ゴーン・ショック

2020年11月18日 (水)

【ゴーン被告逃亡】仏TV<独占インタビュー>「日本は地獄、レバノンは天国」

 認めるのはハラ斬り」仏TV連続インタ カルロスゴーン独白 

Foresight 2020年11月18日(水)6時01分配信/広岡裕児(ジャーナリスト)

 11月のはじめにフランスのテレビ局で、1週間の間に立て続けに3回、レバノンに逃亡中のカルロス・ゴーン日産自動車元会長の単独インタビューが放送された。

 ゴーンの著書が4日にフランスで発売されたのにあわせ、宣伝と復権を狙ったものである。

 著書の題名は『Le temps de la vérité(真実の時)』(未邦訳)。

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 以前『カルロス・ゴーン経営を語る』(日本経済新聞出版、原題はCitoyen du monde)を書いたフランスの『AFP通信』元東京支局長フィリップ・リエスとの共著で、副題に「カルロス・ゴーン語る」とあるように、ゴーンのインタビューにリエスが補足情報を入れてまとめたものである。

日本司法の人権無視を強調

 最初に放送されたインタビューは、11月1日の民放局『TF1』の報道番組『7 à 8』。日曜日の午後7時から、1時間で3~4本のルポを流す番組で、ゴーンのものは「生涯逃亡者」という題名で12分間のインタビューであった。

『TF1』はもとは国営放送で、民営化の時に土木建設から出発して携帯電話などまでカバーする大グループになった「ブイグ」が買収した。

 ゴーンは逮捕後、「ルノー」の社長時代に使っていた広報エージェントにマスコミ戦略をさせているが、テレビについてはずっと同局とそのニュースチャンネル『LCI』を優遇していた。1月8日にベイルートでおこなわれたゴーンの記者会見のあとも、すぐ事務所での独占インタビューをした。

 日本のマスコミも参加していた会見でゴーンは、司法や日産は別にして日本と日本人は素晴らしい、ともちあげていたが、インタビューでは逮捕されると掌を返したような日本のマスコミ、世論への不満といった本音を吐いていた。

 今回のインタビューは、ベイルートの自宅近くのホテルで行われた。別室では武装したボディガードが待機していた。そこでまず女性インタビュアーが問うたのは、

「逮捕や誘拐される恐怖はありませんか?」

 であった。

「誘拐は、日本人のやり方ではないと思います。しかし、何が起こるかわからないので用心するに越したことはない」

 ボディガードはゴーンが雇っているもので、

「べつに監視されているわけではありません。レバノンのどこへでも自由に行けます。私はレバノン、フランス、ブラジルの国籍を持っていますが、それらの国は、自国民を引き渡すことはしません。しかし、そこに行く途中でどこかの国で捕まって日本に引き渡されるリスクはある。それが嫌だからレバノンにいるのです」

 とにかく、日本に戻りたくない。そこには、実利的な理由もある。

「現在日本で弁護士はうごいているのか?」

 という問いに対して、

「日本では、物理的に存在していないと裁判はない。今一旦停止している。私が国内に戻らない限り、刑事訴追は停止している」

 という。

 フランスでは、本人がいなくても捜査がつづき、欠席裁判が行われるが、日本にいない限り安心して生活できるのだ。

 1月8日の記者会見で、ゴーンは自分にかけられた容疑をすべて否定すると同時に、日本の司法の前近代性や人権無視を非難し、容疑者ではなく犠牲者であると強調した。今回のインタビューでも同じである。

 たとえば、ゴーンと共犯だとされたグレッグ・ケリー元役員について、

「彼は誠実だし、検事に譲歩することはなかった」

 といいつつ、すぐに、

「検事は私の自白が取れないので彼から取ろうとしました。彼らのシステムは自白システムです」

 と司法批判に移った。

「あなたの逃亡で彼が不利になったことに罪悪感はありません?」

 と尋ねられると、

「彼が被っていることを考えると、彼や彼の家族に悪いことをしたと思っている」

 という。共犯にしてしまったことや自分だけが逃げてしまったことに対する反省ではなく、日本の司法制度が、彼を酷い目にあわせているから気の毒だ、というのである。そして、すぐ付け加えた。

「私も同じことを被った。もっと酷く」

 日本から逃亡したとき、

「これで生涯逃亡者になると考えたか?」

 と問われると「ウイ」と答えたが、

「でもそれは私にとって最悪のことではありません。最悪なのは日本で死ぬことです。無言のまま。ある意味鎖につながれて、私が経験したことを説明する機会もなく、弁護することもできず」

 さらに、

「生涯逃亡者になるより、罪を認めて刑務所に何年か入るということは考えなかったのか?」

 と問われると、

「日本で罪を認めるだって! それはハラキリだ。罪を認めたらおしまいだ!」

「フランスの司法からは逃げないのか?」

 という問いには、

「どうして私が逃げなければいけないのですか? 質問にはきちんと答えます。容疑は全く根も葉もないことなのだから。全く心配していない」

 ゴーンは7月に、事情聴取のため予審判事からパリに召喚されたが拒否した。だが、それはあくまでも国外に出られなかったからであって、来年早々フランスから予審判事がベイルートに出向くことになっており、それには全面的に協力するという。

 日本へのあてつけもあろうが、フランスではゴーンは容疑者であるだけではなく、自分の方から報酬や退職金、年金などを請求する訴訟をいくつも起こしている。その関係から、フランスの司法について批判を差し控えている部分もあるだろう。

恥知らず

 このゴーンのインタビューを視聴者はどう受けとめたのだろうか。フランスの「ヤフー」の記事によれば、SNSの反応は、否定的なものばかりだ。

「スキャンダル」「彼は英雄ではなく泥棒だということを忘れるな」「恥知らず。まったく品位のない奴」……。

 そしてテレビ局に対しても、

「指名手配されている者ではなく、本当のメッセージを持っている正直な人々にインタビューすべきだ」

「正直な男に見せるなんて恥だ」

「ロックダウンの最中に、許可なく国外に出た男に発言させるとはなんたる皮肉!」

 というのもあった。

 濃色のジャケットにノーネクタイでワイシャツの第1ボタンをはずし、高級ホテルで言いたい放題のゴーンの姿は、たしかに挑発的だ。もっとも、彼にとっては一般大衆など関係ないのかもしれないが。

 国営放送『France 2』は、『TF1』放送の1週間後(11月8日)、昼のニュース後の45分のドキュメンタリー枠で「カルロス・ゴーン、大脱走」という番組を流した。

 なお、「大脱走」がどのように行われたのかについては、この番組でも他でもゴーンは口を閉ざしている。ただ、自分1人で決めた。準備期間は、逃亡するしかないと決めた時から数週間だけ。

「逃亡するときにはダラダラしてはいけない。情報漏れ、疑い、躊躇があればその代償は非常に高くつく」

 とはいっている。

 番組では逃亡の再現、マンガ仕立てでのゴーンの半生、関係者やフランスの専門家、弘中惇一郎弁護士のインタビューなどをまじえた中に、5分ほどレバノンでとった本人のインタビューが入っている。その大部分は、日本の司法についての批判である。

「私が日本を離れた理由は、司法の否定があったと思ったからです。私がレバノン、フランス、ブラジルに求めるのは、これら3カ国の市民として、きちんとした司法です。 私は法を超えることを求めていませんが、法を下回ることも求めません」(「司法」と訳した原語「justice」には「正義」という意味もある)

 インタビュアーの、

「でも日本は民主国家でしょう。その司法を信じないのですか?」

 という質問には、こう答えた。

「そう思うのですか!?  司法がなければ本当の民主主義はありません。私は決して自分のためだけに話すのではありません。日本でこの運命に苦しんでいる何万人もの人々のために話しているのです。私のように声や手段を持つ特権を持っていない人たち、私が恩恵を受けていることは重々承知です。しかし、恩恵を受けられない人もたくさんいるのです」

 この前日の7日に、民放のニュースチャンネル『BFM』でもロングインタビューが放送された。そこでも熱がこもっていたのは、日本の司法批判だ。

「日本の司法について人々は誤解しています。もし北朝鮮だったら、私が何をしても必ず負けるということはわかっています。でも日本でまさかそんなことになっているとは思いません。彼らの司法制度は別物で、それは経済大国から想像されるものではありません」

「無実であろうと有罪であろうと、検察官にとっては問題ではないのです。彼らは、自分の保身と出世のために勝たなければならない。結果は初めから決められているのです。私は有罪になると確信していました。だから、ここから去らなければならないという結論に達したのです」

個人活動と平穏な暮らし

 ゴーンは以前から、

「日本の司法システムと日産の経営陣、さらに日本の政府の陰の支援について明確な証拠を明らかにする」

 といきまいていたが、これらのインタビューを子細に観ても、新著『真実の時』でも、1月8日にベイルートでおこなわれた記者会見の時以上の明確な証拠は出てきていない。

とくに日本政府の支援については、日本のマスコミ情報や彼の推測でしかない。たとえば『真実の時』では、

〈日本の政界はどの程度まで関わっているのか? 知られているのは、川口(均・現日産自動車特別顧問)と日本政府のナンバー2だった菅義偉が、2014年9月以来、友情といってもいいような、とても密接な関係だということです。(…中略…)

 日本の『リテラ』によると、「近年、(菅と川口は)頻繁に連絡を取り合い、夕食会や会議に参加している。ゴーン事件が官房長官に事前に提起されなかったとは考えられない」。同筋によると、「日産では、菅が川口の援護射撃をしているというのが常識だ」とのこと〉

 一方、日本の司法に対する不満については、『真実の時』の章名だけをみても、「小菅の凍った地獄」「モスクワの裁判『メードインジャパン』」と、ソ連の強制収容所や裁判になぞらえて、多くのページが割かれている。

 今年8月にベイルート港で大爆発事件が起きたとき、邸宅が粉々になったという報道があった。だがそれは、うけた被害が針小棒大につたわった誤報である。

現在のゴーンは、所有するワイナリー「IXSIR」のレバノンワイン事業、ベイルート近郊にあるカスリク聖霊大学での会社幹部と起業家向けの講座、環境分野を中心にしたスタートアップ企業への投資やアドバイスと、個人的な活動をしつつ最愛の妻と平穏な日々を暮らしているという。

 大爆発事故や経済崩壊、政情不安でレバノンは大変だが、『真実の時』では、

「私が経験した日本の地獄にくらべれば天国だ」

 と述べているほどの暮らしぶりなのだ。(敬称略)

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 窮地カルロスゴーン打って出た驚き奇策 

FRIDAY DIGITAL 2020年11月17日(火)8時02分配信/桐島 瞬(ジャーナリスト)

 レバノンで悠々自適な生活を送っているカルロス・ゴーン被告(66)が、再び窮地に立たされるかもしれない。

 昨年末、音響ケースに入って国外脱出するという前代未聞の逃亡劇を演じたゴーン被告には、3人の協力者がいた。今年5月に米国で逮捕されたそのうちの二人について、米国務省が10月27日付で日本への引き渡しを認めたのだ。

「陸軍特殊部隊『グリーンベレー』元隊員のマイケル・テイラーと、その息子ピーターです。マイケルが音響ケースに入ったゴーンを運び、ピーターは逃亡準備のためのホテルの手配や道具の受け渡しを行ったと見られています。時期は未定ですが、米国政府が承認した以上、引き渡しは間違いなく行われる。二人は日本で徹底的に取り調べを受けることになります」(全国紙司法担当記者)

 その過程で不法出国に関して新たな事実が明らかになれば、日本はレバノン政府に対してより強くゴーン被告の引き渡しを要求できる。深刻な経済不況が起きているなか、今年8月には首都・ベイルートで大規模爆発が発生。日本から500万㌦もの緊急支援を受けた手前、レバノン政府がいままでのようにゴーン引き渡しを拒否できなくなる可能性は十分にある。

 まさに絶体絶命の大ピンチ――。毎晩のように家族や友人とワインを飲み交わし、気が向いたときに現地メディアのインタビューに応じて言いたい放題言ってきたゴーン被告のレバノン豪華ライフも、いよいよ終わるのか。

 しかしそこは、日産会長時代からさまざまな奇策で業界を賑わせてきたゴーンである。逃亡協力者親子の引き渡しが行われる前に、今回もこんな奇策を考えているという。ゴーン被告と親しい友人が証言する。

「ゴーンはいま、レバノンの大臣になろうとしている。友人の弁護士に相談するだけでなく、実際、ツテのある政府高官にも打診をしている」

 なぜ、大臣になりたいのか。国際ジャーナリストの山田敏弘氏が分析する。

「大臣になれば、日本への引き渡しは行われず、さらに国外に出ても逮捕されないと考えているんでしょう。実際、’02年にはベルギーの司法当局がコンゴの大臣に逮捕状を出しましたが、国際司法裁判所が無効の判決を下している。国際慣習上、国家を代表する大臣には外国の法律によって裁かれることを免除される、いわば〝特権〟があるのです」

 経済混迷と爆発事故の責任を取る形で、8月にレバノンのディアブ内閣が総辞職。現在、組閣が進んでいるが、ゴーン被告はそのタイミングでの入閣を狙っているようだ。

「9月29日、ゴーンはホーリースピリット大学というキリスト教マロン派系の大学で会見を開いた。複数の宗教が入り乱れるレバノンにおいて支配層を占めるのがマロン派で、ゴーン自身も信徒。この大学で会見をするということは、マロン派に対してのアピールに他ならない。会見の目的は大学支援の表明。ゴーンは『この国に奉仕する』『レバノンのあらゆる問題に対処する方法がある』と語った。何大臣になるか? 大臣になれるなら何でもいいと考えているよ」(前出・友人)

 日本との関係を考慮し、現状、レバノン政府はゴーン被告の大臣就任に難色を示しているという。しかし、世紀の大脱走同様、何をするのかわからないのがゴーンという男。近いうちに、仰天ニュースが世界を駆け巡るかもしれない。

 日本批判本」出版のゴーン被告“起死回生の奇策 

FRIDAY DIGITAL 2020年11月16日(月)8時01分配信

「ゴーン氏は今月発売された新著の中で日本政府批判を展開し、自らを正当化しています。自分は悪くないと世界に訴えることで、マイナスイメージを払拭したかったのでしょう」(全国紙記者)

 会社法違反(特別背任)で起訴され、レバノンで逃亡生活を送る元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告(66)が、逃亡後初の著作となる『ル・タン・ドゥ・ラ・ベリテ(真実の時)』を11月4日にフランスの出版社から発刊した。日産会長時代から親交のある元AFP通信東京支局長のフィリップ・リエス氏と共著。同書は480ページに及び、日本政府や日産だけでなくフランス政府、ルノー、自らの当初の弁護団まで批判している。

 ゴーン氏は、役員報酬の一部を有価証券報告書に記載しなかったことで金融商品取引法違反に問われた。だが著書では「それに関して証拠がない」と否定。西川廣人・元日産社長、ハリ・ナダ専務、豊田正和・社外取締役、川口均・前副社長、今津英敏・元監査役らの名前を挙げて、今年1月にベイルートで会見したときと同じく「日産側が企てた陰謀だ」と主張している。ゴーン氏の知人が明かす。

「1月の会見でゴーン氏は、『策略に関わっていた』とする日本政府関係者の名前は明らかにしませんでした。しかし新著では、川口前副社長と菅義偉首相が近い関係にあったことが重要な役割を果たしたこと。また安倍晋三・前政権に近いとされる熊田彰英弁護士が、日産、政府、検察と接触していたことなども指摘しています」

募る危機感

 ゴーン氏は出版の直前、高級紙フィガロを始めとするフランスの新聞、雑誌、テレビに次々と出演して自らの無実を訴えかけた。身柄の引き渡しを求める日本政府に対してメディアを使っての徹底抗戦に映るが、前出の知人は「本人は危機感を募らせている」と話す。

「レバノン政府は自国民であるゴーン氏を日本に引き渡さない立場を取っていますが、経済危機とベイルートで起きた大規模爆発の責任を取って8月にディアブ内閣が総辞職しました。政情不安な状態ではこの先、何が起きるかわからない。かといって出国すれば第三国で逮捕されるリスクがあるため、ゴーン氏はこの先もずっとレバノンから出られません。危機感は相当強いようです」

 そこで、こんな奇策を講じているという。

「9月にレバノンのキリスト教マロン派の私立大学で記者会見を開き、ゴーン氏は『我が国が直面するあらゆる問題に対処する方法がある』とぶち上げて大学への支援を約束しました。レバノンの支配層はマロン派が占めていて、ゴーン氏も同じマロン信徒。国内の実力者たちに向けて自らをアピールしたわけです。

 現在、目論んでいるのが、組閣中のレバノンで大臣になること。政府の要職につけば簡単には逮捕されないうえ、外国への出国も自由です。何の大臣でもいいから空きポストはないかと政府関係者に持ち掛けています。ただ、ゴーン氏を大臣に起用すれば、日本やフランス政府との関係にヒビが入りかねない。実現の可能性は薄いでしょう」

 状況が好転しないゴーン氏。日本を激しく批判した著書の出版は、焦りの裏返しなのかもしれない。

日産賠償請求100億円ゴーン被告側“棄却求める

朝日新聞デジタル 2020年11月14日(土)7時30分配信

 日産自動車がカルロス・ゴーン元会長に対し、会社資金の流用などの不正行為で損害を受けたとして、100億円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が13日、横浜地裁(浦野真美子裁判長)であった。ゴーン元会長側は請求の棄却を求めた。

 ゴーン元会長側は、日産側から証拠書類がほとんど提出されておらず、「このままでは適切な認否をすることが不可能だ」とする答弁書を提出。代理人の郷原信郎弁護士らが記者会見し、「不正や犯罪の疑いの根拠がまったくないことが明らかになると確信している」とするゴーン元会長のメッセージを公表。郷原氏は「ゴーン氏をめぐる事件の真相解明を行う場として(代理人になることを)受け入れた」と話した。

 一方、日産は「一連の不正行為に関する真実が判決により明示されるものと期待しています」とのコメントを出した。

 訴状で日産側は、ゴーン元会長が国内外の住宅の賃貸料を日産に負担させたり、社のジェット機を私的に利用したりして、損害を与えたと主張。元会長の不正行為が発覚して逮捕されたことにより、株価が大きく下落したり臨時株主総会の開催を余儀なくされたりし、信用が毀損されて損害を被ったと主張している。

 

2020年9月21日 (月)

【日産ショック】菅政権「『1兆1000億円』社債発行に」政府保証

 菅内閣日産救済シフト逆境放置すれば破綻も 

JBpress 2020年9月19日(土)6時01分配信/大西 康之(ジャーナリスト)

 菅新政権が誕生した9月16日、菅氏の地元、横浜市に本社を置く日産自動車が米国と欧州で合わせて1兆1000億円の社債発行を決めた。「資金繰りに行き詰まった町工場がサラ金に手を出したようなもの」という見方が出るほど、日産の経営状況は厳しい。公的資金を投入してゾンビ企業にするか、市場のルールに任せて解体するか。「日産問題」への対応で菅新政権の正体が見えてくる。

日産の社債に外国人投資家が群がった理由

 日本の投資家はすでに日産を見限っている。7月に国内で実施した4年ぶりの起債では、5000億円の枠を設定したが、700億円しか調達できなかった。今回はリスクマネーの引き受け手が多い海外で10年債の利回りを4.81%とした。年間約400億円の金利負担が発生する、まさにサラ金から借りるような条件だが、日産にはなりふり構ってはいられない事情がある。

 2021年3月期の連結最終損益は6700億円の赤字になる見込みだ。新型コロナで自動車メーカー全体が苦境に陥ったため、事業環境の悪化が原因に見えるが、そうではない。日産は前期の2020年3月期も6712億円の赤字である。6月末時点で自動車事業の手元資金が1兆2670億円あるとはいえ、このペースで金庫から金が流れていけば破綻は時間の問題だ。

 そんな会社が、いくら海外とはいえ、よく1兆1000億円もの資金を集められるものだと思われるかもしれないが、これにはカラクリがある。海外の投資家は日産の後ろに日本政府の姿を見ているのだ。

 コロナ禍で資金繰りが怪しくなった4~7月、日産は銀行融資などで約9000億円を調達した。この中に日本政策投資銀行から借りた1800億円があるのだが、この融資に1300億円の政府保証が付いていた。返済が滞った際に8割までを政府が公庫から補填するという異例の融資である。

 政投銀は、金融危機や大規模な災害などの影響を受けた企業へ国からの出資金で融資する「危機対応業務」を担う金融機関に指定されており、政府は3月に新型コロナウイルスの感染拡大を同業務の対象にした。政投銀は大企業を中心に7月末までに185件、1兆8827億円の融資を決定したが、大企業向けで政府保証がついたのは日産だけ。日産は「特別」なのだ。

 国が「日産は潰さない」と宣言したに等しい。国が後ろ盾につくのなら、超高利回りの日産の社債は「おいしい」。そこに抜け目のない海外投資家が群がった。

 しかし「日産救済」は1300億円の政府保証で片がつくほど甘くない。1兆円の起債も時間稼ぎに過ぎない。バケツの底にあいた大きな穴を埋めない限り、いくら水を注いでも無駄である。

 カルロス・ゴーン元会長の逮捕・逃亡以来、ガバナンスが全く機能していないことが露呈した日産の経営陣にもはや当事者能力はない。そこでしゃしゃり出てくるのが日本政府である。

ホンダとの経営統合プランは水泡に

 すでに様々な憶測が飛び交っている。その一つが8月16日に英フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じた「日産、ホンダの経営統合」だ。日本政府関係者が昨年末に日産自動車とホンダの経営統合を模索していたという。

 FTによると、統合案は2019年末に日本の政府関係者から両社へ提案された。ホンダは日産とルノーとの複雑な資本関係を理由に反対。日産も日仏連合の再建を軌道に乗せることに注力していると拒否した。統合案は両社の取締役会で検討されることなく、立ち消えになったとしている。

