去る9月、巨大な文化を誇るの人気ウェブホスティング会社、ダウムが所有する掲示板にある書き込みが寄せられた。ミネルバ(Minerva)というハンドルネームによるその書き込みは、いまは亡きの迫り来る破綻を予言していた。
この噂はネチズン社会を駆け巡り、次にミネルバが「10月6日の週前半にウォンはドルに対して毎日50ウォン前後下げる」と予言すると、彼の信奉者たちは期待を胸にに見入った。実際、ウォンはその後3日間にわたり、ほぼ予言通りに下落した。
掲示板へのアクセス件数は既に4000万件に上り、ミネルバは上の一大現象となっている。ウェブ利用者は、以前ほかにも予言がなかったか、ミネルバの正体に関するヒントはないかと、過去の書き込みをくまなく探した。
今回彼は現在1000ポイントを上回っている100種株価指数(KOSPI100)が500ポイントまで下落し、ソウル市内のアパートの価値も半減すると予言している。これほど弱気な見通しは突飛に思えるかもしれないが、カサンドラと違ってミネルバには大勢の信奉者がいるのだ。
神格化の動きはネットの世界だけにとどまらなかった。あるテレビキャスターは「政府は彼の言葉に耳を傾けるべきだ」と訴え、経済担当の元大統領首席秘書官は「国民にとって最も優れた経済の師」と評した。
昨年12月末に「ミネルバ」が《政府が主要金融機関などにドル買いを禁じる緊急文書を送った》と書き込むと、政府は報道発表まで行い、これを打ち消した。検察当局が今年1月、公然とウソをネットに流し公益を害したとして、「ミネルバ」を電気通信基本法違反容疑で逮捕した。
検察は12月の書き込みでドル買いが集中、政府が介入のため、20億ドル(約1800億円)以上を注ぎ込み、国に多大な損失を与えたと推算した。「逮捕は表現の自由を抑圧する」との野党議員らからの強い批判の中、逮捕・起訴の正当性を主張し、今月13日に懲役1年6月を求刑していた。
だが、ソウル中央地裁は「当時、その内容がウソと認識していたと考えにくく、当時の状況から公益を害する目的があったとはみなせない」と判断し、無罪を言い渡した。検察は即日、控訴した。
今月20日に釈放された「ミネルバ」は詰めかけた報道陣に「個人の権利を守るのがどれだけ難しいか考えるきっかけになった」と話し、ネットへの書き込みは続ける意志を表明した。
■ ウォール街のやり手…実はただの無職?! 偽ミネルバも登場
「ミネルバ」を名乗っていたのはパク・テソン氏。パク氏はネットの掲示板に自らの経歴をこう記していた。
《30歳を過ぎて渡米し、修士号を取得、米ウォール街で企業の合併・買収(M&A)やデリバティブ(金融派生商品)取引にかかわったが、(97年の)祖国の通貨危機を傍観したことで罪悪感を抱いた…》
ところが、1月の逮捕で「ミネルバ」は「31歳の無職」だったことが明らかになった。パク氏はソウルの工業高校から短大情報通信学科に進学。周囲は彼の印象を「平凡」の一言で語った。
逮捕後、パク氏は弁護士に「通貨危機の際に友人の親が自殺し、苦しい生活を送る友人を目にした。自分の家庭は自分で守らないと思い、本やネットで独学で経済を学んだ」と述べた。経歴詐称は「文章の信頼度を高めるため」と供述したといい、「自分にこんなに大きい影響力があるとは思わなかった」と事件の広がりへの戸惑いを口にした。
「ミネルバ」の本当の姿に「こんな若者に政府や国民が振り回されたのか」と失望が広がった。
《無職なら政府がすぐに採用しなければ》と経済対策で後手後手に回る政府を皮肉る書き込みがあった一方、ネットでは「素人があんなに高度な経済分析を書けるわけがない」と当局がネットを弾圧するためにでっち上げた“偽物”との見方も出た。「自分が本物のミネルバだ」とメディアに名乗り出る人物まで現れる始末。
騒ぎに拍車を掛けた投資コンサルタントと称する人物が雑誌のインタビューに答え、「本物の『ミネルバ』は、自分を含めた為替や株の専門家からなる7人のグループ」と主張。結局、この雑誌を発行する東亜日報が誤報だったと謝罪した。
偽物騒動の一方、「ミネルバ」擁護のネットユーザーらは《表現の自由を踏みにじった判事を弾劾しよう》と、逮捕状を発行した判事の顔写真と生年月日、出身校など個人情報をネットに流す行動に出た。
米国産牛肉をめぐる虚偽情報から発展した大規模デモやウソの書き込みから有名女優らを自殺に追い込んだ事件同様、韓国ネット社会の負の側面がここでもあぶり出された形だ。
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ミネルバは「極右日本人」を参考に?!
