴを案内してあげる」そう言って彼はティモシーに近付き、自宅に連れ込んで一晩を明かした。

 ゲイシーの証言によれば、翌朝目を覚ましたら、ティモシーがナイフを持って寝室の入り口に立っていたという。彼はパニックを起こしてティモシーと殴り合い、とっさにナイフを奪って刺し殺してしまったらしい。ダイニングに入ると2人分の朝食が用意されており、料理中のティモシーがナイフを持ったままゲイシーを起こしに来たとわかった。

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 その後ゲイシーはティモシーの遺体を地下室へと運び、コンクリートで固めて証拠隠滅を図る。のちのインタビューでは、殺害直後は疲労感を覚えたものの「死が究極のスリルだと気づいた」と話している。

 逮捕への不安から3年ほど犯行から遠ざかっていたゲイシーだが、ついに33歳の時に2度目の凶行へと至る。この2番目の被害者については、まだ身元が判明していない。そのころすでにキャロルとの夫婦関係は破綻しかけていた。彼は妻に「自分はバイセクシャルである」とハッキリ伝えており、彼女は夫が若い男性をたびたび家のガレージへと連れ込むところを目撃している。

 その後、家の中でゲイポルノが見つかったことや金銭トラブルが原因となって、ゲイシーは34歳で2度目の離婚を経験する。家族と別れてますます青少年を自宅に連れ込みやすくなったことで、ゲイシーの犯行は加速していく。

 その後36歳になるまでの約3年間に、14歳から21歳まで31人の青少年を殺害したと判明している。彼には決まった犯行の手口があり、専門用語で「モーダス・オペランダイ」と言われる。

 まず性交渉を仕事としている青年や建設会社のアルバイトの中からターゲットを絞り、「ポルノを見ないか」と誘って自宅の地下室へ連れ込む。そこで「手品を見せてあげるよ」と嘘をつき手錠をはめて自由を奪うと、心ゆくまで性的虐待を加えたという。

 最終的には、自らの手やひもを使って、青少年を絞殺していった。当時若者の間では十字架のネックレスが流行していたため、ペンを回してゆっくりと首のチェーンを巻き取りながら、ジワジワと絞め殺すこともあった。また彼は一晩に2人の被害者を拉致し、虐待して殺す「ダブル」を好んだ。殺害後も被害者の死体と性的な関係を持ったと言われているが、ゲイシー本人は否定している。

 彼の手にかかった被害者の遺体は、自宅の縁の下に26体、敷地内に3体埋められており、残り4体は近くの川に捨てられていた。そのうち9体は身元がわかっていない。

自宅には、死臭が充満していた

 1978年、ゲイシーが経営する会社のアルバイトの面接に行った15歳のロバート・ピーストが行方不明になったことから、警察は本格的に捜査を開始した。実はそれ以前から、警察は連続殺人犯として彼に目を付けていたものの、彼は地元民主党の有力者であることを利用して、巧みに追及をかわしていた。

 捜査員がゲイシーの家を訪ねた際に、ロバートの遺留品と思われる品やゲイポルノなど証拠品らしきものが発見されたことがきっかけとなる。そこで警察は別件逮捕を決断し、「ゲイシーがマリファナの取引をしている」という情報を根拠に家宅捜索へと踏み切った。家に入った警察を待ち構えていたのは、おぞましい光景だった。

 自宅の床下に埋められた29人の遺体は腐敗しきっていて、家の中は死臭とメタンガスの臭いがひどく、現場の捜査員たちはめまいと吐き気を催した。現場で着ていた衣服には腐敗臭が染みついていて、洗っても取れなかったという。また埋められていた死体が掘り起こされて空気に触れたことで腐敗がさらに進み、死臭も一層ひどくなった。最終的に、捜査員は軍用の防護服を着用して作業に臨んだという。