 日本政府というのは自動車産業を管轄する経済産業省を意味すると思われる。民間企業である日産とホンダに経産省が統合を「提案」するというのも、おかしな話だが、八幡製鐵と富士製鉄の合併など基幹産業における大型M&Aが政府の意向によって進むのは、この国では珍しい話ではない。

 正確に言えば、1999年、日産がルノーから36.8%の出資(後に44%に引き上げ)を受け入れた時点で、資本の論理における日産の本籍はフランスに移っていた。この時、日本には公的資金を使って民間企業を救済する手段がなく(不良債権処理で銀行に公的資金を注入した後、産業再生機構の誕生でそれが可能になった)、日本第2位の自動車メーカーの経営権を外資に譲り渡すという、経産省的には「屈辱的」な事態になった。

 仏側もこうした日本の事情は理解しており、再建請負人として送り込んだゴーン氏が大鉈を振るう一方、「ルノーと日産は対等のパートナー」というシグナルを送り続けた。しかしルノーの経営が悪化してくると、仏政府はルノーの雇用を守るため一部の日産車の製造をルノーの工場に移管することを求めた。

 ルノー・日産の経営により深く関与するため、仏政府は2014年、株式を2年以上持つ株主に2倍の議決権を与える「フロランジュ法」を制定。ルノーに対する議決権を倍増させた。当初、ゴーン元会長はこうした仏政府の動きに抵抗していたが、ルノー会長の座にとどまるため妥協する。

 これに焦ったのが経産省だ。フランスの雇用を守るための「のり代」に日産を使われたのではかなわない。この文脈だと2018年11月のゴーン逮捕は、裏切り者を切って、日産を膝下に収めたい経産省による「日産奪還作戦」に見える。

 もちろんルノーを追い出しただけでは日産は再建できない。むしろ資本の支えを失って信用収縮を起こす可能性が高い。そこで必要なのが「再編」である。経営が傾いた企業にダイレクトに公的資金を注入すれば「ゾンビ企業救済」と批判される。そこで経産省が編み出したのが「官製ファンドによる再編企業への出資」という必殺技。

 その典型が日立製作所、東芝、ソニー、パナソニックの赤字液晶事業を統合し、そこに産業革新機構(INCJ)が2000億円を出資して筆頭株主に収まったジャパンディスプレイだ。

 INCJの後釜として設立された産業革新投資機構(JIC)は発足時、「ゾンビ企業の救済には与しない」と反発した民間出身の取締役全員が退任した。裏を返せば「ゾンビ救済」こそがこの機構の使命であり、その最大のターゲットは日産と見ていい。

 問題は「日産と経営統合してもいい」という殊勝な自動車メーカーが日本にあるかどうかである。上述のようにホンダは経産省の打診に耳を貸さなかった。経産省、日産から見て最良の統合相手はトヨタ自動車だろうが、トヨタにとってのメリットがなさすぎだし、「三河の田舎侍」と呼ばれるトヨタが、お上の言うことをすんなり聞くとも思えない。

 しかし菅新政権は何かをやるつもりだ。新政権の要となる加藤勝信官房長官の秘書官に経産省大臣官房で自動車・産業競争力を担当する曳野潔参事官が抜擢された。曳野氏は自動車課・自動車戦略企画室長も兼務していた。自動車再編のシナリオを書いていたフィクサーが官邸に入った意味は小さくない。

ジャパンディスプレイの二の舞か

 日産に残された時間は少なく、土壇場で何が起こるかは予断を許さない。一つだけ確かなのは「競争力を失った大企業の経営に国が嘴を突っ込んでも絶対にうまくいかない」ということだ。ジャパンディスプレイは6期連続の赤字が確定的で、1700億円を投じて建設した最新鋭の白山工場を台湾、鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のシャープに売却する。

 競争力を失った自動車メーカーの「終活」で参考になるのは英ローバーだ。

 同社は2000年、SUVの「ランド・ローバー部門」を米フォード・モーター、小型車「ミニ」ブランドを独BMWに売却。競争力のないセダンの「ローバー部門」は英投資グループのフェニックスに10ポンド(当時のレートで1660円)で売却した。現在はフォードから商標権を23億ドルで買ったインドの自動車メーカー、タタ・モーターズが「ローバー」ブランドを保有している。

 バラバラに解体され、あちこちに売り飛ばされるこのやり方は、残酷に見えるが、社会資本のロスを最小限にする最も効率的な自動車メーカーの倒し方だ。1975年にローバーの親会社、ブリティッシュ・レイランドを国営化し、七転八倒の痛みを味わった英国がたどり着いた結論である。

 完遂するには経営者、政府、株主、労働組合などすべてのステークホルダーに並々ならぬ胆力が要求される。そんな胆力を持ち合わせない日本では、延々と巨額の血税を垂れ流す「ゾンビ救済」が繰り広げられそうだ。

 日産国が助けることを真っ先に決めたのはいったいなのか 

現代ビジネス 2020年9月17日(木)6時01分配信/磯山友幸(経済ジャーナリスト)

保証額1300億円

 日産自動車の借入金に、政府が保証を付けている事が明らかになった。

 5月に政府系金融機関の政策投資銀行が行なった1800億円の日産への融資のうち、1300億円に政府保証がついていたと朝日新聞が9月7日の朝刊1面トップで報じた。「日産に政府保証融資1300億円 政投銀 返済滞れば8割国負担」という刺激的な見出しだった。

 5月の段階で、日産への融資のうち、みずほ銀行の3500億円について、2000億円に日本貿易保険通じた政府保証が付いていた事が明らかになっていた。結局、5月に行われた7000億円の融資のうちほぼ半分を政府が保証していたことになる。

 政府は4月末に成立した補正予算などで、新型コロナウイルスの蔓延で打撃を受けた企業への金融機関の融資を支援するため、政府機関を通じた政府保証などの拡充を決めた。それを真っ先に利用したのが日産ということになる。

 朝日新聞は記事で「政投銀はコロナ関連で大手・中堅企業に147件(約1.8兆円)の危機対応融資を実行したが、政府保証つきは日産の1件のみ」だったと指摘している。

 新型コロナの打撃を受けているのは日産だけではない。にもかかわらず、なぜ日産を真っ先に助けるのか、国民負担になりかねない保証の実行を誰が決めたのか、明らかになっていない。果たして日産を真っ先に国が助ける「大義」はあるのだろうか。

財務、経産が主導したが

 日産は2020年3月期に6712億円の最終赤字を計上した。長年CEO(最高経営責任者)を務めたカルロス・ゴーンの拡大戦略のつまずきで、工場の閉鎖など構造改革を迫られたのが主な理由だ。

 新型コロナの蔓延が始まった「中国」の業績はこの連結決算には2019年12月までしか含まれておらず、巨額赤字は新型コロナが主因ではない。

 もちろん、4月以降は大打撃を被っているが、それはトヨタ自動車やホンダなどその他の自動車会社も状況は同じだ。にもかかわらず、なぜ日産だけを、真っ先に支える決断をしたのか。

 どの企業にどれぐらい融資するかは、当然、金融機関が判断することだ。企業内容に問題はないか、再建計画は信頼に足るか、返済能力はあるか。金融機関が独自の審査を行うことで融資の可否を決める。

 その際、リスクが大きいと判断すれば、政府保証の枠組みなどを利用するというのが順番だ。今回も、政投銀やみずほがリスクを審査し、政府保証を依頼した、というのが建前だろう。

 だが、取材してみると、話は大きく異なる。政投銀には所管の財務省、貿易保険には所管の経済産業省から、日産への融資に保証を付けるよう指示があったという。

 ただ、本省の担当者も、特定の企業に政府側から保証を付けることを決めるのは問題があると考えたのだろう。制度自体の利用を促す一方で想定される対象企業のリストを示し、「あくまでも例です」と伝えたという。

 そこは以心伝心。政投銀にも貿易保険にも幹部に役所のOBが天下っているから、日産が焦点であることは自明だった。

パイプ役の存在

 では、経産省が日産を支えることを決め、財務省にも働きかけた、ということなのだろうか。ゴーン時代、経産省は日産に対して冷淡だった。「あの会社は日本の会社じゃない」と言う幹部もいた。

 それが一変したのが、日産株の43%を保有する仏ルノー が、日産の支配を目論んでいる事が明らかになってきたゴーン末期から。政治家も巻き込んで日産をルノーから守る、という姿勢になった。

 もっとも、現在の日産は政官界とのパイプが太いとは言えない。2019年にCEOを退任した西川廣人氏や、同じく副社長を退いた川口均氏がもっぱらパイプ役を務めていたため、2人が日産から去った今となっては政府に頼みに行くルートが切れている。

 日産の現経営陣が政府とのパイプとして期待するのは、取締役で、「筆頭独立社外取締役」「指名委員会委員長」の肩書を持つ豊田正和氏。

 豊田氏は1973年通商産業省(現経産省)入賞でナンバー2の経済産業審議官にまで上り詰めた人物。日本エネルギー経済研究所の理事長を務めながら、ルノーの圧力が強まっていた2018年6月に日産に社外取締役として送り込まれた。

 豊田氏が動けば、株式会社化しているとはいえ経産省の完全支配下にある貿易保険に現役官僚を使って保証を付けさせることくらい簡単にできる。

 もちろん、役所にモノを頼む以上、タダでは済まない。退官する経産官僚に天下りポストを用意することになる。かつて日産は経産省にとって格好の天下り先だったが、ゴーン時代に途絶えて久しかった。日産の苦境に救いの手を差し伸べる代わりに再び天下り先として急速に存在感を増している。

どう考えても政治の判断

 貿易保険はそれで分かるが、財務省管轄の政投銀を動かすことまで、経産省の力でできるかである。日産に保証を付けることについて、官邸や政治家が動いたのではないか。誰しもがそう考える。

 西川氏や川口氏がもっとも頼りにしていた政治家は、官房長官だった菅義偉氏だ。折しも9月16日に首相に選出されたが、横浜市に本社を置く日産にとって、横浜市議も務めた菅氏は地元選出の大物議員ということになる。

 ルノーからの攻勢にさらされた日産をどう守るかが議題になった際には経産大臣(当時)だった世耕弘成・参院議員だけでなく、官房長官の菅氏に報告が上がり、差配を受けていたと見られている。

 日産への政府保証について官房長官として菅氏が関与していたかどうかはまったく分からない。だが、国会論戦が始まれば、野党の追及を受けることは必至だろう。

 焦点は、日産に真っ先に政府保証を付けた「大義」があり、その決定プロセスにやましい点がないかどうかだ。「独立した金融機関が独自に判断したものと理解している」という模範答弁はすぐにボロがでる。政投銀や貿易保険を取材すれば本省の指示が明らかになるからだ。

 では、政府部内で「日産を救済する」かどうか、きちんと議論されたのか。政権発足早々、菅新総理は説明責任を問われることになりそうだ。

過去最悪の赤字で「日産ショックがやってくる…のか?

現代ビジネス 2020年8月24日(月)7時31分配信

 日産自動車や三菱自動車が大幅赤字を計上するなど、主力企業の4~6月期決算では製造業へのダメージが浮き彫りになってきた。よもやの「日産ショック」まで語られる中にあって、もし日産に万が一のことがあった場合には、金融システム不安が懸念されるような銀行への影響はどうなるのか――。

 今回、新作小説『よこどり 小説メガバンク人事抗争』で銀行の在りようや、銀行員の生き方を斬新な切り口で描き出した作家の小野一起氏と、メガバンクの現役幹部と元日銀幹部らが緊急会談。コロナ禍における日本企業と銀行の最前線についてリアルに語り尽くした。

日産が4700億円赤字の衝撃度…!

 小野 主要企業の2020年4~6月期決算が出てきました。ANAやJALの大幅赤字は、国際線がほぼストップしていたので想定内でしたが、日産が2021年3月期決算の見通しを過去最悪の4700億円の赤字としたのは、ぎょっとしました。

 コロナショックで消費者の財布の紐が強く締まり、グローバルに自動車という主力商品の需要の落ち込みにつながった。コロナショックは外食や観光等の目に見えていたサービス業への打撃から、自動車などの耐久消費財の売上にも本格的に影響を与え始めたともいえるでしょう。有価証券報告書によると、日産は今年4月以降に、8000億円以上の資金調達をして、財務の守りを固めている状況です。

 メガバンク部長A(50歳代) 日産の場合は、自動車需要の落ち込みの問題だけでなく、日産の経営問題でもあります。4~6月期でみても、主力の米市場での販売の落ち込みは3割程度。それに比べて日産は半分に落ち込んでいますからね。そもそも、魅力的な車を市場に投入できていません。トヨタが発表した4~6月期決算は純利益が前年同期比74%と大幅な減少になったものの、1588億円の黒字を確保しました。世界の主力自動車メーカーが軒並み赤字に転じる中で、黒字を確保したことで、日産との地力の差がますます鮮明になりました。

 北米の自動車販売マーケットが急減速する中で、トヨタは中国での販売増とコストカットで黒字を確保しました。コストカットの背景には、トヨタの購買力のパワーも見逃せません。例えば、日本製鉄など鉄鋼業は大幅赤字になりました。自動車の原材料となる鉄の値下げを飲ませるパワーがトヨタにはあるという見方もできます。

もし負のスパイラルが起きたら

 小野 日産の場合は、そもそもガバナンスの歪みがあります。大株主のルノーと日産が共に上場しているという親子上場問題。これは、大株主のルノーの利益が優先されて、その他の日産の少数株主が損をする構図に陥りがちです。しかも、ルノーの大株主には、フランス政府がいます。

 日産のインド工場計画が白紙になり、フランスのルノー工場で日産車を生産することになった背景には、フランスの国内雇用を維持したい仏政府の意向が強く働いたとの見方が強いですからね。日産の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は、誰のために仕事をするのか分かりません。大株主のルノーなのか、日産の少数株主なのか、それともフランス政府なのか……。そもそも、この株主構成の歪みを解消しないと日産の未来はないでしょう。

 日産の場合は、コロナショックの直撃を受けて、そもそもの競争力の弱さが露呈したという構図でしょう。コロナショックをきっかけに、弱い企業が退出する産業の新陳代謝が加速する可能性はあると思います。

 これは、いずれ起こっていたことが、コロナショックのせいで早く起こるだけとも言えるかもしれません。心配なのは、そのプロセスが想定以上のスピードで起こって、銀行の不良債権が急拡大、金融不安が起き、実体経済がさらに落ち込む負のスパイラルに陥ることです。

 元日銀幹部B(50代) コロナショックによる不良債権の拡大という観点でみると、JPモルガン・チェースなど米の主要6行の4~6月期決算で、融資が焦げ付いた場合に備える貸倒引当金が前年同期比で7倍に膨らみました。これはリーマンショック級です。

銀行の

 元日銀幹部B(50代) 日本の3メガバンクの2020年3月期決算の段階では2倍でしたから、米銀のほうがコロナショックによる企業倒産による融資の焦げ付きのリスクをより厳しく見積もっているといえるでしょう。

 ただ、米銀の中でも違いが出たのは、商業銀行業務中心のウエルズ・ファーゴやバンク・オブ・アメリカが赤字になったのに対して、投資銀行業務を主力とするゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーは最終利益で黒字を確保している点です。

 コロナショックで、多くのグローバル企業はコロナショックに備えて手元の資金を確保するために、社債などでマーケットから資金調達しています。その際に、幹事を引き受けるのは世界的に有力な投資銀行であるゴールドマンやモルガンです。やはり、米の投資銀行は強い。日本の金融機関は国際的な投資銀行業務では太刀打ちできません。

 小野 ただ、こうした企業業績の悪化がリアルに伝わっても、株式市場は底堅いです。日経平均株価(225種)でいえば2万円を上回る手堅い水準で推移しています。世界中の中央銀行が、大胆な資金供給に踏み込み、政府が財政出動の大盤振る舞いを実施している効果は、凄まじいですね。 

 近く、日本の大型株が下落することを見込んで、空売りを仕掛けていた個人が、損失覚悟で、買い戻しを迫られる動きも話題になっています。

 メガバンク企画担当C(40代) プロの機関投資家の中には、面白い指摘をしている人もいます。新型コロナのワクチンが現実に開発されたタイミングが「コロナ相場の天井」という見立てです。

官製相場が崩れるタイミング

 メガバンク企画担当C(40代) いまの相場は、中央銀行の金融緩和と各国政府の財政出動という2本柱に加えて、早々にワクチンが開発され、コロナ問題は収束するという見立てが支えています。ただ、ワクチンの開発が見立てではなく事実になった時には金融緩和と財政出動が打ち止めになり、「官製相場」が崩れるというシナリオです。ウォール街の有名な相場の格言「Buy the rumor,sell the fact」(噂で買って、事実で売る)の典型ですね。

 もちろん、多くの機関投資家もリスクヘッジはしています。相場の下落に備えて、オプション取引を増やして下落への保険をしっかり掛けているのも、今回の「コロナ相場」の特徴と言えるでしょう。

 元日銀幹部B 世界の成長率の面では、コロナショックからV字回復するという見方をしている人は減っていると思います。現在の急落から底を打っても、ゆっくりと回復するとの見方が増えています。ナイキのマークみたいな動きです。それを踏まえると、ワクチンや特効薬が現実に開発されても、すぐに景気が回復するわけではない。なので、金融緩和と財政出動は当面続けるほかないと思いますし、そうしてもらわないと困ります。

 そう考えると、ワクチン開発後も官製相場は、当分、続くのかも知れません。

 小野 あと、気になるのは11月に控えた米大統領選ですね。民主党のバイデン氏が有利との観測が広がっています。一方の共和党のトランプ大統領は、選挙の延期を言い出すなど精彩を欠いています。大統領選だけでなく、同時に実施される上院、下院でも民主党が過半数を取得する「完勝」を予測する声すら出始めています。

 バイデン氏は、ハリス上院議員を副大統領候補に指名。人権意識の高まりを受けて黒人女性を起用したことが注目されています。こうした話題もバイデン勝利を前提に盛り上がっているわけです。バイデン氏は、米製品の購入や技術開発の研究費などに日本円で75兆円を投入して、コロナショックに対応する計画を発表しました。

 財政出動の大盤振る舞いは、大きな政府を掲げる民主党の考え方との相性が良く、大胆な財政出動を打ち出している印象で、安心感がありますね。

恐怖指数を見ると

 メガバンク部長A バイデン氏は、環境対策を重視し、法人税の増税も主張しているので、企業に厳しい面もあるでしょう。実際に大統領に就任すれば、金融規制の強化など銀行に厳しい政策を打ち出すリスクも感じています。恐怖指数(VIX指数)をみると、多くの投資家が、大統領選前に株式市場の下落のリスクを感じていることが分かります。

 トランプ大統領と株式相場という意味では、中国との関係に亀裂を入れた貿易戦争でも、核問題をめぐる北朝鮮との交渉でも、トランプ大統領は「やるやる詐欺」なんですよ。派手な言動で注目を集めても、良くも悪くも、さほど大胆な手は打ちません。なので、トランプ大統領の注目発言で株式相場が下げた局面は、プロの機関投資家からすれば、絶好の買い局面になっていたのです。

 ただ、こうしたトランプ大統領の実態は、もはや周知の事実になったので、相場も大きく動かなくなってしまいました(苦笑)。

 小野 ただ選挙は、やってみないとわかりません。しかも、大統領選絡みで世界を混乱させるような材料が飛び出す可能性すらあります。前回も、民主党のヒラリー・クリントンの勝利をみなが予測していたのに、トランプ氏が勝利しました。大統領選の行方が経済や金融にどのような影響をもたらすのか、しっかり見極める必要がありますね。

 カルロス・ゴーンレバノンは日本の良い」優雅な逃亡生活 

文春オンライン 2020年9月21日(月)6時01分配信

 日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(66)の元側近で、金融商品取引法違反罪に問われた同社元代表取締役、グレッグ・ケリー被告(64)。その初公判が同被告の誕生日でもある9月15日、東京地裁で開かれた。検察側は2人が共謀し、ゴーン被告の報酬総額を有価証券報告書に約91億円少なく記載したと主張。これに対し、ケリー被告は「共謀に関与していない」と無罪を主張した。

「ゴーン被告が昨年末、レバノンに逃亡したため、主役不在で争われる異例の裁判となります。公判は今後、隔週で週4回という頻度で開かれる予定。年内の証人尋問は司法取引を行った元秘書室長で占められ、来年2月には西川廣人前社長らも出廷する方向です。ケリー被告はゴーン被告の逃亡について『法廷で証言して欲しかった』と口にしていました」(社会部デスク)

 そのゴーン被告はレバノンへの逃亡後、高級リゾート地でスキーを満喫するなど悠々自適の生活を送ってきた。最近も知人らと会食を重ね、関西空港からの“脱出劇”を得意げに語っていたという。7月には海外メディアのインタビューで「レバノンは日本の1000倍良い」と言い放っていた。

「8月4日に首都・ベイルートの港で大爆発事故が発生しましたが、ゴーン被告の邸宅は港から数キロ離れた住宅街にあり、窓ガラスが割れる程度の被害で済んだようです。事故の瞬間も山あいの別荘地に居たそうで、難を逃れました」(現地ジャーナリスト)

前妻がフェイスブックで綴った悲痛な心境

 ゴーン被告の“逃亡生活”を支えるのが、妻のキャロル容疑者だ。事件関係者と多数回やり取りしていたにもかかわらず、証人尋問で「知らない」と偽証した疑いで国際手配されている。

「キャロル夫人は偽証容疑について『冗談のようだ』と語っていました。ゴーン被告は知人との宴席で『新たな人生を送れるのはキャロルのおかげ』などとのろけているようです」(同前)

 だが、ゴーン被告が“新たな人生”を謳歌する陰で、多大な恐怖を抱いている女性がいる。「週刊文春」(18年5月24日号)でDV被害を告発した前妻・リタさん。彼女の生活拠点の一つもレバノンだ。リタさんは4月下旬、フェイスブックで悲痛な心境を綴っている。

〈彼が逃亡者になってから、私は自分がレバノンには戻れないことに気が付いた。なぜならレバノンの大統領が彼を守ろうとしていた〉

〈彼は私を殺すと脅した。私が死んだら、彼のイリーガルな結婚(註:リタさんはブラジルやレバノンでは離婚が成立していないと主張)は合法的になる。私は絶望し、これ以上戦う意志を失った。誰も私を守ってくれない〉