ミネルバ騒動は、思わぬところにも波及した。
「ミネルバ」の書き込みへの注目が最高潮に達していた昨年11月、韓国のネットユーザーが、日本人経済評論家が、日本の雑誌に掲載した韓国経済に関するコラムを韓国語に訳して、掲示板に投稿したところ、大きな話題となった。
このネットユーザーが《ミネルバ様が参考にしたかもしれない》とコメントを書き込んだためだ。
このコラムは、『ドル崩壊!』など現在の世界的経済不況についての著書を相次ぎ出版している経済評論家の三橋貴明氏(39)が韓国経済の危機的状況を指摘したもの。韓国人ネットユーザーからは《韓国の構造的問題を的確に指摘している》などの評価が書き込まれた。
ところが韓国三大紙の1つ、東亜日報がこの現象を取り上げ、コラムを掲載したのが保守傾向の強い雑誌だったため、「日本の極右派が書いた文章にまで関心を寄せるほど、過剰な危機論がはびこっている」と批評した。
「ミネルバ」ことパク氏が三橋氏のコラムを直接、参考にしたかは不明だが、韓国人ネットユーザーが「ミネルバのオリジナル」と考えたのには理由がある。
三橋氏は「2ちゃんねる」や「Yahoo!」などのネットユーザーだったが、2006年に韓国の異常なウォン高現象に興味を覚え、韓国の経済分析の書き込みを続けるうちに注目を集め、07年に『本当はヤバイ! 韓国経済』を出版。ベストセラーになり、評論家デビューを果たすなど、ミネルバと経歴が重なる部分があるからだ。同書は韓国でも翻訳出版された。
三橋氏はもともと韓国経済の専門家ではなく、統計資料などネット上にあふれる公開資料を元に分析を進めるなど、分析スタイルでもミネルバに重なる部分がある。
勾留中に検察がパク氏に韓国経済の展望について分析させたところ、ネット検索を使って40分ほどで精緻(せいち)な報告書を書き上げたという。この分析スタイルに逮捕後、韓国世論は「つぎはぎにすぎない」と批判を強めた。
三橋氏は「情報の95%が公開情報だが、経済評論家たちは十分にそれを使っていない。韓国では経済的不安に誰も明確な答えを示さず、人々が情報に飢えていた中、『ミネルバ』が現れ、分かりやすく説明したことで、あれほど支持されたのではないか」と語った。
■ 通貨危機の再来? 沈黙する大メディア
国民がミネルバを待望した韓国の経済状況はどうなっているのか。
ひと言でいうと、極端なウォン高から極端なウォン安への急下降だ。
1ドル=900ウオンで推移していた為替相場が昨年1ドル=1500ウオンを下回るまでに下落。株価の下落も止まらず、産業界は軒並み大打撃を受け、今年2月には、失業者が100万人に迫るという97年の通貨危機に匹敵する不況状態が続いている。
一時期のウォン高は、利子の安い日本で円を借り、高金利の韓国に投資する「円キャリー」と呼ばれる外国人投資家の資金運用が押し上げていた。この資金が今回の円高で、一気に韓国から逃げ出したのだ。
輸出で稼ぐ韓国にとってウォン安は有利なはず。だが、日本の技術に依存する韓国製造業は、日本から輸入した部品を組み立て輸出するため、ウォン安にもかかわらず、極端な円高で対日貿易赤字ばかりがかさむ産業構造上の弱点を露呈した。
これら韓国経済の構造上の問題について、三橋氏は07年のウォン高当時から警告していた。
韓国メディアは「政府の無策がミネルバ現象を生み出した」と政府の失策に批判の矛先を向けた。だが、当のメディアも危機的状況に強く警告を発することはなかった。
むしろ、「IMFが韓国を支援対象国にみている」と韓国の経済危機を指摘する欧米メディアに対して、韓国メディアは「根拠なき危機説だ」と三橋氏のコラム同様に退けていた。
三橋氏は「97年の通貨危機を経験しているだけに危機に言及することに自制が働くのだろう。下手に悲観的な分析を示すとたたかれてしまう。『ミネルバ』は無名だったからこそできたのだろう」と語る。
今回の無罪判決を受け、《当然の判決》《逮捕自体無理があった》と“英雄”の凱旋(がいせん)を歓迎したネットユーザーらに対して、大手メディアは「ミネルバ」現象は好ましくなく、法的規制の必要性を強調する社説を掲げた。
「匿名性に隠れ、虚偽を流布し、膨大な被害が発生しても処罰できなければ、法改正や新たな立法を考慮しなければならない」(東亜日報)「ネットの流言飛語をふるいにかけなければ、いつ第2のミネルバのような水準が低い出来事が起きるか分からない」(朝鮮日報)…。
だが、メディアや政府が経済不況の打開策を示せない限り、韓国の国民が第2、第3の「ミネルバ」を求めることになるのではないだろうか…。
◆ 多くのブロガーが、単にアクセスが増えてくれて読んでもらえることに喜びを
感じながら【ブログ】を続けていると思うのだけど。一部には、カネにならない行動などに、一切の価値を見出さない人達もいる。金儲けの機会が
是にあるはずだってね。
ただ、そんな【ブログ】はアクセスランキング上位には一つも
上がって来ないわねぇ~~。(笑)