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 逮捕後、ゲイシーは33人を殺害した容疑で起訴された。公判で彼は「多重人格」だと公表し、自分の中には建設業者、ピエロ、政治家、そしてジャック・ヘンリーという警察官がいると訴えた。犯行は「悪いジャック」が実行していたため自身は無実だと主張したものの、33件の殺人罪で死刑が宣告された。

 ゲイシーを含め複数の連続殺人犯とインタビューを行い、処刑後に彼の脳を分析したヘレン・モリソン医師によると、一般に「多重人格」と呼ばれることもある解離性同一性障害や被害妄想型統合失調症を示す特徴は確認できなかったという。

 その後ゲイシーはイリノイ州内の刑務所に収監されたが、何度も再審請求を繰り返している。しかし文通相手だった少年ジェイソン・モスを刑務所におびき寄せて面会した際に、監視カメラの死角で犯行に及ぼうとしたため、請求はすべて却下された。

 そして1994年5月9日、ジョン・ウェイン・ゲイシーに死刑が執行された。彼が希望した最後の食事は、自身の人生の成功を象徴するケンタッキー・フライドチキンだったという。

青少年を殺すための社会貢献活動

 ここからは、ゲイシーが残虐な殺人を犯してしまった理由を考えていきたい。

 最大の原因は、父スタンリーから受けた虐待だと思われる。ゲイシーのように外部から受けた強いストレスを自分の中で貯めこんでいると、いずれ精神がパンクしてしまう。自分を守るため、彼にはフラストレーションを外へと解放する必要があった。彼の場合、青少年への性的虐待と殺人がその手段だったと言える。

 特に0歳から4歳までは「臨界期」と呼ばれて、人格の基盤が形成される重要な時期である。この時に父親から継続的に受けた虐待が彼の深層心理に深く刷り込まれ、思春期に「性欲」と結びついてしまった結果、性的衝動を覚える度に青少年をターゲットにした凶行へと発展したのだろう。

 犯行を続けるためには、周囲から警戒されずに生活しなければならない。だからこそゲイシーは、ピエロの仮装で地域の子どもたちに風船を配るなど「良い人」を演じて本性をカバーしていた。青少年を定期的に殺害してフラストレーションを発散していたため、実業家や地域の名士として社会的な信頼を維持することができたのである。

 この「相反する二面性」は多くの連続殺人犯に共通する傾向であるが、そのあまりに極端な開きが「ジョン・ウェイン・ゲイシー」という連続殺人犯の大きな特徴だろう。そして、怒りを解放した彼の本当の顔を知るのは、殺された33人の犠牲者だけだったのではないだろうか。

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 同時に、権威主義的な家庭環境も要因の一つとして考えられる。父スタンリーは、自身が成功している姿を見せつけることで、息子を「強い男」へと育てようとしていた。

 このようなメッセージが、ゲイシーの中にも染みついていったことは想像に難くない。子どもは24時間親と一緒に過ごすため、反発して追い出されるよりも親に迎合することを無意識のうちに選ぶ。ゲイシーも父の悪口を言うことはほとんどなく、つねに父親の顔色をうかがいながら生活していた。

 そこから、青少年をターゲットに選んだ理由も見えてくる。父親は、幼い彼をことあるごとに「男らしくない」と非難した。そこで彼は「ゲイの男性を殺害することで、自分の中にある同性への愛情を否定できる」と無意識に感じていたのではないだろうか。

 つまり、自分自身の嫌な部分を他者の中に見出し、それを否定・攻撃し、抹消することで、「自分は違う」という一時的な精神的安定を得ていたと思われる。彼は青少年たちを殺害することで、「どうしても受け入れられない自分自身の一面を否定していた」と言えるのかもしれない。

 最後に、おぞましいほどの「死臭」が充満する家屋で、ゲイシーが何事もなく普通に生活できた理由について触れておきたい。父親から虐待されたことで、彼は自分自身を「父の期待に応えられない情けない存在」、さらには「醜いもの」「汚いもの」「生きていてはいけないもの」だと思い込んでいたからだと考察できる。