“逃亡者”を守ってくれるレバノンの地で、ゴーン被告は「公判が楽しみだ」などと嘯いているという。

 

2020年8月10日 (月)

【レバノン爆発事故】“危険放置”の政府に怒り✍連日「反政府デモ」

 レバノン爆発 被害視察の閣僚ら罵声浴びされる 

AFPBB NEWS 2020年8月8日(土)20時59分配信

レバノンの首都ベイルートで発生した大爆発を受け、荒廃した地区を訪問しようとした閣僚2人が、現場でがれきを撤去するボランティアたちの怒りを買い、追い出される出来事があった。

 同国の多くの国民は以前から、汚職が横行し行政能力に欠けるとして政府に対し非難の声を上げていたが、4日に起きた爆発の衝撃によって怒りの矛先が政治階級に向けられている。

 そうした中、タレク・マジュズーブ(Tarek Majzoub)教育・高等教育相は7日、こうした認識を変えようと、廃虚と化したカランティーナ(Karantina)地区をほうきを手に訪問し、ガラスの破片などのがれきを掃き出していた人々の中に加わろうとした。

 だが「辞めろ!」「国民は体制の崩壊を望んでいる」「絞首台を用意しろ!」など、罵詈(ばり)雑言を浴びることになった。

 爆発の正確な原因は今も不明のままだが、市民を守ることができず、救済の対応も不十分だとして、一般の人々は堅固な政治階級を非難している。

 当局は、港湾地区の倉庫に長年放置されていた大量の硝酸アンモニウムの積み荷が何らかの理由で発火し、大爆発を招いたと説明している。

 6日には、港からわずか数百メートルの距離に位置し、大きな被害を受けたジュマイゼ(Gemmayzeh)地区で、マリークロード・ナジム(Marie-Claude Najm)法相が視察しようとしたものの、清掃作業に当たるボランティアの若者たちから「汚職相だ、法相ではない!」とチャント。

 ある女性は怒りで顔をゆがめながら、「少しでもが徳義あれば辞めるはずだ」と叫んだ。

 マジュズーブ氏とナジム氏は、今年1月に発足した新内閣で政権に加わり、政界ではまだ新入りだが、国民の怒りを免れることはできていない。

レバノン経済、ベイルート爆発でさらに悪化 今年25%縮小も

ロイター 2020年8月10日(月)10時36分配信

 エコノミストらは、既に落ち込んでいたレバノン経済が今年、首都ベイルートで起きた大規模爆発を受け、予想の2倍ペースで縮小する可能性があるとの見通しを示した。同国が立ち直るために必要な資金を確保することが、一段と困難になるとしている。  

エコノミストらは、ベイルートの大部分に被害が及んだ4日の爆発によって、レバノンの国内総生産(GDP)が今年、約20-25%縮小する公算が大きいと予想した。国際通貨基金(IMF)は直近で、同国経済成長率がマイナス12%になると予測していた。  

今回の爆発で150人以上が死亡、数千人が負傷し、数万人が家を失った。レバノン政府は爆発による損失が数十億ドルに達すると推計している。  

レバノン政府は5月、外貨建て債券のデフォルト(債務不履行)に陥ったことを受け、IMFと金融支援に関する協議を開始していた。ただ、改革が行われないことで、交渉は暗礁に乗り上げていた。  

フランスのマクロン大統領は6日、ベイルートの大規模爆発の現場を訪れ、「改革が行われなければ、レバノンは沈み続ける」と警告した。

レバノン反政府デモ、外務省など一時占拠 700人負傷

朝日新聞デジタル 2020年8月9日(日)20時50分配信

 爆薬の原料に使われる硝酸アンモニウムの大爆発で158人が死亡した中東レバノンの首都ベイルートで8日夕、政府の無策に抗議する数千人規模のデモ隊が治安部隊と衝突し、1人が死亡、700人以上が負傷する騒乱状態になった。デモ隊は外務省など複数の政府庁舎を一時占拠。国家統治を揺るがす事態に発展した。

 地元メディアによると、デモは「報復の土曜日」と名付けてSNSを通じて呼びかけられ、国会近くの「殉教者広場」で始まった。爆発現場から約1・5キロの距離にあり、周辺の壊れた建物や散乱したがれきが手つかずなままだ。

 デモ隊の一部は、国会や政府庁舎に侵入を試み、遮ろうとする治安部隊がゴム弾や催涙弾を発砲。デモ隊は投石や放火で応酬した。死亡が確認されたのは警察官で、デモ隊に追いかけられ、転落死したという。負傷者は少なくとも728人に上った。爆発による負傷者約6千人をすでに抱えていた医療体制はパンク状態で、治療がどこまで行われているか不透明だ。

 午後7時ごろには、退役軍人らが率いるデモ隊の一部が外務省に入り込んで占拠。「革命の本拠地にする」と宣言し、「体制を引きずり下ろせ」と叫んだ。経済省や環境省、エネルギー省、銀行協会本部にもデモ隊が押し入り、一部の建物に放火した。その後、重武装の軍部隊が出動し、約3時間後に強制排除した。

 レバノン大爆発で、ゴーン被告の豪邸は粉々で、今やホームレス 

日刊ゲンダイDIGITAL 2020年8月9日(日)9時26分配信/宮田律(現代イスラム研究センター理事長)

 8月4日のレバノン・ベイルート港の化学物質の大爆発で、日産自動車元会長カルロス・ゴーン被告(66)の妻キャロル容疑者(偽証容疑で逮捕状)がブラジル紙に自宅が損害を受けたと翌日語ったが、6日、フランスの各紙は、自宅が完全に破壊されたと報じた。レバノンの情報筋によれば、ゴーン被告は首都ベイルートから避難し、郊外に身を寄せているという。逃亡後、豪邸で優雅に暮らしていたゴーン被告は、いわばホームレス状態に陥ってしまった。

 大爆発は、通貨危機や新型コロナウイルスによって混迷を深めてきたレバノン社会をさらに混乱させるだろう。今回の爆発事故はレバノン政府の化学物質の管理の怠慢で起きたため、腐敗や無能で反発されてきた政府に対する信頼がいっそう低下したことは否めない。レバノン社会が混沌とする中で、高級住宅での生活という特権を失ったゴーン被告は心許ない生活を余儀なくされることだろう。

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仏紙はゴーン被告を“ホームレスの一人”と形容

 あるフランス紙は、ゴーン被告は今回の事故で家を失った30万人のホームレスの1人と形容している。爆発事故で政府が運営する小麦の倉庫も大損害を受け、レバノンの食料を輸入する能力も著しく低下した。ゴーン被告の食卓も寂しいものになる可能性が高い。レバノンでは、150万人のシリア難民と27万人のパレスチナ難民も居住するが、難民の存在もレバノンの食料事情を逼迫させていくだろう。新型コロナウイルスで手一杯の医療現場は、事故の負傷者たちでさらに膨らむことになり、ゴーン被告は十分な医療サービスも受けられない環境にいる。

 レバノンでは対外債務が膨らんだために、現地通貨は昨年10月以来、その価値を80%下げた。レバノン経済は食料を含めて輸入に頼り、債務によって輸入経済を支えてきた。輸入経済に依存することは、レバノンの資本が海外に流れ、現地通貨が価値を下げることになる。

 海外在住のレバノン人企業家たちは、レバノンの銀行にドルで預金し、また湾岸のアラブ諸国も財政支援を行ってレバノン経済を支えてきた。しかし、腐敗など政府の失政や、政府の経済改革への取り組みが消極的なこともあって、海外在住の企業家たちがレバノンの銀行へのドル預金に熱心でなくなり、また欧米諸国の支援も滞っていった。

 こうしてレバノンでは外貨準備が不足し、対外債務が世界最悪とも言える状態になった。銀行は預金者がドルで引き出せる額を制限したために、現地通貨で暮らす人々の生活をいっそう圧迫し、インフレはうなぎ上りとなったが、さらに政府は歳入不足を補うために、タバコやガソリン、さらにはワッツアップのようなSNS通話にも課金しようとしたことが昨年の10月以来連日繰り広げられるデモとなっていった。

 レバノンは18の宗派によって構成される宗派のモザイク社会だが、1975年から90年まで続いた内戦を終らせるために、各宗派の代表的なファミリーに権力や利権が分配され、それが政治腐敗の要因となった。イランやサウジアラビアなど外部からの支援もこうした特権層を潤わせ、それも貧しい階層の怒りや反発の背景となっている。

 爆発事故によって、政府への幻滅はいっそう深まり、政府を見捨てて海外在住のレバノン人を頼るなどの手段で大規模な国外移住が予想されるようになった。海外在住の離散(ディアスポラ)レバノン人は本国の人口(約684万人:2018年)のおよそ3倍いると見積られているが、国際指名手配を受けているゴーン被告は逮捕の恐れがあるために、この選択肢はない。

再逃亡は極めて困難でレバノンにとどまれば過酷な生活

 レバノンが無秩序や、さらに紛争状態になった場合、ゴーン被告のとりあえずの逃亡先は陸続きのトルコ、シリア、イスラエルの3国ぐらいしか考えられない。しかし、イスラエルとレバノンは戦争状態にあり、シリアは戦乱の渦中にあり、またISやアルカイダのような暴力的集団がどのようにゴーン被告を迎えるか定かではない。ゴーン被告はクリスチャンで、イスラムに訴える過激な集団から見れば異教徒で、日本で不正を働いたゴーン被告は腐敗のシンボルとも言え、彼らが最も嫌い、否定すべき対象である。さらにトルコはゴーン被告の逃亡を幇助したとして7人を逮捕した国で、ゴーン被告をかくまうことはありえない。

 レバノンに残れば、混迷が続く政治社会の中で快適な生活は送れそうにもない。今年終わりまでに1日4ドル以下で暮らす貧困層が50%に膨らむと予想されているが、ゴーン被告のような不正を働いた特権階層は、彼らにとって憎悪の対象となり、危害が加えられることも否定できない。日本の司法制度から逃亡したゴーン被告は、レバノンで行き詰まったどっちらけ状態になっている。

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 レバノン大爆発逃亡したゴーン被告に迫る深刻な危機 

日刊ゲンダイDIGITAL 2020年8月7日(金)11時33分配信/宮田律(現代イスラム研究センター理事長)

 8月4日、レバノン・ベイルートの港湾地区で発生した大爆発は、100人以上が死亡し、4000人以上が負傷した。ベイルート中の建物のガラス窓が壊れ、その振動は260キロ余り離れたキプロス島にまで達したという。レバノンのアウン大統領は、2750トンもの硝酸アンモニウムが十分な安全措置が施されないまま爆発したと述べた。

 さて、ここで気になるのは、日本から逃亡している日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(66)だ。自宅が被害を受けたと被告の妻キャロル容疑者(偽証容疑で逮捕状が出ている)がブラジル紙に語っている。ゴーン被告の自宅は、ベイルートの高級住宅街アシュラフィーヤ地区にあるが、爆発の現場から1~2キロ離れたところにある。日本よりも安全だと思って逃げ込んだ場所に、とんだ大災難が待ち構えていたというわけだ。

 先日、筆者が日刊ゲンダイDIGITAL「レバノンがゴーンを引き渡す日…経済危機とコロナで混迷」(7月25日配信)で書いた通り、レバノン社会は深い混迷の中にあり、急速に秩序を失っている。レバノンのハッサン・ディアブ首相は責任者を追究し、相応の罰を与えると述べたが、政治、社会、あるいは経済の深い混乱の中にある現在のレバノンを象徴するかのように今回の大事故は発生した。

ゴーン被告が暮らす高級住宅街は“表参道”のような場所

 ゴーン被告が住むアシュラフィーヤ地区は、閑静な丘の上にある住宅・商業地区で、街路樹が整然と立ち並び、オスマン帝国やフランス様式の高級住宅も少なくない。ABCモールなど大規模な商業施設とともに、ブランドものの高級衣料品も売るブティックも数多くある。東京で言えば、表参道のようなところだ。

 しかしこのアシュラフィーヤ地区は、1975年から90年のレバノン内戦時代はキリスト教マロン派の民兵組織の拠点であり、シリア軍の砲撃があったり、自動車爆弾が炸裂したりするなど激戦の舞台となり、多くの家屋が破壊された。現存する建物は内戦終結後に再建されたものが多い。レバノンは18の宗派が混在するモザイク社会で、宗派対立が今回の大爆発が引き金になって再燃することも否定できない。30年間微妙なバランスを保ってきたレレバノンの宗派社会も、昨年來からの混乱で崩れる可能性を秘めている。レバノンで再び宗派対立が激しくなれば、ゴーン被告が住むアシュラフィーヤ地区は混乱や紛争の舞台になりかねない。

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ゴーン被告も“腐敗した富裕層”の一人

 現在、レバノンの子どもたちは飢餓に苦しんでいる。子ども支援の国際組織の「セーブ・ザ・チルドレン」によれば、子ども56万4000人を含む91万人が食料も含む十分な基本物資が買えない状態にある。また、「セーブ・ザ・チルドレン」によれば、食事とアパート賃料は昨年からの1年間で169%上がり、インフレによって国民の購買力は85%も落ち込んだ。

 レバノンの多くの国民は救いようがないほどの経済的困難に陥っているが、社会・経済問題は政府の腐敗と無能、ネポティズムによるものと国民には広く考えられている。レバノンでも新型コロナウイルスの感染が深刻で、政府の発表では感染者は5000人余り、死者は65人ぐらいだが、この数字を信じている国民は少ない。ウイルスを深刻に受け止める政府は再度のロックダウンの措置をとろうとしている。コロナウイルスも経済の悪化に拍車をかけ、レバノンでは若年層の失業率は60%以上とも見られ、50%のレバノン国民が十分な食事をとれていないと感じている。

 レバノンの政治社会は内的な爆発寸前の状態で、貧困層の不満や怒りが私服を肥やしてきた富裕層に向かっていく可能性がある。昨年10月から広範に発生している反政府デモは、不正に蓄財してきた政治家や企業家たちへの怒りとなり、既成の政治を変えることがスローガンとなっている。ゴーン被告は決して安全ではない、不安定で、危険な国に逃亡した。彼もまた貧困に直面している多くの国民から見れば腐敗した富裕層の一人だ。

 ベイルート南部は、シーア派の政治・軍事組織ヒズボラの拠点だが、経済的には貧困層がひしめき合って暮らしている。イラン革命がテヘラン南部の貧困層の怒りが爆発して成立し、テヘラン北部の高級住宅街に住んでいた少数の富裕層は国外逃亡を余儀なくされた。レバノンも似たような過程を歩んでいるように見えるが、国際的に指名手配されているゴーン被告には国外逃亡という選択肢はない。レバノンの大きな政治変動は彼の境遇をいっそう危うくするだろう。

 爆発起きたレバノン手が付けられない惨状 

東洋経済オンライン 2020年8月8日(土)5時25分配信/池滝和秀(中東料理研究家)

 内戦での市街戦や自動車爆弾テロによる要人暗殺、イスラエルによる空爆に見舞われてきたレバノン国民も、首都ベイルートの港で8月4日起きた大規模な爆発には度肝を抜かれたはずだ。

 港の倉庫で発生した火災が、近くで保管されていた硝酸アンモニウム約2750トンの爆発を引き起こしたこの事件。そもそも、爆発物にも化学肥料にもなる大量の危険物質が人口密集地と接する重要インフラの港に放置されてきた政府の怠慢に、レバノン市民の怒りは頂点に達している。

1975年~90年の内戦よりひどい状況

 レバノンでは昨年10月以降、政治腐敗や経済失政への不満から反政府デモが続いており、今年3月には償還期限を迎えた外貨建て国債の支払いができずに初めてデフォルト(債務不履行)に。政府の債務は3月にはGDP比約170%に達しており、通貨レバノン・ポンドは大幅下落。金融機関は外貨引き出しを制限するなど、国民は日々の食事にも苦労する困窮状態に陥っている。

 さらに、新型コロナウイルスの影響も加わり、失業率は高止まり。停電が長時間に及ぶなど、「1975~90年の内戦時よりも状況はひどい」との声も漏れてくる。

 爆発の衝撃は、ベイルートの広範囲に及び、最大30万人が家を追われ、日本円に換算して3000億円を超す被害が出たもようだ。今後の焦点や市民の関心は、事件のきっかけをつくった人物が司法の裁きを受けるかどうか。

 だが、政府主導の調査では、有力政治家の責任を問うのは困難と言える。レバノンでは18の宗派が権力を分け合い、宗派の政治指導者が利権や利益を宗派内に配分する利益誘導型政治が続いており、国民的な視点の欠如は目に余る。今回もこうした政治体質によって国民の安全がないがしろにされた形で、問題の根深さが浮かび上がる。

 レバノンでの爆発と聞けば、テロの可能性も疑われるが、現時点ではその可能性は低いと言えそうだ。7月には、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラとイスラエルの衝突が相次ぎ、イスラエルの攻撃により、シリアの首都ダマスカス近郊でヒズボラ戦闘員が死亡。月末にはヒズボラ戦闘員がイスラエル領内に侵入し、イスラエル軍が撃退している。

 こうした中での大規模爆発だが、イスラエル軍は関与を否定。大勢の無実の市民を巻き込んでいることからも、ピンポイントで標的を狙うイスラエルの手口とは異なる。

 いずれにしても、首都にTNT火薬数百トン相当の爆発物を放置していた怠慢が爆発の原因であり、レバノンの失政ぶりを象徴している。そもそも、こんな危険物がなぜ、放置されることになったのか。ことは2013年9月までさかのぼる。

 ロシアの船会社が所有していたモルドバ船籍の貨物船がトラブルでベイルートの港に寄港し、手続き上の問題が重なり、積荷の硝酸アンモニウム約2750トンがレバノン税関によって押収された。船主は、船の所有権を放棄し、この積荷も行き場を失った。

 ツイッターに投稿された画像によると、硝酸アンモニウム約2750トンはがら袋に入られて積み上げられ、安全に管理されていたとは言い難い。危険性は、港湾当局や税関当局も認識しており、税関トップから司法当局に5~6回の対応を促す書簡が送られたとされるが、対処されなかった。書簡では、海外輸出やレバノン軍への供与、ダイナマイトを扱う民間会社への売却が提案されていたという。

早くも責任のなすり合い

 ディアブ首相は、司法相や内相、防衛相、軍など4つの治安部門トップによる調査委員会を設置し、数日中に内閣に調査結果を報告するよう命じた。ただ、中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、早くも責任のなすり合いが始まっている。

 港湾当局を所管するナッジャール公共事業・運輸相は、危険物の存在は爆発の11日前に知ったと主張し、「倉庫やコンテナに何が入っているのか知っている大臣は存在しない。それを知ることはわたしの職務ではない」と言い切った。

 公共事業・運輸省は、司法当局に対応を求める書簡を何度も送ったといい、ナッジャール氏は「司法当局は何も対応しなかった。職務怠慢だ」と主張。これに対し、司法関係者は「主要な法的責任は港を監督している港湾当局やそれを管轄する公共事業・運輸省のほか、税関当局にある」と反論する。

 このように責任の押し付け合いが熱を帯びているほか、前述したように、レバノンは宗派による権力配分型政治が続いており、特定の人物や勢力を批判したり、やり玉に上げたりすると、宗派間対立を招いてしまうことから責任追及はあいまいになりがちだ。

 レバノンが金融危機に見舞われているのも、政治腐敗による組織的な経済失政の色合いが濃い。政治家や財界重鎮が金融機関を牛耳るレバノンの金融システムは、金融機関が国家に貸し付けて得た利子で、政治家や有力一族ら大口顧客に法外な利息を提供するなど「巨大なポンジ・スキーム」と揶揄されている。

 詐欺師チャールズ・ポンジの名に由来するこのスキームとは、実際には資金を運用せずに自転車操業的に行う詐欺行為の一種。レバノンでは、最終的に国家が債務を返済できずに国民がツケを支払わされている。

 経済失政を招いた政治腐敗は、今回指摘されるような政府や行政の機能不全の原因ともなる。政治家や省庁の人材登用は、能力よりも宗派や派閥を重視する縁故採用や情実人事という、レバノン政治の上から末端まで浸透する政治体質に基づいて行われているとの不満が多い。だから、政府や行政の仕事は、国民の利益や安全が軽視され、宗派や派閥、個人の利益や利害が優先されがち。

 政府組織の中でも、ベイルートの港や税関は、違法な武器も含めて非合法的に動くことがあり、「多くの派閥やヒズボラ系を含めた政治家らが支配する、レバノンの中でも最も腐敗した、うまみのある組織の1つとして知られている」(レバノン紙アンナハール)。

 民営化や資金調達の一貫として、港の管理権を海外の企業に売却する可能性も浮上していたとされるが、今回の事件で改革に向けた海外からの投資はますます停滞しそうだ。

 政治家や派閥は、港など国のインフラや設備、組織を、利益を吸い上げるために利用するうえ、インフラの劣化も激しい。電力供給や安全性の高い水道の維持などの公的なサービスもままならず、国民は発電機を買うといった自衛策で猛暑を乗り切るしかない。独占的な通信事業によって携帯電話代は高く、利益は有力一族や財界重鎮に吸い上げられる。

 政治腐敗に反発したデモでハリリ首相が昨年10月に辞任したものの、その後も改革が進む気配はない。経済危機打開へ国際通貨基金(IMF)に支援を仰いでいるものの、国際支援を受けるための改革は進まず、爆発が起きた前日の3日には、政治家同士の足の引っ張り合いに辟易したとして、ヒッティ外相が辞任している。

コロナ禍で海外移住の道も閉ざされる

 レバノンの政治腐敗は構造的な問題があり、一朝一夕には解決しない。このため、最近のデモでは、銀行が襲撃されるなどデモ隊が暴徒化する様相も呈している。

 レバノン政治に詳しい専門家は「レバノン政治は構造的問題を抱えており、政治腐敗や宗派のボスを批判しても問題は解決しない。実際にデモ隊が求めるものを実行するにしても、どこから行っていいか分からない状況だ。銀行襲撃に走るなど明確な批判の対象が見えなくなっている」と分析する。