 自分の「生」を認めてもらえない者たちにとって、「生きている人間」とともに健全に暮らすことは苦痛なのかもしれない。だからこそ、むしろ「死者」にシンパシーを感じて安心できるのだろう。かつて60名を殺害し「死の医師」と呼ばれた連続殺人犯マイケル・スワンゴは、「患者が死んだ時、締め切った病室内に漂う、乾いた甘い匂いが僕は好きだった」と述べた。ゲイシーも同じ匂いを感じていたのだろうか…。

https://www.youtube.com/watch?v=YLh5wZU1LWk

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 「銃が“バカ売れ”」NY殺人銃撃事件が増加 マンハッタン中心街でも物乞いの姿 

ABEMA TIMES 2020年10月9日(金)11時08分配信

 10月7日、ユタ州ソルトレイクシティーのユタ大学で副大統領候補の討論会が行われ、野党・民主党候補のカマラ・ハリス上院議員と現職のマイク・ペンス副大統領の初対決となった。

 アメリカのワシントンで取材中のテレビ朝日・布施哲記者は「最もヒートアップしたのは新型コロナの問題。ハリス候補は、冒頭でトランプ政権のコロナ対策を史上最悪の失敗だと厳しく非難した。対して、ペンス副大統領は『当初からいち早く中国からの渡航を禁止していた。必要な対策はとってきた』『むしろこの対策に当時反対していたのはバイデン氏だ』と反論していた」とレポート。

 一方、今回の選挙にテレビ朝日の元アメリカ総局長・名村晃一氏は「トランプ大統領は『郵便投票は不正が働くから良くない』と郵便本部の幹部まで変えてしまっている。選挙制度自体に不安を覚える大統領選になっている」と危機感をあらわにする。

「トランプ大統領は選挙戦に向けて、ある種の分断政策をとってきた。選挙戦の一番の要は自分と違う人の意見ではなく、保守系の仲間を作ること。トランプ大統領は、前回もそれで勝った」(以下、名村氏)

 しかし、ここで問題になっているのが、ニューヨーク市内における治安悪化だ。2020年9月の殺人件数は51件で、昨年と同じ時期と比べると75.9%増加している。銃撃事件は152件で、こちらも昨年の同時期と比較し、126.9%の増加だった。

 また、ニューヨーク市における2020年1月から9月までの犯罪統計を見ると、昨年の同じ時期と比べて殺人は40%増加、銃撃事件は91%増加を記録している(※データは全てニューヨーク市警察ホームページより)。

 治安悪化について、前述の名村氏はこう述べる。

「窃盗などの件数は減っているが、殺人や銃撃事件が増えている。原因の1つは新型コロナに伴う経済状況の悪化で、治安も悪化しているということ。2つ目は、銃そのものの出回っている数が増えているということ。大統領選がある年は、銃の売り上げがかなり増える。大統領選の年は毎回『ひょっとしたら、次の政権が銃規制をしてしまうんじゃないか』『今のうち買っておこう』という動きがある。4年に1度は“バカ売れ”状態で、今年も銃弾が買えないくらい売れている。アメリカは日本と違って、銃を持つことは憲法で認められていて、自分の身は自分で守るというのが、アメリカの基本的な考え方。銃を持つ人が増えると犯罪にも使われるようになる」

 今年9月に仕事の関係で渡米したという名村氏。街の様子について、不安を覚えたという。

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「お店はしまっていて、オフィスもテレワークに切り替えている人が多く、マンハッタンの中心街でも人が少なかった。土曜の午前中は夜じゃないのに歩くのが怖いくらい。ホームレスも増えていて、停まっている車に物乞いする人もいる。前はいなかったが、マンハッタンの中心街でもそういう人が出てきている」

 先行きの見えない経済状況の悪化。11月3日のアメリカ大統領選挙がどのような結末を迎えるか、注目が集まっている。

 

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