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 レバノン人たちは歴史的に、困難に直面した時には海外に活路を見出してきた。日本から逃亡したカルロス・ゴーン被告の先祖も、こうした経緯でブラジルに渡っている。レバノンでは海外に移民した国民が自国に住む国民の数よりも多いが、新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限や世界的な景気後退により、移住という選択肢も今は取りづらい。

 こうした中でも、レバノン国民は、爆発によって家を追われた人々に空き家や別荘、空き部屋を提供するなど、政府に頼れないために宗派を越えた結束力を見せている。ある市民は「今回の事件の背後に政治腐敗や怠慢があるのは明らか。まずは調査結果を見守りたい」と冷静を努める。ただ、レバノンの政治構造や体質は容易に変わらないとの見方が強い。レバノンの危機は、ますます深刻化することになりそうだ。

日本政府 レバノンに、テントなどの生活物資を提供へ

毎日新聞 2020年8月7日(金)19時44分配信

 政府は7日、レバノンの首都ベイルートで起きた大規模爆発を受け、テントなどの緊急援助物資をレバノン側に提供することを決めた。

 国際協力機構(JICA)に備蓄していたテント400組、毛布・敷きパッド各1800枚を送る。外務省によると、6日時点でベイルート市内の約30万人が家を失ったという。

 安倍晋三首相は5日、レバノンのディアブ首相に対し、「亡くなった方々への心からの弔意と負傷者へのお見舞いを申し上げ、一日も早い復旧を祈る」とのメッセージを外交ルートで伝えた。

 レバノン内閣総辞職 爆発で引責 

Bloomberg 2020年8月11日(火)1時54分配信

 レバノンの内閣は総辞職した。平時としては建国以来最大の惨事が発生したことに市民の怒りが爆発、政府に責任をとるよう求めていた。

 内閣総辞職はハサン保健相が確認し、「責任から逃れるのではなく」、責任を示すために決定したと説明した。

 4日のベイルート港爆発では150人余りが死亡、数千人が負傷、数十万人が家を失い、すでに複数の閣僚が辞任していた。

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2020年7月25日 (土)

【ゴーン被告逃亡】「レバノンに来い」フランス検察の出頭要請を拒否。

ゴーン被告仏検察の出頭要請拒否 仏紙に「身の安全保証ない

朝日新聞デジタル 2020年7月20日(月)20時15分配信

 レバノンに逃亡中の日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン被告が仏紙のインタビューに応じ、仏検察から聴取のため出頭するよう要請されながら、断ったことを明らかにした。

 20日付の仏紙パリジャンによると、仏検察は13日に出頭するよう要請。ゴーン前会長は同紙に対し、自身が国際手配されていることに言及し、「身の安全が保証されるという確信が必要だ。(フランスに)何の妨害やトラブルもなしに行けると誰も保証できない」と述べ、拘束の恐れを理由に断ったとした。ゴーン前会長は「フランスの予審判事が(レバノンの首都)ベイルートに来れば、どんな質問にも応じる用意がある」とも語った。

ゴーン被告の息子、逃亡協力者に仮想通貨5000万送金 

時事通信 2020年7月24日(金)15時35分配信

 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告の息子アンソニー氏が、被告のレバノン逃亡を手助けしたとして米国で拘束中の米国人容疑者2人のうち1人に対し、暗号資産(仮想通貨)で計約50万ドル(約5300万円)を送金していたことが分かった。

 米司法当局が東部マサチューセッツ州の連邦裁判所に22日提出した文書で指摘した。

 2人は元米陸軍特殊部隊員マイケル・テイラー容疑者と息子ピーター容疑者で、東京地検が逮捕状を取っている。文書によると、アンソニー氏は逃亡事件後の今年1月21日~5月15日に米仮想通貨取引所コインベースを通じ、複数回に分けてピーター容疑者に送金した。

 ゴーン被告側は逃亡事件前にもピーター容疑者の管理する会社に約86万ドル(約9000万円)送金していたことが既に判明している。文書はテイラー親子に「ゴーン氏から大金が支払われていた」と指摘し、2人の釈放を認めないよう求めた。

 米当局は5月、東京地検の要請で2人を拘束。地検は米国に対し、身柄の引き渡しを請求している。 

 ゴーン被告の息子も、逃亡協力者にビットコイン送金50万ドル相当 

読売新聞オンライン 2020年7月24日(金)9時29分配信

 日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告(会社法違反などで起訴)が保釈中に逃亡した事件で、逃亡を手助けしたとして米国内で逮捕された米国籍の親子2人に、ゴーン被告の息子が計約50万ドル(約5300万円)を暗号資産(仮想通貨)で送金していたことが、米司法当局が22日に連邦裁判所に提出した裁判資料で明らかになった。

 2人は、米陸軍特殊部隊「グリーンベレー」元隊員のマイケル・テイラー(59)と、その息子のピーター・テイラー(27)の両容疑者で、日本への身柄引き渡しの可否が裁判所で審理されている。

 裁判資料によると、逃亡実行後の今年1~5月、ゴーン被告の息子のアンソニー・ゴーン氏が、ピーター容疑者宛てに暗号資産「ビットコイン」を使って複数回送金していた。

 両容疑者には、逃亡実行2か月前の昨年10月にも、ゴーン被告自身から計約86万ドル(約9200万円)が送金されており、少なくとも計約136万ドル(約1億4500万円)が支払われたことになる。

ゴーン被告、中東TVで「逃亡前スマホなしで、日本国外と連絡とった」

朝日新聞デジタル 2020年7月12日(日)18時07分配信

 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告が中東メディアの取材に応じ、日本からの逃亡準備において「日本国外にいる人と連絡を取れる仕組みをつくった」などと話した。中東の衛星テレビ局アルアラビーヤが11日にインタビューを放映した。起訴された事件については「陰謀だった」などと従来通り罪を否定した。

 インタビューはサウジアラビア時間の11日午後10時(日本時間12日午前4時)すぎから約1時間にわたり放映された。水色のシャツに黒いスーツ姿でインタビューに応じたゴーン前会長は、1月に記者会見をしたときより髪が少し短くなり、顔は日焼けしているように見えた。

 インタビューはアラビア語で行われ、ゴーン前会長は身ぶり手ぶりを交えて話し、インタビューの冒頭に日本語で「おはようございます」と発言する場面もあった。

 ゴーン前会長は逃亡前の状況について「スマホ所持は許されず、通話は傍聴され、(外出時は)尾行されていた」と説明。その中でどう逃亡したのか問われ、「日本国外にいる人と連絡を取れる仕組みをつくった。誰も危険に巻き込みたくないため、詳細は言わない」と答えた。

 ゴーン被告逃亡協力者、“逃亡恐れ保釈められず=米地裁 

ロイター 2020年7月11日(土)2時44分配信

 日産自動車<7201.T>の前会長、カルロス・ゴーン被告の逃亡を手助けした米国人容疑者2人について、ドナルド・キャベル治安判事は10日、逃亡の恐れがあり保釈は認められないとの判断を示した。

 日本政府は、マサチューセッツ州で5月に逮捕された米陸軍特殊部隊グリーンベレー元隊員マイケル・テイラー容疑者と息子のピーター・テイラー容疑者の身柄引き渡しを要請している。

 キャベル判事は、マイケル容疑者が「最も巧妙かつ謀略的な手口」でゴーン被告の逃亡を手助けした疑いがあるほか、ゴーン被告から86万ドル相当の資金を受け取るなど、逃亡資金もかなり蓄えているようだと指摘した。

 テイラー親子の弁護士からのコメントは得られていない。

 マサチューセッツ州連邦地裁のタルワニ判事は9日、両容疑者の早期保釈請求を却下した。タルワニ判事は7月28日に再審理を行う予定。

 ゴーン被告逃亡幇助の容疑者日本引き渡し回避狙いロビー活動 

Bloomberg 2020年7月6日(月)23時05分配信

 元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告の逃亡をほう助したとして日本当局の要請に基づき米国で逮捕された2人は、保釈と日本への身柄引き渡し回避を狙って、政治的な影響力を利用する手段に出ている。

 元米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)隊員のマイケル・テイラー容疑者と息子ピーター・テイラー容疑者の弁護士およびロビイストは、この問題を米司法省と国務省、さらに米議員らに訴えかけていることが関連文書と事情に詳しい関係者4人の情報で明らかになった。政治的に慎重な扱いを要する問題だとして、同関係者は匿名を条件に話した。

 両容疑者は5月半ば以降、米マサチューセッツ州ボストン郊外で勾留されている。

 ゴーン被告逃亡ほう助の容疑者、保釈なら逃亡の恐れ-米当局が警告

 身柄引き渡し関連の弁護士、パメラ・スチュアート氏は、これまでの米政権下では身柄引き渡しのプロセスに影響を与えようとロビー活動を展開しても「時間と資金の無駄」だっただろうと説明。その上で、政府判断を左右する可能性は依然として低いものの、「トランプ政権については何が起きるか分からない」と話した。スチュアート氏は両容疑者の件に関与していない。

 両容疑者が裁判所に保釈を求める一方、代理人らはワシントンで議員らに司法省への書簡に署名するよう働き掛けたと、関係者の1人は語った。この書簡では司法省に対し、釈放要請の支持を求めている。

 4月に提出されたロビー活動文書によると、マイケル・テイラー容疑者に雇われたK&Lゲーツのロビイストは米下院議員に対し、「米政府と日本との協議の可能性に関する問題」を巡る要請を行った。

 一方、テイラー親子の弁護団は保釈問題について米司法省の当局者と協議したと、関係者の1人が明らかにした。また、別の関係者1人によれば、弁護団は国務省にも接触し、日本の身柄引き渡し請求を認めるべきではないと主張した。

 米国務省は司法省に問い合わせるよう求めたが、司法省はコメントを控えた。マサチューセッツ州のレリング連邦検事正の報道官もコメントを控えた。

 経済危機とコロナで混迷するレバノンゴーン被告を引き渡す 

日刊ゲンダイDIGITAL 2020年7月25日(土)9時26分配信/宮田律(現代イスラム研究センター理事長)

 レバノンに逃亡中の日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告は、7月13日にフランス検察当局から事情聴取のため出頭を求められたが、断ったことを明らかにした。その理由は、国際手配されている中で、フランスへの渡航の往復で身の安全が保障される確信がないからというものだった。

 また、ゴーン被告は11日に放送されたテレビ・インタビューの中で逃亡先として選んだレバノンが「日本にいるより1000倍よい」と語った。しかし、現在のレバノンはゴーン被告の安全を脅かしかねない状態になっている。

 レバノンでは、日々深刻化する貧困や経済格差の問題への怒りから反腐敗・反政府のデモが昨年10月から激しさを増しているが、不正蓄財を行い、日本の法を破って逃亡して来たゴーン被告は、少なからぬレバノン人から腐敗や不正のシンボルと見られていることだろう。

 対外債務が世界で3番目に多いレバノンでは、3月に政府債務が900億ドルに達し、デフォルト(債務不履行)、つまり対外的な借金を返済できない状態に陥り、社会・経済がいよいよ危機的状態となっている。

 レバノンには18の宗派が存在し、各宗派に政治権力・経済的利権が分配されているが、それぞれが権利を主張するために、公的部門が膨れ上がり財政を圧迫してきた。既成政治家や官僚たちの腐敗も顕著で、それもまた反政府運動の重要な背景となっている。

 レバノンでは1975年から1990年まで続いた内戦の復興資金として多額の資金を外国から借り入れ、特に湾岸のアラブ諸国はレバノンに資金を注入し続けてきた。しかし、湾岸諸国からの資金の流れは原油安によって滞るようになったし、またこれら諸国はレバノンのシーア派組織ヒズボラ(神の党)を嫌い、レバノンへの融資を躊躇するようになっている。

 サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)は、シーア派で、アラブとは異なる異民族ペルシアのイランと親密な関係にあるヒズボラのレバノン政治における影響力拡大を警戒している。米国のポンペオ国務長官もレバノンへの財政支援にはヒズボラを排除する政治改革が必要だと述べているが、他方現政権を支援するヒズボラは米国がレバノンへのドルの流れを妨害していると訴える。

インフレ・失業で国内から逃げ出すレバノン国民たち

「日本にいるより1000倍よい」と語るゴーン被告の思いとは真逆に、生活苦からレバノンから離れることを望む人が多数現われるようになった。多くのレバノン国民たちが海外への移住を考えるようになったのは、既に述べたようなインフレ、失業、貧困など社会・経済危機を背景にする。

 特にインフレは深刻になり、月平均で56%も物価が上昇するほどだ。通貨レバノン・ポンドは下落し、昨年10月に反政府運動が発生してから80%も価値を下げた。

 公定為替レートは1ドル=1507.5ポンドに設定されているものの、実勢は1ドル=9000ポンドぐらいになった。レバノンを離れ、外国で職を見つけようにも、航空券は価格がドルで設定されているために、入手が困難な状態になっている。

 さらに、レバノンでも新型コロナウイルスの感染禍があり、5月上旬から6月上旬にかけて都市のロックダウンが行われ、経済はさらに悪化した。7月23日時点で感染者3104人、死者43人を出した。

 7月1日、ベイルート国際空港が再開されたが、海外にいたレバノン人たちが帰国し、家族、親族に接するようになると、クラスターの発生により感染がいっそう拡大するようになり、7月中旬には1日で170人も感染する日があった。

 コロナウイルスによって経済がいっそう低迷したレバノンでは、貧困率が45%、失業率は30%と深刻さを増すばかりで、現在の経済状態が続けば、今年終わりには貧困率は75%にも達するという見込みすらある。

 レバノンの1975年から1990年の内戦がそうであったように、様々な宗派グループの緊張があり、さらにパレスチナ難民やシリア難民の流入は社会を圧迫する要因となっている。現在は40%から50%の人々が食料や飲料水を満足に手に入れることができず、また医療・保健衛生システムにアクセスできず、家賃高騰のために、アパートなどにも住めない人が多数現われるようになった。

 昨年10月以来、「政治家の私企業になっている政府にノーを! 政治家による国家の富の略奪にノーを!」などのスローガンが反政府デモでは唱えられてきた。こうしたデモに対峙し、銃器で威嚇してきたのは、武力をもち、既得権益を脅かされると考えたヒズボラや、その同盟勢力である「アマル(希望という意味)」だった。

 デモは、自由選挙、司法権の独立、政治家たちによって着服された富の回収や、腐敗した政治家を裁判にかけること、また中東での紛争や緊張から免れるための中立的な外交政策を要求するが、ヒズボラやアマルはこうした要求が武装解除を求めるものだと警戒している。

 しかし、ヒズボラなどが武器でデモを威嚇し抑圧すればするほど、レバノンの他の宗派集団の反発を招き、暴力によってしかヒズボラに対抗できる手段がないと考えていく可能性がある。

軍の乱れによって内戦の可能性も

 ヒズボラと対立するグループは外国の支援に頼り、また諸外国が現在のリビアのようにレバノン内政に介入すれば、泥沼の内戦に至ることも考えられる。

 レバノン国軍はレバノン社会を統合する機能を担ってきたが、インフレ、物不足によって兵士の食事から肉も消えた。生活苦によって政府軍の規律や統制が乱れ、武器が横流しされて内戦を戦う手段になる可能性すらある。

 7月3日、東京地検はゴーン被告を逃亡させた米国籍の2人の容疑者の身柄を引き渡すことをマサチューセッツ州の連邦地裁に請求したが、ドナルド・カベル治安判事は10日、2人の容疑者たちに関する日本の請求を拒否する見込みは低いと述べた。

 ゴーン被告は、自身の逃亡を支えた全員を支援するというが、米国で逮捕された2人の容疑者が日本に身柄が引き渡されれば無罪になることは決してないだろう。混乱が続くレバノンではゴーン被告自身も支援が必要な状態になっていて、内戦などの事態になれば、その身柄を日本に売り渡すグループも現われかねない。

 日産4‐6月営業損失規模市場予想下回る見通し 

Bloomberg 2020年7月26日(日)8時00分配信

 日産自動車の第1四半期(4-6月期)の営業損失の規模は、市場予想の平均値を下回る見通しだ。同社が進めるコスト削減が想定以上のペースで進んでいるため。

 ブルームバーグが集計した第1四半期の営業赤字額のアナリスト予想平均値は2529億円となっているが、日産が進めてきたコスト削減の進展などが奏功して実際の赤字額は1500億円程度にとどまる見通しだ。関係者が公表されていない情報だとして匿名を条件に明らかにした。日産は28日に第1四半期決算発表を予定している。

 2018年11月のカルロス・ゴーン前会長の逮捕以降、日産は低迷する業績の立て直しに努めてきた。新型車の投入がなかったこともあり、世界的な自動車需要の低迷や新型コロナウイルスの感染拡大の影響も大きく受けた。前期(20年3月期)には約20年ぶりの規模となる巨額の赤字を計上したことを受けて、年間約3000億円規模の固定費削減のほか、生産ラインを閉鎖して年間の生産能力を20%削減する計画を5月に公表していた。

 ブルームバーグが確認した資料によると、年間の固定費削減規模は約3500億円に拡大する見通し。また新たに世界で3本の生産ラインを閉鎖する方針で、これにより今後数年での人員削減の規模は約1万4000人と1年前に公表していた1万2500人から上積みされる。新型コロナの感染拡大で在宅勤務が増えたことから、横浜市の本社近くで借りている2カ所のオフィススペースからも退去する方向という。

 日産の広報担当者にコメントを求めたが、25日夜の時点では得られていない。

 日産の内部資料によると、同社はキャッシュ創出に向けた取り組みの一環として資産の売却計画も進めている。ブルームバーグは今年2月、日産が子会社の日産トレーディングの買い手を見つけるのに苦慮していると報じていた。

 また今月には償還期間が1.5年、3年、5年の普通社債の起債を決めた。発行額は計700億円。ブルームバーグのデータによると、各年限で今期(21年3月期)の国内事業債として最高利率となる。

 コスト削減と手元資金を増やす取り組みにより、日産の自動車事業のキャッシュフローは第4四半期(21年1-3月期)にプラスに転じる見通しだと関係者は述べた。

 日産の資料によると、同社の第1四半期の売上高は他の多くの自動車メーカーと同様に激減し、前年同期比で約半分に減少する。同社はコンパクト多目的スポーツ車(SUV)として新型「ローグ」と電気自動車の「アリア」を公表したが、いずれもまだ発売されていない。一方、関係者によると、新型コロナの感染拡大で広がった都市封鎖の間に新車販売の約10%がオンラインだったことから、今後はネット販売を強化していくという。

 日産はまた、会社所有のプライベートジェットをすべて売却する方針。関係者によると、保有していた5機のうち4機は売却済という。そのうちの1機はゴーン元会長が使用していたガルフストリームG650だった。

 三菱自国内工場一部閉鎖 コロナで市場を見通せず 

産経新聞 2020年7月27日(月)22時45分配信

 三菱自動車は、令和5年3月期(4年度)までの中期経営計画で国内工場の一部閉鎖に追い込まれた。日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告が三菱自会長でもあった時代の「台数優先」戦略のツケが収益力をむしばみ、3年3月期(2年度)に巨額赤字を余儀なくされるためだ。絶頂期の象徴でもあるスポーツ用多目的車(SUV)「パジェロ」も完全撤退し、「選択と集中」で生き残りを図るが、新型コロナウイルス禍で市場の回復が見通せない中、計画達成には暗雲も漂う。(今村義丈)

 「新型コロナは関係ない。(全体の)拡大戦略に無理があった」。加藤隆雄最高経営責任者(CEO)は電話会見で、パジェロ撤退の質問にこう語った。

 三菱自は平成28年、燃費データ不正問題に端を発した危機から脱するため、日産からの出資を受け入れた。ゴーン被告が三菱自会長を兼務し、翌29年に策定されたのが、3年間で販売台数と売上高の「30%以上増」を掲げた前の中期計画だ。東南アジアだけでなく日本、米国、中国などでも拡大を目指す「全方位戦略」で、令和元年度の世界販売台数130万台を目指したが、結果は112万7千台にとどまった。

 悪影響がさらに大きかったのが、前中期計画のコスト最適化策を達成できなかったことだ。開発費や生産・物流コストも含む「モノづくり総コスト」を年1・3%減としたが、実際には人件費も含む固定費が1・3倍に膨らみ、収益構造は悪化した。

 新中期計画では、経営資源を東南アジアに集中して新工場を検討する。得意の電動化技術「プラグインハイブリッド」も強化。販売台数は105万台と縮小するが、本業のもうけを示す営業損益を、3年3月期(2年度)予想の1400億円の赤字から500億円の黒字に引き上げ、本業の稼ぐ力を示す営業利益率(売上高に占める営業利益の割合)2・3%を目指す。

 だが、新型コロナで東南アジア全体の市場がどうなるか見通せないことは、加藤氏も認める。人員削減目標も設定しておらず、V字回復をもくろむ計画が再び達成できないリスクをはらんでいる。

 

2020年6月19日 (金)

【ゴーン被告逃亡】幇助の米国人容疑者<日本への身柄引き渡し>異議申し立て

ゴーン被告逃亡幇助の容疑者日本の法律を「誤って解釈」=米検察

ロイター 2020年6月17日(水)9時02分配信

 米検察当局は16日、日産自動車<7201.T>前会長のカルロス・ゴーン被告の逃亡を手助けした容疑で逮捕された米国人2人が日本への身柄引き渡しを逃れるため、日本の法律の「誤った」解釈を主張していると指摘した。

 米陸軍特殊部隊グリーンベレーの元隊員、マイケル・テイラー容疑者と息子のピーター・テイラー容疑者は前月、マサチューセッツ州で日本の要請を受けた米当局により逮捕された。

 両容疑者の弁護団は前週、ボストンの連邦地裁への申し立てで、保釈中の人物の逃亡やそのような逃亡を手助けする行為は日本では罪に当たらないと主張、逮捕令状の取り下げを求めた。日本側の逮捕令状に記載された容疑は入管難民法に関わる違反で、身柄引き渡しの対象にはならないとした。

 これに対し、米検察側は16日に裁判所に提出した文書で、「日本の法律の誤った解釈と事実の間違った描写」によって身柄引き渡しを巡る訴訟がこの段階で却下される可能性を懸念、そうなれば「前代未聞」だと強調した。

 さらに、検察側は、日本からまだ正式に身柄引き渡し要請を受けていないが、両容疑者の行為が重罪に相当すると日本側が確認したと説明した。

 また、両容疑者は逃亡の危険性があるため、保釈されるべきではないとした。

 ゴーン被告逃亡幇助の容疑者、身柄引き渡し異議申し立て 

ロイター 2020年6月9日(火)11時00分配信

 日産自動車<7201.T>前会長のカルロス・ゴーン被告の逃亡を手助けした容疑で逮捕された米国人2人の弁護団は8日、日本の法律では保釈中の逃走の手助けは犯罪ではないとし、逮捕は不当だと主張した。

 米当局は5月、日本の要請により、保釈中だったゴーン被告の逃亡を手助けした疑いで米陸軍特殊部隊グリーンベレーの元隊員、マイケル・テイラー容疑者と息子のピーター・テイラー容疑者を逮捕した。

 両容疑者の弁護団はボストンの連邦地裁への申し立てで、5月に出された米国の逮捕状を撤回するか、もしくは身柄引き渡しを巡る審理が行われる間、2人を保釈するよう求めた。

 弁護団は、日本では保釈中の逃走も、そのほう助も刑事犯罪ではないとし、この事実に「異論の余地はなく、日本政府も法改正の検討を始めたほどだ」と主張。

 日本側の逮捕状に記載された容疑は入管難民法に関わる違反で、身柄引き渡しの対象にはならないとしている。

 また、両容疑者が保釈を認められず拘束されていることについて、2人に逃亡の危険性はないと主張した。

 米司法省とワシントンの日本大使館は、コメントの要請に応じていない。

 カルロスゴーン劇場の全真相 

AERAdot. 2020年6月15日(月)8時00分配信/朝日新聞取材班

 日産自動車は5月末、最終赤字が6712億円に上ると発表した。この赤字額は堕ちた“カリスマ”カルロス・ゴーンが仏ルノーから乗り込んできた20年前の6843億円に匹敵する。日産を舞台にしたゴーン劇場とはいったい、何だったのか? 朝日新聞取材班が迫った深層を明かす。

*  *  *

 2018年秋、二つの物語が同時に進んでいた。

 一つはフランスのルノーが日産をのみ込む経営統合の動きだった。マクロン大統領は自国の製造業復権を画し、ルノーのトップを兼ねるカルロス・ゴーンに対して、日産との統合を後戻りできない「不可逆的なもの」とするよう命じた。規模が小さく、技術力が劣るルノーはこのままではジリ貧になりかねない。電気自動車など先端技術力を持つ巨大な日産の生産能力を吸収することで、ルノーの凋落に歯止めをかけたかった。

 マクロンは、統合を進めるようゴーンに退任をちらつかせる。「ルノー日産」王朝に君臨する皇帝ゴーンにとって、不愉快極まりない申し出であった。

 フランスは第2次大戦後、政府が主要企業の株式を持ち、経営トップを送り込む独特の経済体制を敷いてきた。ゴーンにとって仏政府はただでさえ鬱陶しい存在なのに、政府権限を強めるフロランジュ法を制定し、政府保有株式の議決権を2倍にした。仏政府はもともとルノーの株を15%保有していたが、これにより発言権が2倍の3割弱となった。事実上、経営上の重要事項に拒否権を持つようになったのである。

 それまでルノーと日産双方を巧みにいなして地位を保ってきたのがゴーンだった。日産生え抜き幹部たちにとって、ゴーンは仏政府の圧力の防波堤になってくれる信頼感があった。ところがゴーンはマクロンに屈し、18年9月の取締役会で「ルノーとのアライアンスを深めることについて意見をうかがいたい」と切り出し、ルノー側に軸足を移した。「統合を進める気だな」。生え抜き幹部たちがゴーンの豹変を確信した瞬間だった。

 同じころ、もう一つの物語がカタストロフィーを迎えようとしていた。皇帝を断罪する謀反の計画である。

 ゴーンは日産傘下に10年、ジーア・キャピタルという投資会社を設立したが、しばらくして「活動状態がわからない」と不審に思う声が社内であがるようになった。たびたび調査が行われたものの、ペーパーカンパニーを幾層にも重ねた仕組みを前にして、調査を担う今津英敏監査役は途方に暮れた。「以前から『なんだか、おかしい』と思われていたんです。投資活動を本当にやっているのか疑問で。でもなかなかペーパーカンパニーは実態がわからなくて」。怪しげな投資会社がゴーン肝いりで作られ、監査役室が不審に思ったが、よくわからない。

 そんなとき、今津に力強い内部告発があった。今津ら監査役の動きを知った法務担当のハリ・ナダ専務執行役員が17年暮れごろ、「これ以上、ゴーンの不正に付き合わされるのはごめんだ」と、ジーア社のからくりを告白。マレーシア出身の英国人のナダは「この数年間のボスの振る舞いは許しがたい」と皇帝の悪事をぶちまけた。

「ジーア社は投資会社ではありません。投資するはずの資金はゴーンのリオやベイルートの邸宅の購入資金と改装費に使われました」。ジーア社の資金は有望な技術への投資ではなく、ゴーンの住宅費として2700万ドルが流用されていた。さらにゴーンの姉のクロディーヌにも、活動実態がないのにコンサルティング報酬75万ドルを日産から支払っていた。本来開示しなければならない役員報酬を退任後に受領するように装い、90億円以上も隠蔽していた……。衝撃的な内容だった。

「どうしたらいいだろう」とナダから相談を受けた渉外担当の川口均専務執行役員も驚愕した。「まさかここまでとは……」。川口は、検察OBの弁護士に相談した。やがて検察OB弁護士に加え、ナダが懇意にしていた米系のレイサム&ワトキンス法律事務所の弁護士たちの協力を得て、ゴーンの不正行為を詳細に調べていった。

 それが東京地検特捜部に持ち込まれた。「突然、社内でゴーンの不正を糾弾しても返り血を浴びるだけ」と、日産幹部は司直の手を借りることにしたのだ。ちょうど司法取引制度が導入されたころだった。

 検察は、大阪地検特捜部の証拠改竄事件で威信が地に落ち、その後遺症で「事件をやらない」と揶揄(やゆ)される冬の時代を迎えている。逆風をはね除け、「特捜検察の復権」を託されて東京地検特捜部長に就任したのが森本宏だった。大物の検察OBの弁護士は「森本で特捜部を立て直せなければ、特捜部が復活することはない」と語る。

 森本は17年の就任会見で「新しい時代に合った捜査手法で、取り組むべきものに取り組む」と話していた。司法取引は、まさに彼の言う「新しい時代に合った捜査手法」だった。日産からゴーンの不正が持ち込まれて4カ月経った18年10月、ナダと大沼敏明秘書室長と検察との司法取引に向けた協議が始まっている。

 司法取引は、部下が上司の不正を申告することで事件の全体像を解明することを想定した制度だ。犯罪に関与していても、証拠の提出や供述の協力をすることで検察から罪を問わないことを保証してもらう。ナダと大沼は、ゴーンと共謀してジーア社の資金をゴーンの住宅購入に充てたことや、役員報酬欄が虚偽である有価証券報告書を提出したりしたことを認め、ナダは53点の、大沼は87点の証拠を提出した。「(ゴーンが)完黙でも起訴できる」。検察の中堅幹部は手ごたえを感じた。

 検察との協議が進んでいた18年10月、今津が証拠をもとに西川廣人社長にゴーンの不正を説明した。「もう特捜部が動いています。協力せざるを得ない状況です」と今津。ゴーンの側近だった西川には、おぜん立てが整った最後の段階になって、ようやく説明された。

 これが、朝日新聞取材班がつかんだ「真相」である。国外逃亡したゴーンの言う「陰謀」とはだいぶ異なる。彼を放逐するために不正が捏造されたのではなく、不正があったので放逐された。

 朝日新聞社会部の司法クラブキャップの佐々木隆広たちが「特捜部が司法取引を使って大きな事件をやろうとしている」と察知したのは、西川が知る数カ月前のことだった。それから取材を重ね、たどり着いたのは想像もつかない大物の名前だった。「ゴーンって、あのゴーンか」。佐々木は初めてその情報を耳にしたとき、「タマがでかすぎる」と身震いした。ゴーンがビジネスジェットで羽田に降り立ったときに特捜部がゴーンの身柄を押さえることもわかった。

 11月19日午後3時半、ゴーンの飛行機が舞い降りた。「日産自動車のゴーン会長を金融商品取引法違反容疑で東京地検特捜部が逮捕へ」。全文35文字の原稿は、佐々木たち司法クラブの記者たちの数カ月の取材の結晶だった。

 ゴーンが昨年末、レバノンに逃亡したため、裁判は実現しない可能性が極めて高い。一方、金融商品取引法違反の罪で共犯者として起訴されたグレッグ・ケリー前代表取締役、そして法人としての日産は、裁判に向けた準備が進んでいる。当初は4月にも初公判が開かれる予定だったが、新型コロナウイルスの影響もあり、開始が遅れている。主役のいない裁判で真相はどこまで明らかになるのだろうか。

 れられた「カルロスゴーン  事態がきそうな理由

東洋経済オンライン 2020年6月7日(日)5時40分配信/レジス・アルノー (仏フィガロ東京特派員)

 コロナ禍で日本ではその存在が忘れられかけていた日産元会長のカルロス・ゴーンが再び日本を賑わせる可能性が出てきた。5月20日に、ゴーンの国外逃亡を助けたとされる3人のうち2人、元米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)のマイケル・テイラーとその息子、ピーター・テイラーがアメリカ・ボストン近郊で逮捕されたのである。2人はゴーンが現在住む、レバノンの首都ベイルートに向かう途中だったという。

 2人は12月29日、フランス系レバノン人のジョージ・アントワーヌ・ザイエックの協力を得て、ゴーンを楽器用の箱に入れて関西空港の税関を通過し、日本国外に脱出させた疑いが持たれている。アメリカ司法省は2人を日本への送還を視野に入れて逮捕した。

最終的には日本に送還される可能性

 元検事でホワイトカラー犯罪を扱うアメリカ人弁護士は、「アメリカが2人を日本に送還する可能性は非常に高い。アメリカ政府が彼らの身柄引き渡しをしないのに逮捕するということは想像できない。テイラー親子は自分たちの身を守ろうとするだろうが、政府は争う準備ができている。長い法廷闘争になるだろうが、最終的には日本へ送還されるのではないか」と見る。

 日本に送還された場合、テイラー親子は到着後、ゴーンが保釈されるまで108日間を過ごした小菅にある東京拘置所に送られる可能性が高い。彼らの日本人弁護士は、ひとたび保釈申請が可能になれば、ゴーンの弁護士と同じように、依頼人を保釈するよう裁判官に求めるだろう。だが、彼らは明らかに逃亡の危険性があるため、保釈は認められないと考えられる。

 そうなれば、テイラー親子は拘留されたまま、裁判のために数カ月は待つことになる。ある弁護士によると、有罪判決を受けた場合、彼らは刑務所で4年以上を過ごす可能性がある。ゴーンとの違いは、今回は誰も彼らを日本から脱出させに来ないという点だ。

 テイラー親子の逮捕は、トルコの司法当局が、ゴーンをイスタンブールからベイルートに不法に脱出させた罪に問われた7人(パイロット4人、客室乗務員2人、幹部1人)の起訴を発表した数日後に行われた。

 トルコで7月3日から始まる裁判では、ゴーンの逃亡の詳細が明らかになるはずだ。トルコの検察官は、4人のパイロットに最大8年の懲役、客室乗務員に1年の懲役を求めている。

2月にはレバノン大使夫妻と鉢合わせ

 一方、ゴーンと妻のキャロルはベイルートで生活を続けている。レバノンが新型コロナウイルスによって封鎖される前、彼らはしばしばレストランで目撃されていた。

 2人は2月18日には、ベイルート近郊のベイトメリ村で開催されたクラシック音楽の祭典「アル・ブスタン・フェスティバル」のプレミアコンサートで目撃されている。同コンサートには、日本の中レバノン大使、大久保武夫妻も出席していたという。会場にいた関係者によると、2組の夫婦の雰囲気は刺激的なものだったようだ。

 ゴーン夫妻は依然、日産が家賃を負担している家に住んでいるが、先ごろこの近所にもう1つアパートを借りた。日産関係者の監視を避け、プライベートを確保する狙いがあるとされる。

 ゴーンをめぐっては多くのうわさが流れている。ブラジルに引っ越す準備をしているというものや、経済的苦境に経つレバノンが、日本からの財政支援と引き換えに彼を引き渡すことができるというものまである。ブラジルに逃亡する準備をしているという人もいる。

 しかし、親しい友人たちはこうしたすべてのうわさを一蹴する。レバノン政府はまだゴーンを支持しているほか、政府がレバノン市民の身柄を引き渡すことはできない。ゴーン自身も日本での裁判を消滅させるため、レバノンでの裁判を希望している。

 妻のキャロルにとって、テイラー親子逮捕のニュースは衝撃だったに違いない。彼女は日本でも偽証罪で逮捕状が出ている。もし彼女がアメリカに行くことになれば、今度は彼女が逮捕され、身柄が引き渡されるリスクを負うことになるだろう。

 キャロルは自身の母国であるレバノンにいるが、夫が逮捕された時の主な居住地はニューヨークだった。彼女は以前、ニューヨークの実業家と結婚しており、そこでの家族や友だちとの絆も維持している。

いまだに裁判開始日は決まっていない

 2018年11月にゴーンとともに逮捕された元右腕で日産元代表取締役のグレッグ・ケリーは、今も日本で裁判が始まるのをを待っている。1年半前に逮捕されたにもかかわらず、いまだに裁判開始日は決まっていない。

 64歳で健康不安を抱えているとされるケリーは、ゴーン被告に約束された退任後の報酬数千万ドル(数十億円)について開示せず、隠ぺい工作を共謀した容疑を持たれているが、無罪になる可能性が高いとみられている。現在、妻のドナと東京で暮らしているが、彼女は日本を出ることを許されない夫と暮らすために学生ビザを取得しなければならなかった。

 ゴーンによる奇想天外な逃亡劇から6カ月。いよいよその逃亡の全貌が明らかになり、彼に「巻き込まれた」人たちの運命も大きく動き出すのだろうか。

ゴーン逃亡幇助“元グリーンベレー逮捕、実刑の可能性は五分五分

デイリー新潮 2020年6月5日(金)8時01分配信

 外堀は埋まりつつある。昨年末、カルロス・ゴーン被告(66)がレバノンへ逃亡した事件にかかわった人物が、次々と身柄を拘束されているのだ。中でも、5月20日に米国で捕まった親子は、逃亡作戦の中心人物とされる。今後、彼らには、どんな裁きが下るのだろうか。

 ***

「世紀の逃亡劇」を巡っては、すでにトルコで7名の航空関係者が拘束されているが、今回逮捕された2人こそ、ゴーン被告の依頼を受けて作戦を遂行したキーマンだと見られている。

 米国の司法当局によりボストン近郊の自宅で逮捕されたのは、マイケル・テイラー容疑者(59)と息子のピーター容疑者(27)。今年1月、東京地検はこの親子に対して犯人隠避と入管難民法違反ほう助の容疑で、逮捕状を取っていたのだ。

 社会部記者が解説する。

「ゴーン被告の出国に際しては、息子のピーター容疑者が日本国内における事前準備を担ったとされています。昨年の夏に、ゴーン被告と複数回面会して作戦を練り、逃亡当日のホテル予約なども行っています」

 片や父親のマイケル容疑者は、重要な移動手段となったプライベートジェットに同乗していた。

「パイロットは、関西空港を飛び立った後にマイケル容疑者から作戦の全容を明かされたと証言しています。その際、最後まで無事に送り届けないと命はない、と脅迫されたそうです」(同)

 脅し文句とはいえ、マイケル容疑者はかつて米陸軍の精鋭が集う「グリーンベレー」に所属。数々の戦地で修羅場を潜り抜けてきた元職業軍人だ。退役後は、民間軍事会社を設立して代表に就任、アフガンなどで兵士の養成にあたっていた。

 軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏によれば、

「民間軍事会社はPMCと呼ばれ、主に紛争地での要人警護や施設や輸送の警備、地元政府軍の訓練などを行います。業務自体は命懸けの仕事で実際に死ぬこともある。それに比べればゴーンの逃亡幇助はリスクが少ない。命の危険はなく、捕まっても重罪ではない。そんな、日本でのミッションはおいしい仕事だったでしょう。アフガンの米軍縮小など、業界自体も仕事が減少していますから」

実刑は五分五分

 成功報酬は明らかになっていないが、航空機を運航したトルコ人らには約3千万円が支払われた。テイラー親子は、少なくともそれ以上の額を受け取ったとみるのが自然である。

 いやしかし、結果的に御用となれば異国で牢に繋がれることは免れまい。日米は犯罪人の引き渡し条約を締結しており、今回の逮捕も日本政府が強く要請を行った末に実現したという。

「日本側の逮捕状や証拠資料によって、この親子の容疑は明らかです。早ければ1カ月以内には、日本に引き渡されるでしょう」

 と話すのは、元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏だ。

「犯人隠避と入管法違反で起訴され、有罪判決が下れば最長4年半の懲役刑を言い渡すことは可能です。ただし、世間を騒がせた事件を企てた実行犯であっても人に直接的な危害を加えたわけではなく、初犯であることを考慮されれば実刑判決とならない可能性もある。いずれにしてもゴーン被告の公判が開かれていない状況ですから、裁判が始まってみないと分かりませんが、実刑となるかは五分五分といったところでは」

 刑務所にぶち込まれたとしてもたかだか4年と聞くと、ずいぶん短い印象を受ける。おまけに執行猶予がつくとなると、元グリーンベレーにしてみれば濡れ手で粟。これでは世論も納得しまい。

 その上、引き渡しに応じないレバノン政府に護られたゴーン被告を、今後も逮捕できないとなると……。やはり日本の面子は丸潰れか。

ゴーンどころじゃない レバノンコロナ影響下の経済危機 

Wedge 2020年5月16日(土)12時19分配信/伊藤めぐみ(ルポライター)

レバノン人はカルロス・ゴーンにかまっている暇はない

 「レバノンといえばカルロス・ゴーンですよね!」

 2019年12月に日産の元会長カルロス・ゴーンが日本からレバノンに逃避行した。私はその頃、レバノンにたまたま滞在していて、日本に住む知人たちから上記の言葉を言われることが多かった。しかしいまいち、ピンとこない感じが続いていた。

 というのも、当時のレバノンはゴーンどころではなかったからだ。2019年10月から続いていた反政府抗議デモと、それに伴う経済の悪化で人々はかかりきりだった。むしろ日本人向けに「ゴーンの家の前には日本の報道陣が大勢いて、車が通れないから困っちゃうのよね!」と笑い話として話す程度で、そんな会話の後、今日のデモで何が起きているのかをレバノン人同士、熱心に話していた。一大金持ちの脱出劇よりも、自分たちの国がどうなるのかという重要な局面だったのだ。

宗教・宗派がついてまわるレバノン

 だからといってゴーン氏の事件がレバノンにとって特殊なことだったというわけではなく、レバノンらしさを象徴した出来事でもあった。人々の関心の中心だった反政府抗議デモの目的と通じるものもある。

 ゴーン氏の日本脱出に手を貸した人物の1人はゴーン氏の宗派、キリスト教マロン派の人物であったとすでにいくつかのメディアで報じられている。またゴーン氏はレバノン到着後、すぐにキリスト教マロン派である大統領とも面会している。別にこれはマロン派が特殊な結社を持っているわけではなく、レバノンでは一事が万事、宗教宗派的なつながりを基本に物事が進むことが多いからだ。信仰心が強いという意味ではなく、利害集団として、日常的なパートナーとして宗派が機能してしまっているのである。

 レバノンでは公式に18の宗教宗派が認められており、しかも政治家の議席数や、公的な仕事に関してはおおまかな宗派でその数があらかじめ決められている。宗派に分類できない政党も、どこかの政党と協力関係を結んで出馬する。レバノンでは現在100 以上の政党が存在している。

 なぜこのような仕組みになっているのかといえば、宗派も深く関係したレバノン内戦(1975年-1990年)を終わらせるためだった。宗派間の権力拡大争いにならないようにと決められたのだ。しかしそのことがレバノン政治の腐敗をもたらし、人々の不満と怒りを生み、今回のデモへとつながったのである。

発電機の電気と引き換えの忠誠心

 腐敗はたとえばインフラの未整備として表れている。

 首都ベイルートはそれなりに進んだ街である。かつては中東のパリと呼ばれたほどだ。

 しかし、ベイルートでは現在、1日に最低3時間、公共電力は停止する。これはまだいい方でベイルート以外の街では6 ~17時間停電する。地区によっては水の供給も十分ではない。その分、人々は金銭的余裕があれば、近隣にある発電機の所有者から電気を、私企業から水を購入している。もちろん公共のものよりも高額だ。平均1人当たり国民総所得(GNI)が9800ドルのところ、発電機の使用に1家庭あたり1300ドルを支払っているという2016年のデータもある。

 なぜインフラは改善されないのか。

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 発電機の所有者や水を売る業者、あるいは彼らに商売を許す政治家がこの状況から利益を得ているからだといわれている。

 例えば電気に関しては、法律上はレバノンの国営企業(Electricite du Liban /EDL)が提供する公共電力があるため、電気を私的に売るのは一応のところ、違法とされている。そのため、業者は自分たちの商売を続けるための「賄賂」を地域の政治家や有力者に払う必要がある。

 宗派ごとにわかれて住む傾向のあるレバノン。ベイルート市内では、各エリアに有力者や影響力を持つ政党が存在する。スンニ派が多いレバノン第二の都市トリポリでは内戦時代の民兵のリーダーだった人が選挙での協力を前提に発電機の所有を許可されたという。

 発電機の所有者は収入を得て、政治家は彼らを通して選挙での影響力を得る。キリスト教、イスラム教・スンニ派、シーア派、ドゥルーズ派、その他それぞれが電力を時に、「飴」として、時に「支配力」として自分たち宗派、あるいは政党への忠誠心をつなぎとめるために使用しているというのだ。

 もちろん、政治的な意味合いや、介入の度合いは地域によって異なる。またそもそも公共電力に関して、発電のための石油を買う財源が十分にないなどの問題もある。

 それでも、ロイター通信の2015年の取材では、世界銀行のベイルート担当者は、電力不足に関して、「技術的な問題はすでに検証済みで、必要なのは政治的な判断を下すという意志」だとまでいっている。宗派を利用した政治でインフラはいいように利用されている側面があるのだ。

貯金が引き出せない・銀行への怒り

 腐敗に対する人々の怒りは銀行にも向けられている。

 レバノン経済はやや特殊だ。現地通貨、レバノン・ポンドもあるが、基本的にドルを中心に回っている。輸入中心経済であり、かつディアスポラと呼ばれる海外移民がレバノン本国の家族などに海外から送金してくるからだ。(ちなみにブラジル生まれのカルロス・ゴーンもディアスポラの1人だ)。

 その特殊性からくる歪みがデモをきっかけに爆発したのだが、少しややこしいので説明したい。

 2019年10月に反政府デモがはじまった際、公共機関などは閉鎖され、銀行も2週間営業を停止した。再び、銀行が再開された時、多くの人々が銀行に殺到し、自分たちの預金をドルで引き出そうとした。銀行がいつまた閉鎖されるかわからず、レバノン経済の破綻ぶりを人々が今まで以上に認識したからだ。

 しかし再開と同時に政府は、銀行からの引き出しを厳しく制限した。ドルが一気に引き出されれば政府も、銀行も立ち行かなくなる。またデモ参加者へ圧力をかけるために、人々の銀行預金を「人質」にとったという見方をする人もいる。

 人々は自分のお金を失う恐怖に襲われた。預金を思うように引き出せない、週に数100ドルの上限分しか引き出せない、長蛇の列に並ばなければならない状況に陥った。手術、海外にいる子どもの学費など大きな額の引き出しが必要な人は、その証明をする必要があり、それでも拒絶されることがおきた。

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 人々の怒りは膨らみ、銀行の建物やATMが破壊されるという事態になった。報道では2020年1月にはレバノン北部で銀行のマネージャーを人質にとるということも起きていた。

 筆者もデモの現場を目にすることが何度かあった。抗議が行われる場所や時間は決まっているので、巻き込まれるということはあまりない。それでも主要道路が封鎖されていて大回りしたり、いつも使っていた銀行のATMが叩き壊されていたりなど、デモは身近なものだった。知人からだけでなく、見知らぬタクシーの運転手から政治に対する不満を聞かされることもよくあった。

 重要なのは、一連の出来事がデモによる騒動なのではなく、以前からあったレバノン経済の問題がデモをきっかけに噴出したということだ。

 すでに述べたように、レバノンは輸出をほとんど行わない輸入中心国だ。普通は輸入が多いと、現地通貨の価値は下がり、ドルの価値が上がる。しかし、レバノンではそうはならなかった。1ドル1507.5レバノン・ポンドを1997年以来、維持してきた。これはすごいことなのである。ドルを安く手にいれることができ、レバノンの富裕層は海外での消費や贅沢品の購入を享受してきた。

 レートの維持が可能だったのはディアスポラの存在である。内戦などが原因でレバノンは海外移住者が多い。輸出で外貨を得ることはできないが、海外移住者が、レバノンの商業銀行が提示した高い利子に魅力を感じ、レバノンの商業銀行を通して送金してきたからである。

 レバノンの商業銀行はそのお金の多くを中央銀行に高い利子で貸した。中央銀行はそのお金を財務省に渡し、財政や国債の支払いに充てた。

 この関係は、レバノンが経済成長し、政府がより多くの税収を得て、その利子や国債を払えているのならば問題はない。しかしながら、レバノン自体が何かを生産しているわけではなく、ここ数年は2011年からのシリア内戦の影響で経済も悪化していた。2018年のGDP成長率は0.2%と低いので、国債を返すことはもとより、利子を払うことも本来は困難なはずであった。

 国債はどんどんと膨れ上がっていった。現在の国債の総額は900億ドル。国内総生産(GDP)の約170%で世界でも最悪のレベルだ。

 一方で権力者は利益を得てきた。銀行は多くの場合は政治にも深く関わる一族が経営を握っている。たとえば、大手銀行の1つBankmedは前首相のハリリ一族が所有し、経営を司る。

 国が銀行にお金を返せないとなれば、銀行は預金者にお金を返せない。銀行にとっても大変な事態かと思えば、銀行を握る各一族は、経営を行いながらも株式所有の比率は低い。また一族は自らの資金を国外にも分散させており、受けるダメージは少ないと思われる。この歪みがデモをきっかけに銀行への怒りとなって表れたのだ。

 デモの以前は1ドルが1507.5レバノン・ポンドだったのが、今では(新型コロナウイルスの影響も加わって)、市場/闇価格では3200-4000レバノン・ポンドになっている。ドルで指定されたものは、レバノン通貨で払おうとすればこれまでの倍以上の額を支払わなければならないことを意味する。食料品・日用品などの物価もドルの価値が上がるにつれて、1.5倍から2倍にまで上昇している。

新政権による債務不履行宣言と大麻の合法化

 この状況に政府はどう反応したのか。

 デモ隊の退陣要求をうけて、ハリリ首相は10月末に辞任を表明した。数ヶ月の空白期間を経て、今年1月にディアブ新内閣が発足した。

 首相の座はレバノンの政治システムに従ってスンニ派から選ばれた(大統領がキリスト教徒、国会議長がシーア派から選ばれる)。

 ディアブ氏はスンニ派であるが、シーア派のヒズボラやキリスト教の自由愛国運動の支持を得ていて、スンニ派政党、未来運動からは支持を得ていない。

 すでに宗派ごとに議席数が決まっているレバノン政治。どの政党や誰と組んで多数派になるかという話し合いで物事が決まる。宗派主義といえども、信仰で政治的立場が決まるわけではないことをよく表している。

 この内閣に対してデモ参加者はディアブ氏が腐敗を終わらせる能力のある人物ではないと反発している。

 発足したディアブ政権が、この経済危機に対して行なったのが2020年3月7日の債務不履行(デフォルト)の宣言だ。つまり国が貸してもらっていたお金を期限通りに返済できないという判断をしたということ。今回、償還期限を迎えた外貨建て国債の額は、12億ドル。

 ディアブ内閣はデフォルトを行う理由を、「国民の基本的なニーズを守るため」と説明した。こうした表現をするのは、新政府は国民の側にあるのであって、政府に対する批判の目を銀行に移す意図があると指摘する論者もいる。

 新政権は問題を作ったのは自分たちではないと言いたいのだろうが、もちろんこれまでの政府と銀行は共犯関係だ。自由愛国運動やヒズボラ、アマル運動もこれまでの政権に参加してきた。

 それでも、ディアブ内閣が銀行に対して、これまでの内閣と違って厳しい態度をとるのには理由がある。ディアブ内閣の後ろにはアメリカがテロ組織として指定するヒズボラがいるからだ。

 中央銀行の総裁は、シーア派系の銀行をヒズボラと関係があるとして操業停止にするように、かつてアメリカ側に進言した人物でもある。ヒズボラは現在の銀行システムに不満を持っているのだ。

 これまでのデモでも、改革を望まないヒズボラ民兵がデモ参加者に攻撃を加えていたが、この銀行問題ではヒズボラがデモ隊の主張を支持していた。

 今後、どうなるかの先行きは不明だ。

 4月30日、レバノン政府は経済改革案をまとめ、ヒズボラが反対していた国際通貨基金(IMF)の支援を求めるための交渉に入った。

 また海外からの経済投資も必要となってくるが、ヒズボラ寄りの政権であるため、欧米や湾岸諸国の資金はこれまでのようには期待できない。

 ちなみに経済再建のためのドル獲得の秘策として、レバノン政府は医療用の大麻を合法化する法律を4月末に可決した。国連によると、レバノンは世界第4位の大麻生産国。

 大麻の是非はここでは論じないが、経済再建案がそこから始まるとはレバノンも相当病んでいるのかもしれない。不安定な状況に追いやられているシリア難民やパレスチナ難民などの貧困層にも大麻は蔓延している。

反政府デモとコロナによるダブルパンチ

 レバノンでも新型コロナウイルスの影響は出ている。878ケース、26人の死者が確認されている(5月13日現在)。感染拡大防止には比較的、成功して、段階的に規制を解除していたのだが、ここ数日の感染者の増加で見直しを迫られている。

 すでに反政府デモによる経済活動の停滞で失業に苦しんでいた人たちに、コロナウイルスの影響は追い討ちをかけるように襲い掛かった。

 筆者が住んでいる地域には、「難民」として暮らすパレスチナ人やシリア人、またレバノン人の貧困層が多い。日に日に人々の顔が暗くなっていくのを目にした。「ミルクを買うお金がない」「援助団体の配給をもらうことができなかった」そんな声をよく聞く。

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 先日も8歳になる男の子が、父親が兄に暴力を振った様子を話してくれた。父親に仕事がなく経済的ストレスを抱えたことが影響しているのだろうが、「コロナが終われば大丈夫」と我慢することに慣れているかのような少年の発言に貧困がもたらすものの深刻さを感じる。

 4月には生活に困窮し追いつめられたシリア難民の一家の主人が焼身自殺を図ったり、自分の腎臓を売ろうとした人もいたとの報道があった。

 レバノンにはエチオピア人やフィリピン人などレバノン人の富裕層の家庭に住み込みで働く外国人女性労働者が多い。彼女たちへの不当な扱いは以前から大きな問題になっていた。経済状況が悪化して苛立ちの募った家人にさらなる暴力を振るわれるという事態も発生している。

レバノンのこれから

 ゴーン氏の話からややそれてしまったが、一部の権力と金をもつ人間に都合よくまわるようになっている社会。宗派をもとにしながらも実際はより政治や利害関係で動いているという、よく聞くようで未だに勘違される問題なのである。

 「宗派」による利害だけではなく、国籍による違いでも置かれている状況は異なる。レバノン人の抱える問題以前の問題を抱えるシリア、パレスチナ難民は、当初は期待しながらも比較的早い段階から反政府デモを醒めた目で見ていた。

 印象的だったのはあるシリア人の知人の言葉だ。

 「世界中がコロナっていう同じ話題を話している。嬉しいのか、なんなのか自分でもこの感情がわからないと」と。

 世界中の人が同じものに立ち向かえるというぼんやりとした一体感。でも、一方でシリアのどこかの街が激しい爆撃を受けても、デモで治安部隊に暴力を振るわれても、難民として権利が剥奪された生活が続いても、そのことで世界中の人が共通の話題として心配するなんてことはない。人は自分の身に危険が降りかかる可能性のあるものでないと、やっぱり興味は持ちづらい。そんな嫉妬のような、諦めのような気持ちなのかもしれない。仮にコロナが収まっても、レバノン、シリア、パレスチナの抱える問題も解決はしない。

 コロナウイルスの影響などで一時、沈静化していたデモが4月末から再び、始まっている。

 小国ながら中東各国の影響を受け、また影響を与えるレバノン。今後どうなるのか。

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関連エントリ 2020/02/17 ⇒ 【日経平均】3日続落<GDP下振れ✍材料交錯で軟調>経済活動の鈍化懸念

 

2020年1月25日 (土)

【ゴーン被告逃亡】フランス検事当局✍資金移動の捜査強化

仏政府、ゴーン被告捜査強化へ―ベルサイユ披露宴やオマーン資金巡り

Bloomberg 2020年1月24日(金)7時04分配信

 フランスの検察当局は、ルノー前会長のカルロス・ゴーン被告による支出に関する捜査を引き継ぐよう予備判事に要請する。

 パリ近郊ナンテールの検察当局は昨年、予備捜査を開始しており、より広い権限を持つ予備判事に捜査の継続を託す計画だ。検察当局が電子メールで明らかにした。  2018年11月に都内で逮捕されたゴーン被告は保釈中だった先月、レバノンに逃亡。被告は日本での起訴内容を全て否認し、ルノーとのさらなる統合を阻止する日産自動車による陰謀の一部だったと主張している。

 ナンテール地検の捜査は、ゴーン被告が16年のベルサイユ宮殿での結婚披露宴開催に当たりルノーのスポンサー契約を不適切に利用したかどうかが焦点。当局はまた、日産の販売代理店オーナーだったオマーンの資産家が、ゴーン被告が支配するレバノンの会社への資金移動に関与した疑いを巡り、被告とこの資産家との関係にも関心を持っている。

 検察当局は、特に複雑な捜査に限って予備判事に引き継ぐ。通常、こうした事件の決着には何年もかかる。  ゴーン被告のスポークスマンは以前、オマーンの販売業者に関する疑惑を否定しており、被告が披露宴関連費用を返済すると述べていた。

ゴーン夫妻に一番の打撃は「外国資産差し押さえ」金の亡者へ対抗策

デイリー新潮 2020年1月25日(土)5時57分配信

 夫婦でともに“容疑者”となったカルロス・ゴーン(65)とキャロル夫人(53)。再婚同士で挙げたヴェルサイユ宮殿での式は80億円とも報じられ、その一部はルノーの資金を流用した疑いがもたれている。我利我利亡者だった夫妻だが、ここにきて、夫の斜陽も伝えられている。外信部の記者によると、

「たとえば米ブルームバーグ通信は、ゴーンの資産がこの1年で4割も減ったと報じています。ブルームバーグ独自の“億万長者指数”によると、推定約1億2千万ドル(約132億円)から約7千万ドル(約77億円)に激減したというのです」

 その主な理由については、

「多くの海外メディアが、保釈金15億円が没収され、逃亡計画に最大2千万ドル(約22億円)を費やしたといった試算をしている。ブルームバーグは、“ゴーン一族の巨万の富を圧迫するほどの額”とまで指摘しているんです」

 いずれにせよこうした莫大な蓄財は、大量のリストラで従業員を死屍累々の墓場に送ったうえ、卑怯で狡猾な手段によって会社の金庫を自分のサイフとした結果である。

 対する日産は、次のような力強い声明を出している。

〈ゴーン氏の不正行為について、同氏に対して責任を追及するという当社の基本的な方針は、今回の逃亡によって何ら影響を受けるものではありません。(中略)不正行為により被った損害の回復に向けた財産の保全や損害賠償請求など、適切な法的手続を継続して行っていく方針です〉

 そんななか、目下の話題は日産がレバノンで起こした立ち退き訴訟である。先の記者が解説する。

「レバノンにあるゴーンの“自宅”をめぐって日産が所有権を主張しています。この物件は敷地内に考古学的な価値のある墓もあるため、資産価値にすると18億円とされますが、もとは日産が10億円弱で購入した物件。改装費も出していて、ゴーンサイドの旗色は極めて悪い」

 しかも、これまでゴーンを世界的な成功者として英雄視してきたレバノンのメディアに、変化が見られるという。

「彼に批判的な記事も目立ちはじめているのです。それらによって、ゴーンがレバノンのワイナリーに出資したり、不動産開発事業に関与し金融機関に投資したりしていることも明るみに出た。今回の立ち退き訴訟のように、日産が可能な限り外国資産を差し押さえてしまうことがゴーン夫妻には一番の打撃となります。これまで送ってきた贅沢三昧の暮らしを奪われることが、なによりも避けたいことでしょうから」

 カネの亡者、ゴーン夫妻が重ねてきた数々の大罪。日本政府と日産は、打てる手を全て打って卑劣な犯罪者に対抗しなければならない。

金持ちが重宝するスキャンダル揉み消し民間調査会社を使ったスパイ活動

Wedge 2020年1月24日(金)12時23分配信/森川聡一(経済ジャーナリスト)

今回の一冊Catch and Kill
筆者 Ronan Farrow
出版 Little, Brown

 ハリウッド映画界の大物プロデューサーによる性的暴行疑惑を追ったジャーナリストが、その困難だった取材プロセスをまとめたノンフィクションだ。被害にあったと噂される女性たちを見つけ出し証言を引き出そうとするものの、スキャンダルを暴かれることを恐れる大物プロデューサーは、イスラエルの諜報機関の元工作員やアメリカの検察OB、大物弁護士らプロ集団を雇って取材を妨害する。

 記者たちや被害女性たちを、プロの調査員が尾行して監視するとともに、身辺を探って弱みが見つかれば、それを材料に口封じ工作をするのだ。イスラエル空軍出身の美人スパイが別人になりすまし、監視の対象者に直接会って情報を引き出す。悪いことをした張本人が自己保身のために札束でその道のプロを雇い、真実が暴露されるのを止めようとする。元特殊部隊のプロたちを雇い日本から逃亡したカルロス・ゴーンのような例は、実は世界では珍しくないことが分かる。

 本書のタイトルの『Catch and Kill』とは、まずい話をキャッチして、ネタを持っている人に口封じの金を払って黙らせ、スキャンダルを握りつぶすことを意味する。政治家など有力者の息のかかったタブロイド紙が、取材の形で内部告発者や情報提供者に接触し、他のメディアには話さないことを約束させて金を払い、そのまま話を闇に葬り去るやり口だ。
 本書のジャーナリストが疑惑を追及した大物プロデューサーとは、ハーベイ・ワインスタインで、本書のもととなった報道により、2017年に映画界から追放された。この大物プロデューサーのために、経営トップ自らスキャンダル報道のもみ消しに協力したのが、タブロイド紙「ナショナル・エンクワイアラー」を発刊するアメリカン・メディア社だということも本書は告発する。トランプ大統領のために昔の不倫相手に口止め料を払っていたとされる会社だ。

 本書が読みごたえがあるのは、ハリウッドの大物による性的暴行を明るみにするだけで終わらないからだ。業界の大物といった特権階級が、お金の力でマスコミ、元諜報機関の工作員、検察OB、大物弁護士らを味方にして、自己を正当化する情報戦をてがける事実を暴露し衝撃だ。まさに私的な諜報作戦であり、金持ちによるスパイ大作戦だ。

 しかも、話はそれだけで終わらない。本書を書いたジャーナリストは取材していた当時は、アメリカの大手テレビ局のひとつNBCの記者としてスキャンダルを追っていた。しかし、NBCの経営幹部にもワインスタインの手が回り、取材の打ち切りを命じられた経緯も詳しく伝える。異例なことに、テレビでの放送をあきらめ、雑誌に原稿を売り込んで取材結果を公表したのだ。

 記事が出て反響を呼んだところでようやく、NBCもワインスタインについて報じ始めた。さらに、NBC社内でのセクシャルハラスメントのもみ消し疑惑なども浮上する。NBC社内で特ダネを握りつぶされた経緯なども詳細に伝え、ジャーナリズムとは程遠い大手テレビ局のあきれる話の連続に驚かされる。

 特権階級にある大物たちを巡る腐敗をも暴く本が売れないはずはない。本書はニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリスト(単行本ノンフィクション部門)で2019年11月3日付に2位で初登場した。今年に入り1月26日付ランキングでも6位に入った。

イスラエルで興隆するサービス

 本稿では、金持ちによる諜報作戦というテーマに絞って、もう少し内容を紹介したい。実は、イスラエルでは、いわゆるインテリジェンスに関するサービスを提供する産業が興隆しているという。

In the 2000s, Israel became a hotbed for such firms. The country's mandatory military service, and the legendary secrecy and accomplishment of its intelligence agency, Mossad, created a ready pipeline of trained operatives. The Israeli firms began emphasizing less conventional forms of corporate espionage, including “pretexting”: using operatives with false identities.

 「2000年代に、イスラエルはこうした会社を育てる格好の場となった。イスラエルでは兵役が義務付けられているうえ、伝説的な秘密主義と実績を誇る諜報機関モサドがあるおかげで、熟練した工作員をすぐに確保できた。イスラエルのこうした会社は、やや従来とは異なる産業スパイなどのサービスに力を入れ始めた。そこには、プリテキスティングという、工作員が別人になりすまして情報を収集する手法も含んだ」

 ワインスタイン陣営が雇ったイスラエルの調査会社はブラック・キューブ(Black Cube)という名の会社だった。イスラエルの諜報機関に勤めていた2人が2010年に始めた会社で、イスラエルの諜報機関だけでなくイスラエル軍にも深いパイプを持つ。

Black Cube’s workforce grew to more than a hundred operatives, speaking thirty languages. It opened offices in London and Paris and eventually moved its headquarters to a massive space in a gleaming tower in central Tel Aviv, behind a jet-black unmarked door. Inside, there were more unmarked doors, fingerprint readers sealing many of them.

 「ブラック・キューブの陣容は100人以上の工作員を抱える規模に膨らみ、30カ国語に対応できた。ロンドンとパリにもオフィスを構え、ついには本社をテルアビブ中心部のきらびやかなビルの大きなフロアーに移した。入口は何も表示がない真っ黒なドアだ。中に入ると、さらに何も表示がないドアがいくつも並び、ドアの多くは指紋認証をしないと開けられない」

 これだけでも十分に不気味だが、従業員は清掃員も含めすべて定期的にうそ発見器にかけられる。情報漏洩を防ぐためだ。民間の調査会社でありながら、これだけの人材を抱えている組織であれば、危ない橋も渡るのではないかと疑いたくなる。本書ではイスラエルの他の同業者の次のような解説も紹介する。

“It's impossible to do what they do without breaking the law.” The head of a competing Israeli private intelligence firm who'd had dealings with Black Cube told me, “More than fifty percent of what they do is illegal.” I asked him what to do if I suspected I was being followed, and he said, “Just start running.”

 「『法を破らずに彼ら(ブラック・キューブ)と同じことをやるのは不可能だ』。イスラエルの競合の民間調査会社のトップは語った。かつてブラック・キューブと取引したことがある業者だ。『彼らがやっていることの50%以上は違法だ』。もし自分が尾行されていると思ったらどうすべきかも聞いてみたら、『とにかく走り始めろ』と教えてくれた」

 そもそも、隠密行動をしていたブラック・キューブの関与が明るみに出た経緯もまた驚く。必死に取材を続ける筆者のもとに、ブラック・キューブの内部から匿名で情報をメールで送りつけてくる人物がある日、現れたのだ。ワインスタン陣営との間で結んだ調査業務に関する契約書や調査資料などが送られてきて、プロ集団による妨害工作が分かったのだ。

 ある新聞社による取材を妨害するために提供したサービスの請求書には、130万ドルという金額が記されていた。また、本物のジャーナリストを4万ドルのアルバイト料で4カ月間雇い、監視の対象者たちに取材と偽って接触して月に10件のインタビューをして、その結果を報告させるという契約書も出てきた。

 イスラエルの調査会社だけではない。ワインスタイン陣営は長年、アメリカの調査会社クロール(Kroll)を、スキャンダルのもみ消し工作のため起用してきた。アメリカのK2という調査会社も使っていた。この会社の従業員はすべて検察当局で働いた経験を持つという。当然ながら、現職の検察官とは太いパイプを持つ。

ウィキペディアも書き換える

 本書では、Wikipedia whitewasher と呼ばれる仕事師の実態も暴いている。本書のもとになった報道でスキャンダルにまみれそうになったNBCが、金を払ってプロを雇い、ウィキペディアの内容ができるだけ自社に都合のいいものになるように画策したという。Wikipedia whitewasher とは、運営元に執拗に抗議して都合の悪い書き込みを削除させ、ウィキペディアの内容を書き換えるのを請け負う専門業だ。

 フェイク・ニュースへの批判が高まる一方で、カネさえ払えば、真実がそもそも伝わらないようにする仕組みがあること自体、驚きだし恐ろしい。正義による裁きから逃げ出したゴーン逃亡者にも通ずるものがある。

 本書はあまりに内容が豊富なため、暗躍する民間スパイ会社に関する部分を中心に紹介した。もちろん、ワインスタインやNBCの人気キャスターによる性的暴力に関する告発がメーンのテーマであり、関係者の証言を集め説得力をもつ内容になっている。

 話が脱線してしまうのであえて冒頭では触れなかった事実がもうひとつある。本書の筆者ローナン・ファローは、映画監督ウッディ・アレンと女優ミア・ファローの息子だ。

在日ロシア大使館が批判コメント「日本がスパイ妄想狂に仲間入り」

共同通信 2020年1月26日(日)0時32分配信

 在日ロシア大使館は25日、警視庁に逮捕された容疑者から機密情報を受け取った疑いがあるとして日本が在日ロシア通商代表部の職員ら2人に出頭要請したことについて、批判するコメントをフェイスブックで発表した。「欧米で流行しているロシアに対するスパイ妄想狂に日本が仲間入りしたのは遺憾だ」としている。

 さらに「両国の協力関係を構築し、簡単でない問題解決のために積極的な雰囲気をつくりあげていくという日ロ両政府が合意した路線にも反する」と指摘した。

機密漏洩、摘発相次ぐ 東京五輪控え管理体制強化が急務

産経新聞 2020年1月25日(土)22時20分配信

 在日ロシア通商代表部の職員がソフトバンク社員に接近し、営業機密を提供させていた疑いが明らかになった。警視庁公安部は機密情報漏洩(ろうえい)事件を相次いで摘発。今月には米国製早期警戒機の特別防衛機密(特防秘)を漏洩させたとして航空自衛隊の元幹部(58)を逮捕した。自衛官をはじめ光学機器や半導体関連の民間社員らはこれまでも外国スパイの標的にされてきた。東京五輪・パラリンピックを半年後に控えてテロへの警戒度が高まるなか、情報管理の態勢強化が求められる。

 ロシア通商代表部の職員による情報収集活動は、標的とする日本人を選定し、接待や現金報酬などで取り込んでいく手口が用いられることが多い。平成18年に警視庁公安部が摘発した通商代表部員と大手精密機器メーカー「ニコン」の元社員による最先端部品の窃盗事件では、都内の居酒屋などで十数回の接待を重ね、現金数万円が元社員側に渡ったとされる。

 今回の事件でも、過去の事例と同様にソフトバンクに勤務していた荒木豊容疑者(48)は通商代表部職員から飲食接待を受け、現金も提供されていたとみられる。

 ロシアのスパイは、旧KGBの流れをくむ対外情報庁(SVR)や軍参謀本部情報総局(GRU)に所属しながら通商代表部員など公的な身分で活動。警視庁公安部は、出頭を要請した職員らの所属を捜査し、籠絡した手口についても確認を進めている。

 一方で、軍事や防衛に関する機密情報の厳格な管理が喫緊の課題として浮上している。

 公安部が17日に日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反容疑で逮捕した航空自衛隊元1等空佐の会社員、菅野聡容疑者(58)は米政府から早期警戒機の情報提供を受けた際、米国政府関係者に1人で対応し、約3年間にわたって個人的に管理していた。航空幕僚監部広報室は、「悪意をもって行動された場合、それを見破るような二重のチェック態勢は、現段階では整っていない」と認める。

 国内では、世界中から注目を集める五輪、パラリンピックが迫り、テロの危険性が相対的に高まっている。

 テロ対策に詳しい公共政策調査会の板橋功研究センター長は「戦闘機のマニュアルもそうだが、自衛官の周りには当たり前のように防衛機密がある」と指摘。その上で「全員が意識を高く保つのは難しく、そこをテロリストにつけこまれる可能性もある。情報管理態勢の見直しはもちろん、個人の意識改革も必須だろう」と話した。

 

2020年1月16日 (木)

【ゴーン被告逃亡】弘中弁護士ら辞任✍公判見通し立たず

ゴーン被告逃亡受け、弘中弁護士ら辞任…公判の見通し立たず

読売新聞オンライン 2020年1月16日(木)12時39分配信

 会社法違反(特別背任)などで起訴された日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(65)がレバノンに逃亡した事件を受け、日本の弁護団の弘中惇一郎弁護士と高野隆弁護士らが16日付で弁護人を辞任した。主任弁護人の河津博史弁護士ら3人は弁護団に残るが、ゴーン被告の公判が開かれる見通しは立っていない。

 東京地裁では16日午前、初公判前に争点や証拠を絞り込む「公判前整理手続き」が行われ、河津弁護士が出席した。同弁護士は、検察側からゴーン被告が出国した経緯などについて質問されたが、「この手続きの中で発言するのは適切ではない」と回答したとしている。この日、役員報酬の過少記載事件で起訴された法人としての日産と元代表取締役グレッグ・ケリー被告(63)の公判について、ゴーン被告と分離することが決まった。

 弘中弁護士らは2019年2月に弁護人に就任。翌3月には、18年11月の逮捕以来、勾留が続いていたゴーン被告の保釈を実現させた。弘中弁護士は「弁護人が知恵を絞り、証拠隠滅や逃亡はあり得ないシステムを裁判所に提示した」とし、海外渡航の禁止などを盛り込んだ保釈条件について「厳守するのが我々の方針だ」と語っていた。

 先月31日、ゴーン被告が保釈条件を破り、日本を不法に出国したことが判明。弘中弁護士は同日、「寝耳に水」と語り、今月7日には「弁護人でなくなる可能性が高いため、今後、ゴーン氏について取材を受けることはない」とのコメントを出した。16日付で辞任届を地裁に提出したことを公表したが、記者会見などは行わないとしている。

ゴーン被告、ルノーに退職手当を要求…「私の辞任は茶番だ」

読売新聞オンライン 2020年1月14日(火)11時45分配信

 仏紙フィガロは13日、中東レバノンに逃亡した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が、仏自動車大手ルノーの会長職などを辞任した際の退職手当約25万ユーロ(約3000万円)の支払いを求め、昨年12月に仏労働裁判所に申し立てを行ったと報じた。

 報道によると、ゴーン被告はフィガロの取材に「ルノーでの私の辞任は茶番だ。退職に伴う全ての権利を要求する」と述べた。ルノーに対しては、年額約77万ユーロ(約9400万円)の年金や受け取っていない業績報酬の支払いも求めるという。

 ルノーは昨年1月、ゴーン被告の辞任を発表し、その後の取締役会で、退職手当などの支給を取りやめると決めた。

フランス激怒ゴーン被告の退職金要求に「卑しい」「金の亡者

MAG2NEWS 2020年1月15日(水)14時08分配信

 仏紙フィガロは13日、中東レバノンに逃亡した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が、仏自動車大手ルノーの会長職などを辞任した際の退職手当約25万ユーロ(約3000万円)の支払いを求め、昨年12月に仏労働裁判所に申し立てを行ったと読売新聞が報じている。

 フィガロの取材に対しゴーン被告は、「ルノーでの私の辞任は茶番だ。退職に伴う全ての権利を要求する」と述べた。ルノーに対しては、年額約77万ユーロ(約9400万円)の年金や受け取っていない業績報酬の支払いも求めるという。

 また時事通信は、仏テレビに14日出演した、フランス最大の労働組合、労働総同盟(CGT)のマルチネス書記長の言葉として、仏自動車大手ルノーに対して退職手当を要求している日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告を「卑しい」と非難したと伝えている。

 マルチネス氏は「ゴーン被告はルノーで数万人を解雇した。雇用と業界をめちゃくちゃにしておきながら、ルノーをクビになった従業員のように労働裁判所へ行こうとしている」と指摘。「彼は人を見下す金持ちだ」と糾弾したという。

 昨年1月、ゴーン被告の辞任を発表し、その後の取締役会で、退職手当などの支給を取りやめると決めていたルノー。今後の対応について「今はコメントしない」と述べている。

 もはやゴーン被告の評判は崩れ落ちてしまったといっても過言ではないだろう。この退職金に関する報道を見る限りでは、搾り取れるところから金をせびろうとする、ただの金の亡者にしか見えない。会見では一方的に言いたいことだけを言い放ち、挙句の果てには金の要求。辣腕を振るったかつてのカルロス・ゴーンは、一体どこへ行ってしまったのだろうか?

ゴーン被告はレバノンで豪遊?

 高額の保釈金をいとも簡単に放棄し、多くのメディアを集めて会見を開いたことで、自身の富裕ぶりと影響力の大きさを見せつけた、日産自動車前会長のカルロル・ゴーン被告。ただ、レバノンは深刻な金融危機に陥っているため、ゴーン被告は一週間当たり数百ドル前後しか現金を手に入れられない可能性があるとロイターは伝えている。

 レバノンの金融経済は過去数十年の中でも最悪な状況。外貨不足に伴って自国通貨レバノンポンドは急落し、銀行は預金引き出しを厳しく制限しているのだ。

 ゴーン被告も地元テレビのインタビューで、レバノンの銀行に海外から送金するつもりかと聞かれると「たとえレバノンに送金しても、知っての通り使うことはできない。私は全レバノン国民と同じくこの国の銀行に預金があり、週250ドルないし300ドルしか引き出せない。私が置かれた状況は全国民と同様だ」と認めている。

 レバノンでは金融危機のために企業が解雇や減給、労働時間短縮に動いており、経済情勢が悪化すれば、貧困率が50%に達してもおかしくないと世界銀行が警告。こうした危機の一因は、根深い汚職や政府の放漫財政にあるといい、レバノンの公的債務は世界最悪クラスの水準にある。

フランス大使が陰謀を教えた?

 こうした中、カルロス・ゴーン被告14日、ロイターのインタビューに応じ、被告が主張する日産による陰謀について、逮捕後間もなくフランス大使から耳にしたと明かしたという。

 ゴーン被告は「正直に言って逮捕された時はショックだった。最初に依頼したことは日産に連絡して弁護士を送ってほしいということだった」と振り返り、「翌日、フランス大使が訪れ『日産が君に反旗を翻している』と打ち明けてくれた。それで私はすべてが陰謀だと気づいた」と語った。

世界中がゴーン被告をバッシング

 自らの逮捕、解任劇について息巻いて見せた記者会見から一週間余り、ゴーン被告について同情論が薄れてきた感は否めない。ルノーに対して退職手当を要求したことで、フランスでも疑問の声が挙がり始めてきた。

日産自動車、ゴーン前会長の私的流用を指摘 東証提出の報告書で

ロイター 2020年1月17日(金)0時10分配信

 日産自動車<7201.T>は16日、東京証券取引所に提出した「改善状況報告書」で、カルロス・ゴーン前会長が会社の資金を私的に流用した可能性のある行為の詳細を明らかにした。同社とアライアンス(連合)を組んでいる仏自動車大手ルノー<RENA.PA>との統括会社「RNBV」(オランダ)との共同調査を踏まえた。

 日産は報告書の中で、ブラジル・リオデジャネイロのカーニバルやフランスのカンヌ映画祭へのゲスト招待費用、フランスのベルサイユ宮殿でのパーティー費用や、高級ブランド「カルティエ」での贈答品購入など、RNBVの業務とは無関係な費用として、ゴーン氏が少なくとも390万ユーロ(約4億7800万円)を支出したと指摘した。

 ゴーン氏による「寄付」にも言及。RNBVがゴーン氏に代わり、2009年から18年にかけて実施した学校など10機関への約237万ユーロ(約2億9000万円)の寄付のうち、9の機関は日産とのビジネスがほとんどないレバノンの学校や非営利団体だったことに加え、その多くがゴーン氏の個人名で実施されており、RNBVの業務と関係のない可能性が高い、とした。

 このほか、ゴーン氏は「アライアンス業務とは無関係な可能性が高い目的のためにコーポレートジェットを利用した」とも指摘した。行き先や家族同伴などの事実を踏まえた指摘で、こうした個人的な渡航費用が「市場価値に換算すると少なくとも310万ユーロ(約3億8000万円)に上り、RNBVが被ったコストは少なくとも 510万ユーロ(約6億2500万円)に上る」と記した。

 ゴーン氏は逃亡先のレバノンで日本時間8日夜から9日未明にかけて開いた会見で、ベルサイユ宮殿でのパーティーは日産とルノーの連合15周年を祝って行われたものであり、その場に日産幹部がいなかったのは外国のパートナー向けのパーティーだったためだと反論。日産がこれを不正とみていることについて「人格を傷つけている」と批判した。

 ゴーン前会長は会社法違反(特別背任)の罪などで起訴され、保釈中だった昨年末、日本を不正出国した。

 

2020年1月12日 (日)

【ゴーン被告逃亡】“母国”レバノン✍<逃亡劇>どう伝えたか!?

【海外の反応】カルロス・ゴーン逃亡、レバノンメディアどう伝えた

クーリエ・ジャポン 2020年1月11日(土)19時17分配信

 12月29日に日本を無断出国し、レバノンへと逃亡したカルロス・ゴーン被告。1月8日の記者会見ではおよそ2時間半にわたり、自身の主張を展開した。

一連の出来事について、レバノンのメディアの報道をまとめた。

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腐敗した国へようこそ

レバノンの情報サイト「ダラジ」は12月31日、ゴーン被告と彼を快く受け入れたレバノン政府を批判する記事を掲載した。

記事は冒頭で「腐敗した人々、レバノンの宗教制度から利益を得ている人々、”レジスタンス”の名の下に国を人質にとっている人々(注:ヒズボラのことをほのめかしている)、国の有力者たち、こうした人々は皆、カルロス・ゴーンをもろ手をあげて歓迎した」と述べた。

そして、ゴーン氏を「世界でもっともショッキングな不正行為の犯人として起訴されている男」と形容し、その男が「国民の貯金を恥知らずにも強奪する国」(注:レバノンの銀行によるドル建てでの送金や引き出し凍結の問題を示唆)にやって来たと続けた。

逃亡先にフランスを選ばず、レバノンを選んだゴーン氏については、皮肉を込めて次のように書いている。

「いずれにせよ、ゴーンはフランスよりもレバノンに逃げることを選んだのだ。フランスは彼が育ち、国籍も持ち、大企業のひとつを経営してきた国であるのにもかかわらず。なぜなら、フランスの司法は彼のような”成功したビジネスマン”に対してもっと厳しかっただろうから」

「われわれレバノン人にとって、なんと名誉なことだろう! めざましい成功をおさめていたここ数年、彼はわれわれにまったく無関心だったのに、とつぜん、母国レバノンに勝る国はないと思い出したのだ」

また、同紙は、経済危機の中、エリート層として批判を集めるレバノンの金融界とゴーン氏の近さを示す、あるうわさを紹介する。

「レバノン国民の預金を独占する銀行家たちはみな、飛行機から降りるゴーンを出迎えるために空港にいたかもしれない。なぜならその時ちょうど、レバノン中央銀行総裁リアド・サラメが新年をパリで迎えるために飛び立つところだったのだから。うわさによれば、ゴーンとサラメは空港のVIPルームで一緒になり、握手をかわしたという」

一方、同紙によれば、同じころ、レバノン経済界に批判的な映画監督ラビ・エル=アミンが逮捕されている。彼は、レバノンの金融システムを批判するコメントを添えて、サファリで殺した野生動物の横でポーズを決める銀行家の写真を投稿したため、銀行業務の秘密に関する習慣的規則を破った罪で起訴された。

このように同紙は、経済エリートに対する批判者を許さない一方で、会社の資金の流用疑惑があるゴーン氏を快く受け入れる政府を批判している。

記者会見の受け止めは?

レバノンとアラブ世界のニュースを伝えるリベラル左派のニュースサイト「アル・モドン」は1月9日の記事で、会見の様子を詳細に伝えた。

同紙は、持っているパスポートの数同様、ゴーン氏がいくつもの外国語を駆使して記者の質問に1人で対応したことに触れた上で、日本メディアの招待が少なかったことを批判した。

「17年も住んでいたのに、ゴーンは日本語を話さない。そもそも、記者会見場に入ることを許された日本人の記者はたった5人で、彼らは質問を1つしかできなかった。事件を追ってレバノンに来た日本人記者は数多くいたのにもかからず」

さらに、記事は記者会見を「都合の悪い質問を交わす技術を教えるすばらしい授業だった」と描写。ゴーン氏は「どのようにして国境を超えたのか? トルコからの旅費は誰が支払ったのか? なぜレバノンを選んだのか? ベイルート滞在は保証されているのか? レバノンの政治家と面会したのか?」といったあらゆる重要な質問をかわした、と批判した。そして、ゴーン氏がレバノンを選んだ理由は、「もちろん、それは支援を期待できるからだ」と断定している。

イスラエル入国の影響は?

フランス語で発行されているレバノンの日刊紙「ロリヤン・ル・ジュール」は、ゴーン氏の記者会見後の1月9日に「イスラエルに入国したゴーン:レバノンの法律とルノー日産元CEOが抱えるリスク」という記事を掲載した。

それによれば、レバノンはイスラエルを承認せず、国民のイスラエル入国を禁じている。また、刑法285条は、政府からの事前の許可なしに敵の領土へ入ることや、レバノン人またはレバノン在住の外国人が敵国の国民または住民と商取引をおこなうことを禁じている。さらに、レバノン人またはレバノン在住のアラブ人が、政府による事前の許可なしに敵国へ入国することも禁止だ。

これらのことをおこなえば、1年の懲役と罰金が課せられる。時効はイスラエル入国に関しては3年、商取引については特に設定されていない。また、二重国籍者もこうした刑罰を逃れることはできない。

では、ゴーン氏のケースではどうなるのか。同紙は弁護士アクラム・アズーリ氏の言葉を引用する。

「たしかに、非難されている事実は刑法285条を適用すれば、軽犯罪とされる可能性があります。しかし、検察は公訴の前に、事件が時効を迎えているかどうかを確認しなくてはなりません」

「カルロス・ゴーンのイスラエル訪問は2008年ですから、2011年に時効を迎えていることになります」

「いずれにせよ、時効期間は最長で10年なので、ゴーン氏のイスラエル訪問に関して軽犯罪とされる可能性があるもはすべて、2018年に時効を迎えているでしょう」

ゴーン氏はしばらくはレバノンに安心して滞在できそうだ。

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カルロス・ゴーンの父親は神父を銃殺し、死刑判決を受けていた

フォーブス・ジャパン 2020年1月12日(日)14時30分配信

レバノンに逃亡したカルロス・ゴーンの記者会見は、レバノンをはじめアラブ諸国でも大々的に報じられているが、衝撃的な報道が登場した。それは、ゴーンの実父、ジョージ・ゴーン(2006年に死亡)が、かつて密輸にからむ殺人事件を起こした後、いくつもの事件で死刑判決を受けていた、というものである。

ドバイのアル・アラビーヤ国際ニュース衛星放送が報じたところによると、フランスのオプセルヴァトゥール(L’Obs)の東京特派員レジー・アルノー記者が、カルロス・ゴーンの人生にせまる『逃亡者』という本を2月5日に発売する。その本に、ゴーンが6歳のとき、父親のジョージが犯した殺人事件について触れていることが明らかになった。

ただの脅しのつもりが……

アルノー記者の本を事前に入手したクウェートのアル・カバス紙によると、事件が起きたのは1960年4月17日。レバノンの村の路上で銃殺された死体が発見された。

被害者は、ボリス・ムスアド神父。3日後に5人組の犯人グループが逮捕された。その一人が、当時37歳だったジョージ・ゴーン。ダイヤモンド、金、外貨、麻薬の密輸業者であり、ジョージは検察官の取り調べに対し、「ただの脅しのつもりが最悪の結果になってしまった」と供述している。

ジョージは事件の20年前にナイジェリアの首都ラゴスでボリス神父と出会っていた。ボリスはレバノンの山岳地帯で羊飼いから神父になった人物。その神父にジョージは密輸を依頼するようになる。儲けたカネを分け合う関係だったが、「神父の欲深さに腹を立て、仲間をけしかけて脅していたら、神父を殺害してしまった」と、ジョージは供述している。

事件当時、息子のカルロスは6歳。父親は殺人で逮捕されるのだが、その後、さらなる驚きの犯罪が発覚する。

賄賂、偽札、脱出、成功

バアバダー刑務所に送還されたジョージは、「貧しそうだったので憐れんでやった」と看守たちに賄賂を配り、刑務所のドンとなった。昼間は刑務所外で過ごし、夜は刑務所に戻る形で、近くに開いた賭博所で看守や囚人たちをもてなしていたという。

同年の8月4日、仲間11名が逃亡を計画。ジョージは逃亡に加わらなかったが、脱獄に失敗して逮捕された仲間が衝撃的な供述を行う。それは、ジョージがバアバダーの地方検事、予審判事、刑事裁判所長の殺害計画をもちかけていたというのだ。これによって、ジョージ・ゴスンは1961年1月9日に死刑判決を言い渡された。

しかし、ジョージは模範囚となり、その後15年の禁固刑に減刑された。出所したのが、1970年。ところが、話はこれで終わらない。刑務所から出所した4か月後にまた逮捕された。3万4000ドルもの偽札を所持していたのだ。取り調べの結果、100万ドルの偽札をすでに販売していたため、再度15年間の禁固刑に処される。

3年後、刑務所内で自殺未遂事件を起こしたが、チャンスが到来する。1975年初頭、レバノン内戦の混乱に乗じてベイルート脱出に成功したのだ。ジョージはブラジルのリオデジャネイロに逃げて、ブラジルでビジネスに成功。2006年に死亡した。

なぜ今回明らかになるのか?

これまで敏腕経営者としてのカルロス・ゴーンにまつわる本は数多く出版され、本人も多くのインタビューでも生い立ちについて語っている。ゴーンは祖父母や母親については多くを語っているが、父親についてはあまり話してこなかった。密輸、殺人、判事らの殺害計画、偽札など、その犯罪歴を考えれば、当然といえば当然だろう。

実はこのジョージ・ゴーンの悪行は今回初めて暴露されたわけではない。レバノン歌謡界の大御所で、アラブの歌姫としてアラブ諸国では知らぬ人はいない、サバハ(2014年に死去)が自叙伝に書いているのだ。サバハは日本でいう美空ひばりのような存在。彼女が自ら筆をとった自叙伝でこのことに触れているのは、かつての恋人がジョージに殺された神父だったからだ。

レバノンを見捨てた男?

今回、『逃亡者』を書いたアルノー記者は、1960年代にベイルートで発刊されていたフランス語紙L’orientに掲載されていた殺人事件の記事に着目し、そこから丹念に調査を行ったという。

ゴーンにとって触れられたくない過去が今回明らかになる背景には、アラブ諸国でのゴーンへの厳しい見方もある。アラブ社会ではオーナー社長がワンマン経営で公私混同の好き放題をやるケースはある。ただ、ゴーンはオーナー社長ではなく、「雇われ社長のくせに何を勘違いしているんだ」という、成り上がりへのやっかみがある。

もちろん辣腕経営者として尊敬されている面もあるが、低所得者層からは「イスラエルに尻尾をふる億万長者」とか「レバノンを見捨てた男」と見られており、そうした庶民感情に応える形での暴露とも言えるだろう。

隠し続けた過去、成功、カネへの執着、元妻へのDV訴訟、そして今回の逮捕と逃亡。まるで戦後を代表する小説家、松本清張が描いてきた人間の現世欲や秘めた怨念の世界のグローバル版と言えるのではないだろうか。

 

2020年1月 4日 (土)

【ゴーン被告逃亡】出国した<日産元会長>監視の中止直後に逐電

ゴーン被告、監視中止当日逃亡 日産手配の警備会社へ告訴警告

産経新聞 2020年1月4日(土)0時21分配信

 日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(65)=会社法違反罪などで起訴=がレバノンに逃亡したのは、自身を監視していた警備業者について刑事告訴する方針を表明し、これを受け業者が監視を中止した直後だったことが3日、関係者への取材で分かった。東京地検特捜部は、ゴーン被告が監視をやめさせて逃亡を図りやすくするため刑事告訴を悪用した疑いもあるとみて調べている。

 弁護人の弘中惇一郎弁護士は昨年7月、ゴーン被告が同4月に保釈されて以降、保釈条件で指定された東京都内の住宅周辺を何者かに見張られたり、外出先まで尾行されたりしていると明らかにし、「重大な人権問題」と訴えた。

 その後、弘中氏は同12月25日、弁護団で調べた結果、行動監視していたのは東京都内の警備会社だと判明したと説明した上、ゴーン被告本人から委任状を受け、警備会社を軽犯罪法違反と探偵業法違反の罪で年内に刑事告訴すると表明。「日産が業者を使って保釈条件違反をしないか見張っている」と主張した。

 関係者によると、警備会社は日産が依頼したもので、ゴーン被告が日産社員ら事件関係者に接触して口裏合わせなどの証拠隠滅を図ることを防ぐ目的だったという。日産側は、刑事告訴するとの情報を入手し、24時間に近い形で続けていた行動監視を同月29日にいったん中止。ゴーン被告が逃亡するために、住宅を出たのは監視が外れた直後の同日昼ごろだったという。

 日産側が行動監視していた背景には、東京地裁が付けた保釈条件では、ゴーン被告が外出先で事件関係者と会うことを制限できないなど、証拠隠滅防止の実効性の乏しさがあったとみられている。

 特捜部は入管難民法違反容疑でゴーン被告の住宅を家宅捜索するなど不法出国の経緯を調べている。

住宅ローン不正横行する不動産業界の

文春オンライン 2020年1月4日(土)6時00分配信

 若者に住宅ローンを借りさせ、投資用不動産を買わせる不正が蔓延している。

 たとえば都内の飲食店で働く20代の男性店長は、店にかかってきた不動産業者の営業電話に引っかかった。「自己資金ゼロで投資できる」「賃料収入で毎月2万円の収益が出る」「家賃保証は20年」などと勧められ、2019年春に中古マンションを買う契約書にハンコをついた。

価格を倍近くにつり上げ、不正に住宅ローンを借りさせる

 資金は、長期固定金利の住宅ローン「フラット35」で借りた。業者の指示で、申請時に「自分で住む」と偽った。住民票は一時的に購入物件に移し、しばらくして元に戻す。物件は1度も見ていないという。

 融資額は約2600万円。全額が物件の代金として業者に流れた。その後、たしかに月十数万円の賃料が業者から振り込まれ、ローンの返済分などを差し引くと2万円余りが手元に残る。

 ただ、物件は築20年超で、私鉄線の駅から10分以上歩く。不動産情報サイトで調べると、同じ建物の同じ広さの部屋が約1300万円で売られ、募集家賃は9万円以下だ。

 普通に考えれば、業者が価格を倍近くにつり上げ、不正に住宅ローンを借りさせて1000万円前後の利益をせしめている。割高な家賃はその一部が還元されているに過ぎず、途中で打ち切られるのが関の山だろう。

長期固定金利の住宅ローン「フラット35」

 テレビでもおなじみのフラット35は、独立行政法人の住宅金融支援機構が民間金融機関に取り次がせて提供する住宅ローン。民間の銀行がお金を貸しにくい人でも、住まいを買えるよう後押しする使命を背負い、借り手は年収300万円前後からを対象に、正社員でなくても最長35年間の長期固定金利で貸すが、その精神が悪徳業者に逆手に取られた。

 機構は2019年12月、居住目的と偽って投資するなどの不正を162件確認したと発表した。融資額は計33億円、不正ローンに2200万円の補助金が支出されたことも明らかにした。

不正のターゲットは「年収が低めの若者」

 目的を偽ってローンを借りるのは融資契約に反するため、不正がバレた利用者は一括返済を迫られる。物件を強制処分させられ、残債を分割ででも払わされるのが一般的だが、不正利用者には年収が低めの若者が多いだけに、自己破産手続きに移る人も相次いでいる。

 ただ、機構が特定した計162件の不正事例は、都内の一部の業者が関わるものだけで、氷山の一角だ。筆者が確認できただけでも、住宅ローンの不正利用を勧める業者グループは少なくとも5つある。冒頭の飲食店店長も、まだ機構の調査を受けていない。

 しかも、不正利用はフラット35にとどまらない。確認できた範囲では、みずほ銀行や楽天銀行、中央労働金庫、そのほか多くの地方銀行でも、同様の不正事例がある。すべて明るみにでれば、事例は何十倍、何百倍にも膨らむはずだ。

新築シェアハウスを建て割高の価格で売りさばく

 2013年からの日本銀行の異次元緩和をきっかけに、金融機関は必死でお金を貸し出し始めた。金利が下がる分、同じ返済額でも多額のローンを組ませることができる。融資件数を伸ばすため、審査は甘くなり、不動産価格への評価もいい加減になりがちだ。倍の値段をつけた冒頭の物件はいい例だろう。

 2018年にはスルガ銀行による不正融資事件が発覚した。新築シェアハウスを建てては割高な価格で売りまくり、破格の家賃収入を約束した業者は破綻。億単位の融資を受けた数百人規模のサラリーマンが路頭に迷う事態となった。

 不動産業者は客の貯蓄額を示す預金通帳、収入を示す源泉徴収票など、ありとあらゆる審査資料を偽造しまくった。中古マンションの空室の窓にカーテンをかけ、賃貸契約書を捏造して高利回りを装う例もあった。

 そうした不正に多くの行員も関与していたスルガ銀行は、金融庁から不動産投資向け融資の業務停止命令などを受けた。審査がずさんで、業者の不正を見抜けなかった実情は、ほかの銀行も大差はなかった。金融庁の監視や指導が厳しくなったことも受け、スルガ銀行の事件を機に、多くの銀行が審査を厳しくした。

不正業者の多くは処分されない

 不動産投資向け融資での不正が難しくなった裏で、漫然と続いていたのが住宅ローン不正だった。理由の1つは、不正の実行役である業者にほとんど何のおとがめもなかったことだ。

 スルガ銀行の不正融資にかかわった業者の多くは、国土交通省や東京都から宅地建物取引業の免許を交付されている。その数は軽く100を超える。

 宅地建物取引業法では、宅建業者が取引の公正を害した場合や、法令に反した場合などに行政処分できるとしている。書類を偽造し、過剰融資を不正に引き出す行為が該当するのは論をまたない。

 だが、朝日新聞がスルガ銀行の不正を報じた2018年2月から年末まで、融資不正で不動産業者に行政処分が出た例は1つもなく、ようやく2019年になって数社に処分が下った程度。いずれも業務改善や一時業務停止の命令で、業者自体は素知らぬ顔で存続している。

不正を働いても、逃げれば勝ち

 不正で大金を得た業者の多くは処分されず、責任を問われることもない。店をたたんで悠々自適に暮らす者もいれば、社名を変えて次のビジネスチャンスをうかがう者もいる。そして一部は住宅ローン不正にも走っていた。

 住宅金融支援機構は今回、不正業者の情報を国交省や東京都とも共有し、厳正に対処するとしている。刑事責任を追及する検討も進めるが、スルガ銀行事件後の対応を考えると、心もとない。

 不正を働いても、逃げれば勝ち――それが日本の不動産業界の現状だ。やればやるほどもうかる限り、業者の不正は今後も続く。巧妙な手口を新たに編みだし、次のカモに狙いを定めているだろう。

 

2020年1月 1日 (水)

【ゴーン被告逃亡】赤っ恥ニッポン✍今後の展開は・・・・

◆明けましておめでとうございます。令和弐年も宜しくお願いします。いやはや…

ゴーン被告、無断出国で保釈取り消し―東京地裁

産経新聞 2019年12月31日(火)22時52分配信

 会社法違反(特別背任)などの罪で起訴されていた日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(65)が中東・レバノンへ無断で出国したことを受け、東京地裁は31日、海外渡航禁止の保釈条件に違反したとして保釈を取り消した。東京地検が保釈取り消しを請求していた。保証金計15億円は没取される。出入国在留管理庁のデータベースなどに出国記録がなく、検察当局は不正がなかったか調べている。

 英紙フィナンシャル・タイムズなど複数の海外メディアによると、ゴーン被告が日本を出国し、トルコからプライベートジェットで国籍を持つレバノンの首都ベイルートに到着した。

 国土交通省関西空港事務所によると、搭乗者は不明としているが、29日夜に関空からイスタンブールに向け出発したプライベートジェット機があった。

 日本はレバノンと犯罪人引き渡し条約を締結していないため、レバノンの了解を得られなければ身柄が引き渡されることはない。

 東京地裁は昨年4月、住居制限や海外渡航禁止のほか、妻のキャロルさんとの接触制限などを条件に保釈を決定。証拠隠滅の恐れを認めながら、許可する異例の判断に踏み切った。

 地裁は31日、保釈条件は変更されていないことを明らかにした。

 ゴーン被告は米国の代理人を通じて声明を出し、「今、レバノンにいる。私は基本的人権が無視されている日本の不正な司法制度の人質ではない。私は司法から逃げたのではない。不正と政治的な迫害を回避したのだ」と主張。「ようやくメディアに自由に話すことができる。来週から始めるのを楽しみにしている」とし、近く見解を述べる場を持つ可能性を示唆した。

ゴーン被告の在日仏人の友人が明かすレバノンへの逃亡劇”全真相

AERAdot. 2019年12月31日(火)16時16分配信

 新年を目前に衝撃のニュースが飛び込んできた。日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告がレバノン入りしたと海外メディアが一斉に報じたのだ。

 ゴーン被告は会社法違反(特別背任)などで起訴され保釈中だった。日本からどのように出国したのか、その詳細は明らかになっていないが、本誌はゴーン被告の知人らを独自取材。その足取りを追った。

 ゴーン被告が「私は今、レバノンにいる」「不正に仕組まれた日本の司法制度の人質にはならない」との声明をアメリカの代理人を通じて発表したのは12月30日。

「びっくりした。出国禁止で、パスポートも持っていないはず。どうやって出国したんだろう…」

 検察幹部はこうショックを隠せない。

 2019年4月にゴーン被告の弁護団が公開した動画以外に保釈中、ゴーン被告の動静はあまり、伝わってこなかった。そんな中、ゴーン被告と連絡をとっていた在日フランス人の友人が本誌の取材に対し、こう語った。

「ニュースを聞いて驚いた。だが、ゴーン被告がこういう行動をとることはやむを得なかったと思う」

 定期的にゴーン被告と接触していた友人の1人もこう明かす。

「ゴーンさんは、様々な点で検察、日本に怒りを感じていた。妻と長く会うことも許されず、最初から有罪ありきの検察の捜査にも非常に憤りを感じていた。当初は日本で裁判を戦い、無罪を勝ち取ると意欲的だった。だが、保釈中、いかに日本の司法制度全体が検察主導で、有罪ありきの構造になっているかを知り、絶望感を感じていた」

 そしてゴーン被告の様子をこう語る。

「例えば、ゴーンさんが逮捕されることとなった有価証券報告書の虚偽記載についても、『日産の西川元社長も決裁している。なぜ私だけが悪くなるの?』『ゴーンが有罪であればいいという捜査だ』と話していた。西川氏ら日本人を守り、ゴーン有罪ありきで進む、東京地検の捜査をアンフェアと批判していた。弁護士が同席できない事情聴取、否認すると長期間の身柄を拘束される人質司法だ。保釈中でも、妻とも会えず、『自由にならねば戦えない』と大声で話すこともあった」

 ゴーン被告は保釈にあたってパスポートを弁護士に預け、日本国内にとどまると約束していた。仮にパスポートがあっても、出国は不可能だ。

「入管に問い合わせたところ、ゴーン被告ほどの著名人なら見逃すことはないと言っている」(前出・検察幹部)

 海外メディアの報道を総合すると、ゴーン被告は12月29日~30日にかけてトルコからプライベートジェットで、レバノンに到着したという。

 どのようにして、日本を出国したのか?

「ゴーンさんには様々な友人がいます。。レバノンでは大統領にと声があがるほどの人物です。おそらく、レバノンなどの政府の外交特権を駆使して出国させたのではないでしょうか。パスポートを偽造するなど、法を犯すことはあり得ない。なぜなら、ゴーンさんは『私が悪い、悪くないではない。日本の司法制度、民主主義と対決だ』とも言っていました。戦いのためにあえて、日本脱出を選んだのでしょう」

 元東京地裁検事の郷原信郎弁護士はこう話す。

「公判前の被告人に海外逃亡されて声明まで出された。検察にとっては、まさに赤っ恥。ゴーン氏の事件、東京地裁の捜査はひどいの一言でしたから。ゴーン氏は業を煮やして強硬手段に出たように感じます。日本政府が要請して、ゴーン氏の身柄をレバノンから戻すということは、おそらく難しいでしょう。ゴーン氏は自由の身になったことで、自身の事件だけではなく、日本の司法制度の根幹がいかに問題か、徹底して訴えてくるはずです。そうなれば、検察はゴーン氏の有罪無罪どころじゃなくなりますよ」

 ゴーン被告の広報担当者が発表した声明の全文は以下の通り。

*  *  *

 私は現在レバノンにいます。もうこれ以上、不正な日本の司法制度にとらわれることはなくなります。日本の司法制度は、国際法・条約下における自国の法的義務を著しく無視しており、有罪が前提で、差別が横行し、基本的人権が否定されています。私は正義から逃げたわけではありません。不正義で、政治的な迫害から逃れたのです。やっと、メディアのみなさんと自由にコミュニケーションを取ることができます。来週から始められることを、楽しみにしております。

 ゴーン被告の逆襲から目が離せない。(本誌取材班)

ゴーン被告の友人「彼は楽器箱に隠れ機内へ…」と説明

共同通信 2020年1月1日(水)23時53分配信

 レバノンに逃亡した日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告について、長年の友人イマド・アジャミ氏は1日、共同通信の電話取材に対し、楽器箱の中に隠れてジェット機に持ち込んでもらい、日本を離れたとの見方を示した。逃亡後、ゴーン被告に「ごく近い関係者」とやりとりしたという。信ぴょう性は不明。

 アジャミ氏によると、保釈中のゴーン被告は音楽隊を呼んでクリスマスのホームパーティーを開催。自ら音楽隊の楽器箱に入ってカメラの監視をかいくぐり、協力者に住宅から運び出してもらい、待機していたトラックで移動したという。

レバノン市民ゴーン被告の入国に賛否「泥棒」と批判も

AFPBB news 2020年1月1日(水)6時52分配信

 日産自動車(Nissan Motor)元会長のカルロス・ゴーン(Carlos Ghosn)被告が保釈中に日本からレバノンへと渡航したことを受け、同被告がレバノンに所有する住宅の近隣住民らは被告の突然の帰還を歓迎した。一方で反政府デモに参加する活動家らは、被告を腐敗したエリートの一人だとみなし批判している。

 ゴーン被告は日本で報酬の過少申告や会社資金の私的流用の疑いで逮捕・起訴されたが、保釈中の昨年12月30日にレバノンに入国した。

 ゴーン被告のレバノンでの住居とされる住宅は、首都ベイルートの高級住宅地にある。ピンク色に塗られたこの住宅の前の通行状況は、普段と変わらない様子に見受けられた。ゴーン被告が住居内にいるかどうかについてAFPは確認できていない。

 近くの商店を所有する50代の男性は、大みそかを前にゴーン氏が戻ってきたことはうれしいと語り、「(日本は)彼を不当に扱った。人は有罪が証明されるまでは無実であり、その逆ではない」と静かな口調で述べた。

 隣接する建物に住む50代女性は、日本でのゴーン被告の扱いには衝撃を受けたという。女性は、「彼にこんな扱いをすべきではない」と語り、「隣人の私たちは、彼に大きな敬意を持っている。レバノン人にとって、彼は成功の最たる模範だ」と語った。

 一方、レバノンの活動家らはソーシャルメディア上で、ゴーン被告の入国は、政治と経済の二重危機に見舞われている同国にさらなる問題をもたらしたと指摘している。

 レバノンでは深刻なドル不足が起きている一方で、政治エリート層の無能で腐敗に対する前代未聞の抗議行動が1か月半にわたり継続。政治家らは、新内閣の樹立をめぐり協議を続けている。抗議運動には、政治や信条の面でさまざまな立場にある人々が参加し、同国の指導者らが公的資金を流用したと批判している。

 ベイルート・アラブ大学(Beirut Arab University)のアリ・ムラード(Ali Mourad)助教はフェイスブック(Facebook)に「カルロス・ゴーンが突然、私たちの身に降りかかった。まるでこの国には泥棒がまだ足りないとでも言うかのように」と投稿した。

 映画監督のルシアン・ブージェイリ(Lucien Bourjeily)氏はツイッター(Twitter)への投稿で、「カルロス・ゴーンは声明で日本の『不正に操作された』司法制度から逃れたと述べた。それから居心地の良い、レバノンの『効率的な』司法制度にやってきた。ここでは巨額の公的資金が毎年横領されても、政治家が汚職で刑務所に入れられることは絶対にない」と述べた。

レバノン元法相「ゴーン被告の引き渡しは無理

時事通信 2020年1月1日(水)20時17分配信

 レバノンのナジャール元法相は12月31日、レバノンの法律は自国民を外国に引き渡すことを禁じていると述べ、日本政府からの要請があったとしても、日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告を送還することは無理だと語った。

 AFP通信の取材に答えた。

 国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配された場合についても「空港や港、国境の検問所で名前が回覧されたところで、ICPOには強制的に何かを行う権限がない」と指摘。レバノンにいる限り、ゴーン被告には何の影響もないと断言した。

 被告はレバノンでの裁判を希望している。元法相は「レバノンの法に照らして罰し得る罪を犯した疑いがあれば、それも可能だろう」と述べた。その場合、レバノンの司法当局は日本に捜査資料を要求することになるが「外国での罪で起訴するのはレバノンでは無理だ」と語った。

 司法関係者もこの日、「レバノンと日本の間に身柄引き渡しの合意はない」と強調し、被告の送還は困難と述べた。レバノン外務省関係者も、12月31日時点で「日本からの連絡とか要求とか、何も受けていない」と語った。 

 

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